音声を少し拾おうか
この学園の図書館は赤いレンガ造りのもので、所々にステンドグラスが飾られている。
それらは勇者が魔王を倒した冒険譚が主であるらしい。
何しろリオネルと一緒に、過去の勇者がどのような偉業を成し遂げたのかを延々と聞かされ、暗記させられていたのだ。
とはいえ、今回は何に巻き込まれてしまうのだろうか?
そう私は考えてリオネルから逃げる隙を狙っていたが、手を繋がれていたのでそんな機会はなかった。
こうして私は図書館内部に入り込む。
中心部が吹き抜けになった幾つもの階層に分かれた図書館。
一つの階自体はそこまで広くないが、それでもこれだけの広さとなると蔵書も多く、見ているだけで圧巻である。
所々に、魔力などのレベルで入れる、入れない場所が区切られてはいるらしいと書いてあるが、それは地下に集められた書物であって目に見える範囲の物ではないらしい。
そこでリオネルが私の手を握ったまま受付のカウンターに向かい、
「ここの蔵書一覧は何処にありますか?」
「それでしたら、この見える範囲の物でしたらここの左側にある……」
といった説明を受けていた。
私はというと周りを見回しながら、結構生徒が来て探し物をしているんだなと思って見ていると、
「……ありがとうございました。ほら、ルカ、行くぞ」
「私は逃げたいよ」
そう呟きながらそちらに連れていかれて、本の場所を探す。
案外地下に置かれてるのではと思っていたが、誰でも見える場所に置いてあったらしい。
確かあの“いばら姫”関係は王族が知っているような話じゃなかったかなと私は首をかしげるも、単に知られていなかっただけかもしれない。
やはり読みに行こう、気になるしと私が気になっているとそこでリオネルが、
「どうやらここの五階に本があるみたいだ。行こうか」
そう言って私の手を引っ張り階段を上っていくも、3階まで上がって私達はそれ以上進めなくなった。
何故ならそこでとある人物に遭遇したからだ。
「あれ、リオネルにルカ、二人ともどうしたの?」
「……スールがどうしてここに?」
「いえいえ、私もちょっと調べものがあったのと、知り合いを探していたんだけれど……今は、それよりももうちょっと気になることがあってみていたんだ」
「気になる事?」
そこで私がそう聞き返すと、スールは自身の唇にそっと人差し指をつけて静かにするよう私に促してから、
「ほら、ここからそっと見てみるといいよ。セレンが丁度、見知らぬここの生徒らしき人物に口説かれている最中なんだ」
その様子を見ているんだ、恋愛模様楽しい、とスールが言っている。
だから私とリオネルも覗き込むと、確かに何かを話しているが、見知らぬその男がセレンに無理やり迫っているというか壁ドン展開というか……セレンの方がうつむき加減なのが私は気になる。
そこでリオネルが、
「どうせだから声も聞きたいよな。……気づかれないように偽装して、音声を少し拾おうか」
などと楽しそうに言い出して、それはどうなんだろうと思いつつも私も興味があるし、セレンの表情も気になったので特に止めなかった。
そこでセレンの声が聞こえる。
「……私は貴方では駄目なんです」
そういった声が聞こえたのだった。
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