だからわかる
耳鳴りのするような奇妙な音を私は感じた。
これが場所を転移するときの音だと、私は知っていた。
私自身の能力で似たような事も出来るし、そういった転移の魔法を使って移動もしたのだ。
だからわかる。
そしてその力は先ほどの洞くつで自然に起こったもの。
洞窟内の魔力の動きを利用したのなら、この洞窟内の別の場所への移動になるだろう。
もっともここからさらに移動となる可能性はあるけれど、
「この周りの様子からは、さらに移動しようとは思わないだろうね」
見回しながら私はそう呟く。
ところどころにある道具は、以前、魔王候補と戦った時に見かけた怪しげな道具が転がっている。
これからこの場所で、魔王になるための儀式か何かを始める気だろう。
不快なその品々に私が気分を悪くしているとそこで、
「余計なものがついてきたな」
「余計で悪かったですね」
キズヤがそう言って笑っている。
またこの笑いだ。
今まで出会った人物達は同じ笑いを浮かべる。
残酷さと嘲笑と、優越感をないまぜにしたような笑み。
私はこの笑いが嫌いだと思いながら睨みつけるとキズヤが、
「ああ。こいつを先に“生贄”にするか?」
「道具が余分にありません」
「それは残念だ。確実にこの俺が魔王となり、その隣には美しくも能力を持つわれらが“いばら姫”が寄り添う、素晴らしい……」
陶酔するようにそう言い切ったキズヤ。
それはお前の承認欲求。
そのために一体どれだけの人間を犠牲にする気なのか、と叫びたい気持ちになりながらやめる。
彼らはいつだってそうだったから。
会話が通じるならばとうの昔に、こんな“馬鹿げた”事をしでかさない。
敵対するならば戦うのみ、そう私が思っているとそこで私が守るように抱きしめていたセレンが、
「貴方は、キズヤは、“いばら姫”としてしか私を見なかったのは、このためだったのですね」
「いいえ? 違いますよ。初めから貴方には“いばら姫”としての価値しかない。そんな事も気づいていなかったのですか? 魔王候補に俺がなったかどうかは関係ない。俺という優れた人間の隣にいるべきなのは“いばら姫”くらいでしょう?」
まるで不思議なことを言われているかのようにそう彼は語る。
彼の自尊心の高さに、セレンは一瞬呆然としたようだった。
けれどすぐに、
「……だから私はあなたが嫌いです。自分勝手な貴方が」
「……そんな生意気な口はもう二度と叩けないでしょうから今は見逃して差し上げますよ。ですが……そんな風な口をきいたがために、大事な“お友達”がどのような目にあうか、その目で確かめていただきましょうか」
「! ルカは関係ない!」
セレンが焦ったようにそう私に言って、そんな私の目の前にトラのような怪物が現れる。
この魔物はと私が思っていると、
「この魔物は、炎をつかさどる魔物だ。だから炎への耐性も強くそして風の魔力を操る。その二つの力をもって、普通の冒険者ならばすぐに食い殺されてしまう魔物だ。ああ、“いばら姫”には攻撃しないようにと言ってあるから、抱きしめているお友達が食い殺されていく様をすぐそばで見ているといい。それとも、“お友達”は“いばら姫”を今すぐ見捨てて逃げ出すのも手だね。もしかしたなら逃げ切れるかもしれない」
そう告げたキズヤを、私は逆に嘲笑う。
それにキズヤはプライドを傷つけられたらしく、
「行け!」
いらだったように魔物に命令を下す。
魔王候補はよく魔物を操れるようになるなと私は思いながら、手慣れたように、その魔物に耐性のある炎を呼び出し、
「いったい誰に言っていると思っているのかな?」
私は笑いながら、目の前に現れた魔物を一瞬にして魔法で焼き尽くしたのだった。
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