“囮”だったんだ
ルカとセレン、そしてキズヤたちが消えた直後の出来事。
「ルカ!」
リオネルがルカの名前を呼んだ。
けれどそれに答えることなく、セレンを抱きしめたままあのキズヤ達と消える。
またか、とリオネルは歯ぎしりした。
ルカはすぐに、“誰か”を守ろうとする。
お人よしといっても良いのかもしれないし、彼女自身が強いから守れるだけの力があるのは、一番ルカのそばにいたリオネル自身がよく知っている。
それに一番初めに、この世界でルカに助けてもらったのがリオネルなのだ。
あの時は憧れのようなずっと一緒にいてほしいような……一目惚れのような、鮮烈な感覚を味わった記憶がある。
ずっと恋をしていて、けれど鈍感なルカは気づかなくて、だから隠してきていたというのに……。
“婚約”の話をまさかイリスがしてしまうとは思わなかった。
何も知らないままルカは泳がせておいてゆっくり外堀を埋めていき、最後に逃げられなくなった所で“婚約”で縛り付けて、リオネルから離れられないように身も心も落としてやろうと計画していたのに。
ああ、違う。
今はそれどころではない。
思考がおかしな方向に渦巻いて、ルカのことで冷静さを失っているとリオネルは自分自身でそう感じた。
そこでスールがリオネルに、
「セレン……それにルカは一緒に連れていかれた? みたいだけれど大丈夫かな」
「ルカには、物理攻撃等の無効化能力があるから大丈夫だ。ちょっとやそっとの攻撃でどうにもならない。ただ……強力な力には抗えないから、早めに見つけないと」
「じゃあ私達も……」
「邪魔だからここにいてくれ。俺は今、何をするのか自分自身でもわからない状態だ」
そう告げると、シヴァンがスールを止める声が聞こえた。
物分かりがよくて助かると思いながらリオネルは、ルカを求めて歩き出そうとするとそこで、誰かが走ってくるのがわかる。
その気配からクロスだと分かったが、振り返ったリオネルの表情を見て、彼はぎょっとしたようだった。
「お前……」
「それで、何の用だ?」
時間の無駄だと思いながらリオネルが告げるとクロスは口ごもったようだったがすぐに、
「セレンはどこだ。まさか仲間に止められるとは思わなかった」
「……お前達の仲間が魔法候補の動きに加担していたのか?」
「! 違う! セレンが、“いばら姫”自体がここに来たのは、セレンが俺を追いかけてきたいといった理由だけじゃない……“囮”だったんだ。しかも俺が反対するだろうからと知らされていなかった。……だから今その話を聞いて、仲間を何人か倒してここに……」
「残念だったな。それは手遅れだ。それを知っていた敵側に逆手に取られて、お前たちの仲間の裏切り者に連れ攫われた処だ」
「! 追いかける」
「そうか。俺のルカも一緒に連れていかれたから、俺も行く」
「……ついてくる気か?」
クロスのその言葉に、リオネルは嗤った。
「俺がルカを手放しはずがないだろう?」
「……そうか」
クロスは、リオネルのその表情を見ながら絶句して、そう答えたのだった。
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