聖者の能力
本をようやく広げて読み始めた私達。
魔王と勇者、そしてその仲間のパーティの話。
どうやらある人物から聞いた話や、民間伝承のようなものを集めているようだ。
そして“聖者”。
魅了の力、そして魔力を持つ美しい存在。
優しく慈悲深い人物だったようだ。
また治療系の能力に優れていたらしい。
「どんな失った腕などでも“再生”出来る。また、壊れた花瓶も再生でき、その時は割れた破片は一部だけで十分……これ、回復魔法じゃないね。回復魔法って事にされているけれど、これ、違うよね?」
「普通の回復魔法は、魔力の回復や傷口の回復、腕の再生といった本来自己の持っている回復力の延長戦にあるものが中心だったか。だが……こういった無機物の回復は、無機物に自己再生能力はないはず」
「となると、その物体に残されている“本来の形の情報の推定”を“再現”している? それとも“時間”に干渉して“過去”を再現している?」
「“本来の形の情報の推定”……そっちじゃないか? 無機物の場合、あまりにも欠片が少ないとなると、奇妙な形の壺に変形してしまったりと、失敗する」
書いてある文章で、リオネルが指さして読んだのは私の読んでいた所よりもさらに先だった。
く、私の読む速度が遅いなんてとライバル心を燃やしながら私は、ある事に気付く。
「でも私の“ステータス・オープン”では出てこなかったな。……簡易版では出せないような重要情報だったのかな?」
「その“ステータス・オープン”で“全部”が見えるってわけではないのでは? “情報”が一部省略しているとか。いくらなんでも全部表示は出来ないだろう?」
「それでもリオネルだって“勇者”の表示が出たはずだよ」
以前リオネルを“ステータス・オープン”した時に、勇者といった表示が出たのだ。
あの時リオネルはやけにそれを嫌がっていたけれど、涙目のリオネルが可愛い……ではなく、やっぱり気になったので見たのだ。
そうしたらそういった表示がされたけれど、あれ以降リオネルが嫌がるのでやっていないが。
そこでリオネルが、
「“勇者”か。でもルカがそばにいるからきっと俺は“勇者”でいられそうだよな」
「? でも自分から人助けをしていたじゃないか。だから私は、リオネルは普通に、私がいなくても“勇者”だとおもう。だから私に構わず、一人だけで周りの賞賛を浴びるような……」
「さて、ルカをどうやって、本気を出さざる負えない状況にもっていこうかな~」
「意地悪。……やっぱりまた“ステータス・オープン”しようかな。“英雄”になっていたら笑ってやる」
そう言って私がリオネルのステータスを見ようとするとそこでリオネルが、
「もしかして、優先度の高い情報が常に出ているのでは?」
「それはありうるかな……小さいけれどその人にとって有意な能力って存在するからね。でもこんな特徴的な能力は、出てきそうな気もするけれど……あとでクロスに聞いてみよう」
「素直に話してくれるか……」
「無理だろうね。でも魅了の香りって特殊能力があるのは知らなかったな。この力があれば逆ハーレムが作れるのでは」
「あの能力は不快だ」
そこで珍しく苛立ったようにリオネルが呟く。
どうしたんだろうと思って私が見ていると、
「俺の気持ちは俺だけのものだ。何が魅了だ」
「……それもそうだね。“心”が手に入らないと悲しいしね」
「そうだな」
私の言葉にリオネルが大きく頷いたのだった。
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