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最弱なのに逃げ足の速い金の卵



 リオネルと寮でも同じ部屋だった。

 ああ、私はどうしてこのような事に、しかも二人部屋なので他の子と仲良くなる機会もない。

 

「ああ、また私は毎日幼馴染の顔を見て起きるという展開に。折角離れたのに」

「ルカの方こそ俺からどうして逃げられると思っているんだ?」

「私、今回は綿密な計画を立てたのです。でも、意味がなかったみたいだ。酷い」


 私が小さく呟くとリオネルが笑う。

 おかしくてたまらないというかのようなその声に私はむっとして、


「そんなに笑うことないじゃないか」

「ふっふっふ~、やはり俺の方が一枚上手だったようだな」

「王子様権力は、侮れない物だとよく分かったよ。でも今日は疲れたし、もう寝るね」

「俺も~」


 といった話をして私は眠ることに。

 そして私は真っ先に下のベッドで眠ろうと、パジャマに着替えて布団にもぐりこんだのだけれど、


「……どうして私のベッドにリオネルが入ってくるんだ」

「一緒に寝ようかと思って」

「昨日寝たからいいじゃないか」

「何を言っているんだ、これからもずっと、だぞ?」


 私は初め何を言われているのかよく分からなかった。

 それから少し考えて、


「そろそろ一人で寝ようよ」

「ルカが逃げていきそうだから嫌だ。実際に逃げたし。黙ってこんな辺境の学園に来たからな~」

「……そもそも婚約者がいるのに、いつまでも“親友”の私とばかり一緒にいるのはどうかと思う」

「だからその婚約者からは婚約破棄されたと、何回言えばいいんだ?」

「いや……うーん、リオネル、一つ聞いていいかな」

「何だ?」

「何をやったの?」


 リオネルは沈黙した。

 それに私はまさかと思いつつ、


「リオネル、まさか自分の婚約者を他の男に寝取らせるのに快感を感じるタイプとか?」

「……俺、ルカの中でものすごい変態になっている気がする。というか普通そっちじゃない気がするけれどルカは鈍感だからな~」

「な、何が鈍感だ。私はきちんと空気が読めるよ!」

「違った、ルカは自分の事と俺の事には鈍感なんだな。さて、早くいかないと朝ごはんの時間が無くなりそうだ」


 言い出したリオネルに私は、誰のせいだと心の中で小さく思ったのだった。







 食堂に向かっていく最中、遠くの方で部活勧誘をしている人達を見かけた。

 私の世界であるようなことがこの世界でもあるんだなと私は思った。

 その時は。


 それから食堂で簡単な食事をとり、再び寮に向かって必要な教材を……と、リオネルと一緒に向かったまでは良かった。

 否、リオネルと一緒だったのが間違いだったのだ。

 部活勧誘の活発なこの時期のこの場所は危険地帯だったのだ。


 寮に向かって私とリオネルが歩いていくと先輩らしき人物が、


「君がリオネル君だね。ぜひうちの筋肉増強部に入らないか?」


 私はちょっとだけ心が惹かれた。

 だがそんな私の手をリオネルはつかみ、


「生憎入る予定はありません」

「でじゃこの“疾風のマラソン部”はいかがかな? 魔力で体を増強し、速さを競い合うのだ」

「いえ、遠慮します」


 リオネルへの勧誘。

 それが次々とこのように来て人だかり状態に。

 昨日の試験結果で集まって来たのだろう、だが私としてはあまり目立ちたくなかった。


 そこで深々とリオネルが嘆息し、私の方をちらりと見て嗤った。

 嫌な予感がした。


「このルカと一緒なら、俺、入っていいですよ。……筋肉増強部以外」


 名指しされた筋肉増強部は悲しそうにその場を去っていった。

 そして他の部活の勧誘員全員の視線が私に集まる。そして、


「なるほど、お前を口説き落とせばリオネルが来るのか」

「では我々の全力を持ってお相手しよう」

「我々から逃げられると思うなよ」

「地の果てまで逃げたとしても追い詰めてやろう」


 不穏な言葉が次々と浴びせられた私は凍り付くもそこでリオネルが、


「では、よろしく。ルカ、頑張ってな」

「リ、リオネルの裏切者ぉおおお、ひぃい、いやぁああああ」


 そこで手を伸ばしてきた勧誘員たちから私は、私の全力を持って逃走したのだった。


















 こうしてリオネルに裏切られた私は、襲い来る勧誘員たちから逃走していた。

 だって目立ちたくなかったんだ、というよりも、


「あの鬼気迫る形相が怖いいいいいい」


 あの表情は、覚えがある。

 それは城では特に温厚といえる、メイドのリリさんの大事にしていた花を、不可抗力で踏んでしまった時だ。

 そしてそれを目の前で目撃されてしまい、その後は……。


 思い出してはいけない記憶の扉を、数回ノックしたような感覚に陥った私は、すぐさま、あの時は私の特殊能力チートで直したんだと思い返した。

 だから何の問題もないし、あのメイドのリリさんもあの後大人しくなっていつものようになった。

 だからあの時と今では状況が違う。


「な、なんで私が全力で逃走しているのに追いつかれそうになっているんだろう?」


 私は逃げながら呟いてみたが、何も思いつかない。

 私、それなりに自分の能力が凄いって分かっていたのだ。

 なのに今、多分普通な生徒たちに追いかけまわされている。


 ちなみにリオネルは私を見捨てて、寮に教科書を取りに行った。

 リオネル、許すまじ。

 そう思っていると背後から声がする。


「あのリオネルと一緒に居る少女は、逃げ足が速すぎないか?」

「肉体を強化しているだけではないな」

「風の魔法を操っているようだ」

「だがあの軽やかな動きはあの筋力では説明がつかない。重力も一部キャンセルしているのでは」


 などと私の魔法が分析されていく。

 さすがは魔法の学校の生徒というべきなのかもしれないが、


「だがFランクだろう?」

「最も弱いはず」

「けれど我々が追い付けない」

「そしてあの、リオネルという大型新人が気に入っている人物」


 何故か詳しい私の情報もいくらか彼らはもっているらしい。

 そして共有されてしまったようだ。

 そこで彼等は口をそろえて、 


「「「最弱なのに逃げ足の速い金の卵がぁあああ」」」


 といって彼等は更にスピードを上げる。

 もう無理だと思った私は、そのまま木の影に飛び込む。

 正確には下草の生い茂った場所だ。


 そこに隠れたように見せかけて転移魔法を使う。

 目的の場所は、私の寮の部屋。

 一番の安全地帯、そう思って転移するとそこには、


「あれ、遅かったな」

「リオネル……りーおーねーるー」


 そこには私を生贄に差し出した、リオネルがいた。

 もうこんなやつ幼馴染じゃない、そう私は心の中で涙を流しているとそこでリオネルが、


「どうだ、凄く悪目立ちしただろう。というか今まで走っていたのか?」

「そうだよ、必死になって逃げたよ」

「なんですぐに隠れるように転移魔法を使わなかったんだ?」

「だってそんな特殊能力チートがあると、問題だし。Fランク返上しないといけなくなるかもしれないし。目立つし」

「先輩たちに追いかけまわされていた方がよほど目立つと思うけれどな~」

「誰のせいだ誰の!」

「何処に行ってもルカは目立ってしまう運命だったのです」

「この……く、時間がない、もう行かないと。リオネルに怒っている時間がない」

「そうだな。場所はもう覚えているから一緒に行こう」


 そう言って私が怒る前に、教科書を用意し終わった私の手をリオネルが引き、授業を受けに向かったのだった。


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