魔物の誘発
倒したその生徒からはお礼を言われた。けれど、
「Fランクでしたよね?」
「!」
これは、まずい。
もしもこのまま気づかれれば、あっという間に学園内に私のことが知れ渡りそして、気づけば都市でのやらかしも……。
そうなれば平穏な学園生活がいとめなくなってしまう。
折角の魔法世界だというのに、私は、それを楽しめなくなるのは嫌だ。だから、
「今倒したのはリオネルです」
「え? えっと……」
「リオネルが力を貸してくれたからです。そういう事で!」
「は、はあ……」
助けた生徒がそんな間の抜けた声を上げた。
そして次の敵のいる場所に私達は走っていく。
その間に私は、この画期的な方法について考えていた。
つまり、リオネルの力を貸してもらったと言えば、これで私ではなくリオネルが倒したことになる。
「よし、これから倒したのは全部リオネルが倒したって事にしておこう」
「……競争のカウントは、俺のものにしていいのか?」
「それはだめ」
「仕方がないな……ほら」
「うごっ」
そこで私は頭から何かをかぶせられる。
それはリオネルのフード付きのローブだった。
私の物は先ほど、スライムに美味しく溶かされてしまって使い物にならなくなっていたのだけれど、リオネルは私よりも身長があるので少しぶかぶかだけれど、
「大きい分私の顔が隠れる!」
「ルカが全力で隠したがっているからな。これでどうだ?」
「た、助かるよ」
「お礼はその内、“体”で支払ってもらうからいいぞ」
そう返してきたリオネルに私は、
「そういう言い方をされるとエロく感じる。普通に冒険につき合わせるでいいじゃないか」
「ん~、折角だから?」
「……こういうエロワードは私に対してだからいいけれど、他の人にはしちゃだめだよ? 引かれちゃう」
「ルカだけだから大丈夫だよ」
「それはそれで複雑」
他の人に言わないのならリオネルが変態と思われたりしないが、親友である私に延々と言うのもどうかと思う。
そう思っているとそこで、
「ルカは何も分かっていないな」
「何が?」
聞き返すとそこで魔物がリオネルに倒される。
「この油断が実は俺の計算通りだったらどうする?」
「? どういう意味?」
「二通りの意味がある。つまり……」
そこで更に現れた魔物を次々と倒していくリオネル。
それを見て私は、
「リオネル」
「なんだ?」
「どうしてこんな風に必死になって魔物を倒すの!」
魔物という獲物をとられて私は悲鳴をあげた。
それにリオネルは笑う。
「こうやって会話をしてルカの意識をそらしている部分もあるのだ」
「なん……だと?」
「ルカには可愛くなってもらおうな」
その時のリオネルの笑顔は私は忘れられそうになかった。
そうしてさらに倒していくとようやくその呼び出された危険な魔物の類は倒せそうだった。
一息ついたので私はリオネルに、
「まったく、でもあれ行こうあの石は見かけなかったね」
「誘発されて魔物が大量に生まれたみたいだな。でも他に居なくてよかったよ」
「うん、またリオネルを狙っている、“魔王”になりたい人たちが来たのかと思ったよ」
「“魔王”になるための“生贄”ね……そんなもので、本当に“魔王”としての力が手に入ると思っているんだか」
珍しく冷たい声でリオネルが呟く。
今までの経験からそうなってしまうのは分かった。
でも辛いのだろうと思って私は、リオネルの手をぎゅっと握り返したのだった。