気持ちだけ受け取っておく
私は逃げたかったのに逃げられなかった。
可愛くしてあげましょうねと言われて、あれよあれよという間に着替えさせられて、現在口紅を塗られている最中だった。
「ここまで本格的じゃなくていいのに」
「いや、美しく可愛いものをさらに完璧に整えてしまえば完成なのです。というわけでほほに朱を少し入れて……」
そろそろ私は抵抗する意思すらもゴリゴリ削られていく。
もうどうにでもな~れ、とすべてを投げ出したい気持ちになる。
そもそもなんでうウェディングドレスをモチーフにしたのにミニスカートなんだ。
こんな足丸出し……私がやったところでどうなんだろうと思う。
しかもロングスカートの振りをして後ろの部分だけは長いとか、なんだこの服。
私は繰り返しそう考えて呻く。
そうしている内に、スールが、
「ふう、完成っと。いい仕事をしたよ。セレンもいい感じになったし」
そういうのでセレンの方を見ると……確かにかわいらしい様相だ。
ただ先ほどの会話の件もあるのかそこはかとなく顔色が悪い。
そこでスールが嗤った。
「ちなみに~、クロスはさっきこの部屋に来るよう言っておいたから、楽しみにしていてね」
「ええ!」
「……『お前の大切なセレンがどうなってもいいと思うなら来なくていいよ。ただ、気になるならこの時間に衣装部に来てね☆』と書いた紙を送り付けておいたから、そろそろ怒ってくるんじゃないかな」
得意げなスールに私は、大丈夫かなと思って隣の部屋に向かった所で、部屋の扉ががらりと勢いよく開かれた。
「セレン、大丈夫か……騙したな」
中の様子に気付いたクロスが舌打ちをする。
それを見ながらスールが、
「騙される方が悪いのです。そして、どうですか、このセレンは!」
そう言ってセレンの可愛さをアピールするスール。
けれどクロスはセレンをじっと見て、
「セレン、何かあったのか?」
「……」
「……ちょっとこっちにこい」
そう言ってクロスはセレンを連れていずこかに。
けれどしばらくたってから、うんざりしたように、
「ルカ、来てもらえるか。どうせならリオネルも一緒の方がいい」
クロスがそう言って私達を呼んだのだった。
大体呼び出されるような内容については私自身検討がついていた。
そこでクロスが、
「セレンの能力等の細かい情報を見たようだな」
「うん、今後、魔王候補が襲って来た時にどう対応するかというのもあるからもう少し詳しく知らないとと思ったんだ」
「……おれが“鍵”を持っていると知っているのか」
「うん……何? リオネル。あ、リオネルはさっきいなかったから知らないよね。実は……」
私はリオネルに説明すると少し黙ってからクロスの方を見て、
「兄さんに頼んで、二人とも監視を付けてもらおうか?」
「必要ない。ここには仲間も沢山いる」
「そうなのか? ……でももしものことがあるから兄さんにも一応は伝えておく。その方が何かあった時に、情報の伝達がしやすい」
「……気持ちだけ受け取っておく」
そう、クロスは拒絶するように答えたのだった。
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