般若のお面
私の平穏で路傍の石のような学生生活が、こんなに容易に崩れ去りかけている。
「何てことだ……しかもすべてがリオネルにとって都合の良い方向に進んでいく。酷い」
「酷くないぞ。やはりルカの才能は世の中に出るべきなんだよ」
「出たくない~、日陰にこっそり咲く小さな花のように私は生きていきたい」
「可憐な感じで可愛いな~」
などと私達が延々と会話をしているとそこでスールが、
「早くしないと定食メニューが売り切れちゃうよ」
「そ、それは困る。えっと今日の定食は……」
そう思ってみているとオムライス定食と、ビーフシチュー定食が残っているようだった。
だから私はオムライス定食を選ぶも、
「もうこれで終わりだよ」
「そんな……」
私の目の前で売り切れてしまう。
正確には私の目の前のリオネルがオムライス定食を奪ってしまったがために、私の分がなかったのだ。
恨めしく思いながらリオネルを見るとリオネルは、ニカッと葉を光らせながら笑い、
「そう、ルカ。これは避けられない運命だったのだ!」
「そんな運命、ぶち壊してみせる! というかリオネルのその食事を私が……」
「でも俺もオムライスを食べたいから、ビーフシチューと半分ずつ分けるのはどうかな」
「素晴らしいアイデアです」
というわけで私達はそれぞれ定食を購入し、席に座る。
それから半分づつを分け合う事になったのだけれど、
「はい、あーん」
「あーん」
といったように私はリオネルに食べさせて、私もリオネルに食べさせてもらう。
一緒に居るのが多かったのでこういった所は昔からだよなと思っていると、そこでスールとセレンが私達をじっと見ている。
「どうしたの?」
「いや、仲がいいなと思っただけ私達も食べよう、セレン」
そう言ってスールとセレンはオムライス定食を食べていた。
半熟卵がとろとろのオムライスに舌鼓を打った私は、それから午後の授業を受けてから、寮に戻る……と見せかけて。
「クラウド兄さんの所に行って今回あった出来事を伝えておこう。後、“いばら姫の騎士”等の話を伝えておこう。もしかしたならクラウド兄さんの方がそういった事には詳しいかもしれないし」
「そうなのかな?」
「……イリスさんも詳しいかもしれないからな」
「そちらは納得できる答えでした」
私はそう答えて、学園長室に向かったのだった。
ノックしてはいると、部屋にはイリスさんしかいなかった。
周りをリオネルは見まわしてから、
「クラウド兄さんは何処に行ったのでしょうか?」
「今は何処にも行かないように、正確には好き勝手しないようにしています」
にこりと笑ったイリスさんの顔が、般若のお面のように見えたのは私の気のせいではないだろう。
そしてそれに気づいたらしいリオネルがため息をついて、
「今度は一体何をしようとしたんだ兄さんは」
「可愛い魔法使いの服の支給をまだあきらめていないようでしたので、こちらで処理しました」
「……そうですか」
「それで、ここに来たのは何か、報告があったのでは?」
そうイリスさんは聞いてきたのだった。
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