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“魔王の寵愛”

 小さくそう呟いた魔王候補。

 でもそれよりもリオネルが……と走り出したい衝動にかられつつも私は、すぐに自分のすぐそばにいるセレンの様子などに気づく。

 ほかにも魔王候補と一緒にいたもう一人の仲間も何が起こったのかというかのように周りを見回しているが、それどころではない。


 すぐさま私は、このそこそこ広い部屋の一室を意識する。


「……制限範囲は……私より前方、半円状に“半径30メートル”」


 呟きに意味はない。

 けれど口に出すことで、私自身がその制限範囲を“意識”しやすくなる。

 これであとは、私の望むように特殊能力チートを使えばいいだけ。


 そう私が考えると同時に、何かがちぎれてはじけ飛ぶような音がする。

 魔王候補と呼ばれた人物が肌がみるみる黒くなり、膨れ上がる風船をつなぎ合わせたかのように大きくなっていく。

 同時に魔王と呼ばれるような濃厚な魔力が、目に見えるかのようにゆらりと立ち上る。


 少し遅かったのだろうか?

 これは失敗だ、そう私は気づいた。

 何度か魔王候補と呼ばれる人物が“失敗”してきたのを見た。


 その時こういった凶悪で強力な力を持つ怪物が生まれたのを知っている。

 だが先ほどの話から、“いばら姫”の推定からの完全回復の力で、どうして失敗が起こるのか?

 そう思っていると抱きしめていたセレンが、


「うぐっ、どうにか楽になった、けれど、うぐ……」

「……リオネル達の方に行きたいけれど、あれの出方が分からない」


 私は小さく呟く。

 一応、目の前のリオネルは膝をついているが何とか大丈夫だ。

 この魔王候補が変化するため、リオネルにも何か影響があったのだろうか?


 そう考えると私はぞっとして、今すぐにでも駆け寄りたい気持ちになる。

 だが目の前のこの“失敗”が実際にどの程度の力を持っているのかわからない。

 この状況では……そう私が思っているとそこで、その“失敗”がリオネル達の方を見た。


 リオネルに手を出すつもりなら容赦しない、そう私が思っているとそこで“失敗”が、


「“魔王様”」


 そう、リオネルとクロスの方を見て告げた。

 リオネルがびくっと体を震わせたがすぐに、


「俺は、違う。これは、“呪い”だ。“勇者”に“魔王”がかけた……」

「“魔王様”」


 けれど“失敗”は再び、リオネルの方を見てそう呼びかける。

 リオネルが“失敗”を睨みつけた。

 けれどその碧眼は私のよく知っている色ではなくて、昏い“赤”を帯びている。


 魔王候補に感じたような闇の魔力の香りがうっすらとリオネルから漂う。

 以前、聞いたあの話は何だった?

 魔王は、長い時を経て、勇者、お前の血を倒すだろうと予言をして倒された。


 けれど“血を倒す”とは、何かの“呪い”だったのでは?


「範囲限定、私の視覚内にいる“リオネル”を含む周囲。リオネルを……」


 私は特殊能力チートを使い、リオネルに処置を施そうとした。

 けれどそこで“失敗”が私の方を振り返り、


「“魔王の寵愛”」


 私を濁った灰色の眼球で見て、告げた。

 どういう意味だ、そう問い返す前に“失敗”が目前に現れる。

 とっさに私はセレンをすぐ横の方に突き飛ばし、結界を張って防御する。


 “失敗”の黒い腕が私の方に延ばされようとする。

 呪文なしの結界で、とっさの事だったからそれほど強いものは張れなかったが、どうにか指先が貫通する程度で止められる。

 その間に私はセレンを突き飛ばした方向と反対の場所に移動する。


 “失敗”は私の方に目が行っていてセレンは空気のような扱いだ。

 そこでセレンのそばに“転移”したクロスの様子が見える。

 そちらの方は彼に任せよう、そう思って私は目の前の“失敗”に意識を集中させたのだった。


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