生徒の物は俺の物
それからそれ以降、延々と本をめくってみたが特に情報はなかった。
正確には途中から魔法の素晴らしさや、道具の良さ、そして恋人と出会ったイチャイチャ記録(実はこれが一番長い……半分以上だった)がつづられていた。
結局収穫となったセレンのもう一つの能力だが、私にはよく分からない。
とりあえず外の本も調べてみようという話になるが、何冊か見てみると、仕事の愚痴やら恋人との惚気のようなものといったものがまたも沢山出てきて……。
私は疲れたように呟いた。
「これ、伝説の魔法使いの本なんだよね?」
「日記も兼ねているようだから……恋愛脳なのか? でも食事関係やこの当時の大きな出来事が記載されているから、それは歴史的な価値がある、そういってもいいのでは?」
「……でも必要な情報はそれ以上なかったね」
「少しでもあっただけましなんだろう。秘されている話であるらしいから。……この辺で止めてそろそろ夕食を食べに行かないか?」
「え? もうそんな時間? ……本当だ。丁度混む前ぐらいだから、今の時間がいいかな」
「そうそう、所で今日は俺、ここの地元特産の鍋が食べたいな」
リオネルがそんな事を言いだした。
しかも二人からこの鍋は頼めるらしい。
確かにみんなでワイワイ言いながら鍋を囲んだら楽しいよね、と思いつつ、
「……それで、野菜だけの鍋なのかな? 出来れば私、お肉も食べたい」
「“かるた豚”というこの地方特産の豚が追加で頼めるらしい。……今日は沢山食べるか」
「お肉ぅ~」
というわけで私はリオネルと一緒になって、私達は食堂に向かったのだった。
「どうしてこうなった」
それを呟いたのは、私ではなくクロスだった。
けれどセレンは嬉しそうだしスールと彼の恋人のシヴァンは何処か申し訳なさそうだけれど、
「鍋は大きくて、大人数で食べるのがいいよね。だからクロスも連れてきたんだ」
嬉しそうにセレンが言うのを聞きながら、私の意見はと思ったけれどセレンはクロスに夢中らしくその辺りの事は気づいていないらしい。
リオネルはちょっと不機嫌そうだったけれど、大きな鍋でみんなで食べるのはやはり美味しいし楽しいのでその辺りは……と思ったのだけれど、
「私達の人数だと、五人前の次は十人前だって。値段はそこまで変わらないのは……でもお肉が沢山食べられていいよね」
「確かにそうだな。割り勘だからそこまでかかっていないでこれだけお肉が食べられるのは説くと言えそうだが……」
そうリオネルが呟いた所で、足元から突然ある人物が現れた。
「ふむ、では俺も一緒に食べてやろう」
現れたのはリオネルの兄、クラウドだった。
相変わらず元気そうなのだがそこで私は、
「……生徒の物に手を出すのですか」
「生徒の物は俺の物!」
潔いクラウドのその言葉に、私はそれ以上何も言えなかった。
そこで食堂の入り口が開く。
現れたのはイリスだった。
怒ったようにこちらに来て、
「クラウド様、よくも逃げ回ってくれましたね!」
「イリスもまだまだだな~、この俺を捕まえる事すらできないんだからな。これからもたっぷりと翻弄してやろう」
「この……というか何をしているのですか」
「生徒の鍋に同伴しかかっている所だ。ほら、イリス、あーん」
「そんなもので誤魔化され……こ、これは、美味しい!」
厳しい、いつものイリスさんが、とろけるような笑顔を浮かべている。
それを見たクラウドが、
「イリス、あーん」
「あーん」
またしても口にして幸せそうだ。
それを見ながら私達も、鍋に手を伸ばしたのだった。
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