本日のスライム
こうして逃げだした私達は更に森を進んでいく。
この森は比較的明るく、湿っていない感じがする。
とはいえ、薄暗い森よりも、“アレ”が出にくいとはいえいるはずなので、警戒するに越したことはない。
奴らは常に、私達の隙を狙い、その存在を葉の中に隠しているのだから。
「出来れば、“スライム”限定でのマップも作りたいところだけれど、それで他の敵を見落とすのも怖いからできないよね」
私が呟くとそこでリオネルが呆れたようにため息をついて、
「なんだ、ルカは未だにスライムが怖いのか」
「こ、怖いに決まっているじゃない! 私があのスライムに、一体どれほど苦渋を飲まされた事か!」
「……弱い魔物じゃないか」
「弱いけれど数が多いし、それに張り付いて私の服を溶かすし!」
「その程度の無害な魔物じゃないか」
「そ、それに肌を這ったり、皮膚から吸収される媚薬の効果があったり、痺れさせたりするじゃないか」
「その程度はほとんど無害だろう。なのに何でルカは抵抗しないんだ」
「分からないよ。私の意識の隙間を縫うように襲ってくるんだもん」
「なるほど……だから今もこんななのか」
リオネルが何かを納得したように頷いた。
同時に何処からともなく棒の方にべチャット、何かが落ちてくる。
ひんやりとした感触と、もぞもぞ動く感覚。
恐る恐るそちらを見ると、
「ス、スライムが、なんで!」
「あ~ やっぱり気が付いていなかったか」
「! 気づいていたなら教えてよ!」
そう私が叫んでいる間にも更に幾つもの色とりどりのスライムが私や、スール、セレンに襲い掛かってくる。
セレンが悲鳴を上げている。
そしてスールはというと、ドヤ顔で、スライムに服を溶かされている。
「な、何でスールはそんな顔でとかされているんだ!」
「だって私が可愛くて襲われるのは当然じゃないか!」
そう言い切ったドワーフであるらしいスールの言葉に私は、こういう人だったよねっと思った。
そうして堂々と服を溶かされている女? らしいスールは置いておいて私は、リオネルのある様子に気付く。
「! リオネルはどうして襲われないんだ!」
「襲っても美味しそうじゃないからじゃないか? この中だと男は俺だけだし。女専門なのかも?」
「そんな! あ、そこ、だめっ、やぁああっ、そんな所溶かすなぁあああ、リオネル、助けっ……」
「ルカが俺といっしょにがんばるならいいぞ~」
「絶対に嫌っ! ちょ、ま、待って、服の中に入ってっ、ぁああっ!」
「そっか~、ルカがそういうつもりなら、しばらくは俺もルカのスライムプレイを楽しもうかな~、何時でも俺を頼っていいんだぞ~」
といった薄情な言葉を私は聞いた。
酷すぎる、私がそう思っているとそこでセレンが、
「ふええん、こんなのやだぁ、クロスぅ~」
「……だから帰れって言っただろう」
怒ったように、何処からともなくセレンの追いかけていたあのクロスという人物がやってきて、セレンにまとわりつくスライムを倒した後周辺のスライムも消し去る魔法を使う。
なかなかに魔法の使いになれているようだ。
おかげで私も助かったのだけれど、そこでセレンが、
「クロス、ありがとう」
「……」
けれどクロスは再び何も言わずにそこから去って行く。
それでもセレンは嬉しそうだった。
そんな二人を見つつ、すぐにどこかに行ってしまったクロスを見ながら、マップでここからいなくなったのを私は確認しつつ、
「呼んだら来るんだね」
「……私が危機に落ちた時だけは、クロスは助けてくれるんだ」
そう、とても幸せそうにセレンは微笑みながら答えたのだった。
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