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分かりました

 きれいな衣装に身を包んだセレンがまたも、あの人物に壁ドンされていた。

 だが今回は以前よりものその人物は切羽詰まって、苛立っているようだった。


「どうしてですか。どうして俺では駄目なのですか!」

「……私は、クロス以外に、“好き”になれないからです」

「!ですが彼は貴方を拒絶しています」

「……知っています」


 そうきっぱりと答えた。

 涙目になりながらだが。

 先ほどの、クロスの嫌い発言で逃げ出したのに、そちらに向かないあたりが……本当にクロスが好きなのだなと思う。


 ただセレンが自分で何かをしようとしているようだから、とりあえずは助けずに見守ることに私はした。

 もっとも、何かあればすぐに手助けするつもりではあったのだけれど。

 そこで彼、確かキズヤと言っていた気がするが、と思っていると、


「ここまで言っても駄目なのですか? 俺は貴方の為を思って……」

「ですが貴方は、私が“いばら姫”になってから近づいてきた人でしょう? その前は……“彼女”についていた。一番“いばら姫”に近いと呼ばれている人物、その人の取り巻きをやっていたでしょう?」

「それは……」

「そして彼にも貴方は今の私のように、口説いていた。私は知っているんです。彼女は、貴方だけは“信頼”していた。でも、貴方は“口先だけ”で彼女を信用させ、騙し、そして私が“いばら姫”になったと知るやいなや、こちらに乗り換えた」

「……」

「その手のひら返しに私は唖然としました。そして彼女が気の毒にもなりましたよ。なのに貴方は、彼女彼に語りかけた甘い夢を囁くように、私を口説くのです。……こんな所に来てまで」


 そこで、深々とセレンはため息を付いた。

 かなりきつい言い方だが、先ほどクロスに嫌いだと言われたことに対しての八つ当たりもあって、つい、これまでの鬱憤を語っているのかもしれないと私は思う。

 でも、この一見すると普通の少年が、そこまで小賢しい真似をしているとは思えなかった。


 悪人は普通の顔をしている、そんな悪人が一番恐ろしいと私はこれまでの経験も踏まえて思う。

 そう思っているとそこでキズヤが呻いてから、


「本当に可能性はまったくないのですか?」

「全くありません」

「……俺は諦めきれないです」

「諦めてください」

「……分かりました。……本当に、駄目なのですね」


 キズヤは呻くようにそう呟いて、一瞬、私は彼の瞳に不穏なものが走った気がした。

 気のせいだと私は思いたかったけれど、それが妙に引っかかる。と、


「明日魔法科と剣士科の、合同でダンジョンに潜る演習があります。その時、ある場所に来てほしいのです」

「……どうして私がいかないといけないのですか?」

「俺の勇姿を少しでいいから見てほしいのです。それすらも許されませんか?」


 そうキズヤが言うと、セレンは黙ってしまう。

 完全に拒絶をしているとはいえ、こう言われてしまうと少しくらいならと思ってしまっているのかもしれない。

 だからだろう、セレンが頷いた。


「分かりました、それぐらいでしたら構いません」

「ありがとうございます、では……」


 そう言ってどこかの場所を指定する。

 それを私は小さな声だったので魔法で集音して聞いていたのだった。


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