抱きつかないで欲しい
監視対象の人間。
それはどういう意味だったのか?
私はそう思ってイリスさんを見上げると、
「まさか彼が、“いばら姫”の一族だったとは。一枚岩ではなかった、といったところでしょうか。……こちらの得ている情報元の方からも、もう少し洗い出さないといけないものがありそうですね」
「そうですか……あの人物が。魔王候補と関係のある……」
そう小さく呟く私にイリスさんが、
「一人で勝手な行動をとらないように。私も含めて、魔王候補と呼ばれる連中に対して怒りを覚えている者たちはたくさんいて、それでも我慢しているのですから」
「……はい」
私は渋々頷いた。
本当は今すぐにでも捕まえて、洗いざらいにお話を……といった感じにしたかったけれど、釘を刺されてしまった。
リオネルに何かをされる前に手を打ちたかったけれど、仕方がない。
そう私が思っているとイリスさんが深くため息をついて、
「本当にルカは、リオネル、リオネル、ですね」
「? そうだよ。大好きな幼馴染だし。昔はとっても可愛かったのに、私よりも身長が高くなっちゃって」
「……そんなに好きなら、いっそリオネルと“婚約”してはどうですか?」
そこでイリスさんが呆れたように私を見てそんなことを言い出した。
私はそれを聞いて、
「な、なんでリオネルと! リオネルは確かに可愛いけれど、私異世界人ですし」
「ですがリオネルはもう、“婚約者”に逃げられたので“婚約破棄”になっていますからね。大手を振って“婚約”できますよ。さあ、王子様を手に入れるために、傷心のリオネルを慰めてあげるのです」
「……あの~、リオネルは全然平気そうだった気が」
「人間外からでは分からない“闇”を抱えているものです。……やはり駄目ですね。リオネルは甘すぎです。ルカをしっかりこちらで“確保”しなければ」
「あ、あの……」
「そういった話も出ている、といった事だけは頭に入れておいてください」
そう淡々と言われてしまった私は、なんて事だと思ったのだった。
それから再び衣装部に戻ってくると、
「ルカが帰ってきた~、わーい」
戻ってきたらいきなりリオネルに抱きつかれた。
よくある行動ではあるが、先ほどイリスさんに言われた言葉が頭によぎって私は困惑してしまう。
リオネルは私が好きで、一緒に色々な場所に行きたいだけなのだと思う。
これまでもそうでこれからもそうやって、遊びたいだけなのだろう。
“婚約”
そんなものがある必要があるのだろうか?
むしろ私とリオネルが仲がいい事で、リオネルの人生を狂わせていたりするのだろうか?
そんな“婚約”といった話のような、恋愛的な意味での仲の良さに私たちは見えるのだろうか?
どうだろう、どうなんだろう。
本当の意味で私は、今こそリオネルから離れないといけなかったのだろうか?
混乱する頭の中、リオネルが私に話しかける。
「ルカ、どうしたんだ?」
「……リオネル、これから気軽に私に抱きつかないで欲しい」
私は、リオネルにそう答えたのだった。
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