入学式がやって来た-3
突然目の前に飛んできた黒い革製の首輪。
あ、やっぱりいたんだ、よかったと私は思った。
そこで黒い首輪が巻き付いたのに気づいたらしいクラウドが、
「な! こ、これは俺の天敵のイリス! な、何故! 今頃城で焦っているはずなのに」
「……相変わらず愚かですね、クラウド殿下。貴方の行動などすでにお見通しなのですよ」
そう告げて、すっと何処からともなく現れたのはイリスという、長い黒髪を一つに束ねた赤い瞳の女性だった。
美人で冷たいい印象があるが、懐に入れた相手には実は結構甘いのを私はよく知っている。
表情があまり変わらないが、時々私達は飴を貰ったりしていた。
ちなみにこのイリス、頭が良くて、魔法の才能も有り、以前クラウドと山に遊びに行った時、手練れの暗殺集団が襲ってきたがクラウドの出番はなかったらしい。
そんなイリスは根性で大抵何でもできてしまうので、細めの美人の女性でありながら、“脳筋”な所がある。
また、この人だからこそクラウドを止められる部分もある。と、
「まず、貴方のお気に入りがこの学園にこようとしているがために、密かに学園長になる算段をしていたといった情報を手に入れました。その話も含めてすでに王とクラウド殿下のお母様には全てお話ししてあります。そして、それから私は根性で特殊能力の転移魔法を手に入れて、ここの新しい校長として貴方のお目付け役としてきたわけです」
「ま、まて、そんな簡単に転移魔法が……」
「クラウド殿下を城にお連れして仕事をさせるにはこの方法しかありませんでしたから。これで、ここの学園長業務をしながら城でも、王太子としての業務がこなせますよ」
「く、初めからこのつもりだったから、こんな簡単に学園長になれたのか」
「そうですよ。そして変な事を言い出すのは予想がついておりましたので、事前に制服に関しては元の普通のものを用意させていただきました」
「なん……だと……」
衝撃を受けたように固まるクラウドに勝利の笑みを浮かべたイリスがそう告げた。
そして首輪をつけられたままがっくりと膝をつくクラウド。
イリスが呆れたようにそれを見ている。
だがそこですぐに顔を上げたクラウドが、
「折角の、折角の私の楽しみをぶち壊しおって。私に何の恨みがあるんだ!」
「恨みというより、クラウド殿下はそれ相応の行動をとってください。でないと……」
「でないと?」
「私は実家に帰ってスローライフを堪能します。王宮にはもう二度と近寄りませんのであしからず」
そこで初めて、イリスが微笑みながらそう告げた。
私は知っている。
このイリスは、怒った時このようなな笑顔になると。
それに気づいたらしいクラウドが凍り付いていたが、すぐに、
「こ、この私に逆らって許されると、ぐえっ」
そこで首輪のついた鎖を引っ張り、そのまま耳元でイリスが何事か囁いた。
クラウドが真っ青になる。そして、
「それで、後は私の裁量で構いませんね」
「……はい」
「全く、変な服を着せようとしたり、それはセクハラですよ」
「……」
「今、隙あらば、変な服を学生に着せよう、そう思いましたね?」
その言葉にクラウドは大きく首を振るも、そのまま首につけられた鎖を引っ張られて、イリスに連れていかれてしまう。
世の中広いといっても、次期国王をここまでの扱いが出来るのはイリスだけだろう。
そう思っているうちに、ようやく波乱に満ちた入学式が終了し、そこで私はある人物に声をかけられたのだった。