反撃
“失敗”と言っても、それでもこの怪物の強さは私自身が幾度となく対峙しているからよく知っている。
けれどこの洞窟内という閉鎖された環境が面倒だ。
ここにいるクロス達がいなければ丸っとこの辺周辺を地上に転移させてしまうのも手だが、あまり私の能力を知られたくないのもあるからまずは、様子見だ。
「“疾風の炎”」
少し強めの炎で様子見するが、この程度は簡単に消し飛ばされてしまう。
ただ、以前の出会った“失敗”であれば、少しは焦げるなどといった効果があったが……これは違うようだ。
そうおもっているとその“失敗”が私に向かって手を伸ばす。
どうやら私を“捕まえる”気であるらしい。
けれど素直にされるつもりのない私は、
「魔法の詠唱を二重で。……“風の揺らぎ”“終焉の炎”」
呪文の近い音を重ねて上手く魔力を使い、同時に二つの魔法を放つ。
それも先ほどよりも力が強いものだ。
これは効いたらしい。
“失敗”が自身を防御するように手を前にやり、魔王候補の仲間だった人物には飛び火をしたらしく、かすった程度で悲鳴を上げて戦闘から逃走していくのが見える。
そこで、“失敗”が動いた。
「! 速い!」
私のすぐ横を、雷をまとわせた手が通る。
紙一重でよけきれる速度であるとはいえ、今までのものと明らかに違う。
“失敗”に似ている。
でもこれは、“本当”に“失敗”なのか?
魔王候補が“魔王”になるという完成系が実は……。
いつもと同じではない?
私がその疑問に気づき、ゾッとした所で私の服の袖が掴まれる。
とっさにその部分を自分で切り落としてこの“失敗”から逃れた私だけれどそこで、離れた場所でリオネルが呻きながら、
「ルカには……手を出すな……」
「“魔王の寵愛”を受けし者は、“魔王様”のもの」
「これは“呪い”だ。“魔王”じゃない。俺は、“違う”」
「“魔王様”です」
この“失敗”は聞く耳を持たない。
繰り返しリオネルを“魔王”だと呼ぶ。
そのたびに苦しそうにリオネルは……。
それに私のことを“魔王の寵愛”を受けし者と呼ぶのはどういう意味なのだろう?
リオネルに気に入られている、だから、その魔王の“呪い”を“魔王”と認識してそれで……。
でも私は、
「リオネルを私は、呪いか何かのせいで“魔王”にするつもりはないよ? ……セレンの能力でその“呪い”が活性化したのかもしれないけれど、“そんなもの”私が押さえ込んでやる」
「……」
何故か立ち止まっているその“失敗”。
けれど今しかないと思い私はリオネルに向かって特殊能力を使う。けれど、
「! なんで効果が……」
リオネルは相変わらず苦しそうに呻いている。
瞳の赤い輝きもさらに暗く、深いものになっている気がする。
それが私にとって何よりも恐ろしく思えて、即座に目の前の“失敗”にいくつもの魔法を打ち込んだ。
この範囲であれば少し強めの力のある学生でもいるだろうくらいの魔法。
けれどこの“失敗”にはそこまでの効果がない。
魔法攻撃でなく、直接切りつける攻撃の方がいいのか?
私は倒れこんでいるリオネルのもとに今すぐ駆け寄りたい衝動にかられながら私は、普段から隠し持っている短剣を取り出したのだった。
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