奪えなかった
リオネルから必死になって入部を取り返そうとした私だけれど、私はそれを取り返すことが出来ない。
「返して、返して」
「いやだね、ルカの名前を書いてやる」
「やめろ、って、って、ああ!」
そこで器用に、さらさらと私の名前などを入部届に記載されてしまう。
何とか奪い返さないとと必死になる私。
けれど取り戻す事すら出来ない。
「こ、こうなったらイチかバチか、とりゃぁ」
そこで私は、リオネルを押し倒すように襲い掛かった。
驚いたようなリオネルの顔。
この油断を利用して私はリオネルから紙を奪おうとした。
だが私がリオネルからその紙を奪うよりも早く、リオネルの手から私の入部届が消えた。
「! 何が起こった!」
「私が頂いてしまったのです。じゃあ今日の放課後を楽しみにしていてね」
「ま、待って、って、うわぁあああああ」
そこで私は、バランスを崩してリオネルの胸にそのまま飛び込むような恰好になってしまう。
それをリオネルは完全に受け止めることが出来ずそのまま後ろ向きに倒れ込んでしまう。
大きな音がした。
そこで呻くようなリオネルの声がして、
「うっ……背中は痛かったけれど、これはこれで……ありだな」
などと言っている。
対する私はリオネルを押し倒したように床に倒れている。
リオネルの肩幅が大きくて、私がすっぽり抱きしめられてしまうくらいなんだと今更ながら妙に意識してしまった。
それにこの格好は恥ずかしいが、すでにこの部屋には私とリオネルしかいないので問題ない。
そしてリオネルには痛い思いをさせてしまったと私は思ったけれど、“ありだな”などと言うリオネルの言葉を聞いた私は、
「何を言っているのかよく分からないけれど、とりあえず大丈夫そうで……ふえ」
そこでリオネルが私を抱きしめた。
「は、はなしてっ、何するっ」
そこで私はリオネルの頭を軽く叩いた。
するとリオネルは真面目な顔で、
「……よし、これぐらいルカを抱きしめておけば、スールはもう逃げ切れただろう」
「……まさか、それが狙い!」
「今頃入部届が受理されているだろうな。退部届は部長のサインが無いと退部できないから、難しいだろうな」
「く、くぅ、こうなれば、全力で格好いい感じの服を手に入れるんだぁあああ」
「よし、頑張って俺は、ルカに可愛い服を着せて楽しむか」
「こ、この……私だってリオネルに可愛い服を着せてやる」
「あ~、俺だとそれでも綺麗かもしれないな(ドヤァ」
私は冷たい目で、リオネルを見つめた。
そんな私に機嫌を治せよ、というかのように軽くリオネルは私の額にキスをしてから、
「それよりも早くお昼を食べに行こう。午後は魔法演習で近くの森を散策らしいから、体力を使うぞ」
などと私に言ったのだった。
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