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異世界で英雄になった私は、平凡を偽装する予定だった

 私、岩朝瑠歌(いわさ るか)が異世界にやって来たのは私が六歳の時だった。

 その日はお天気雨の日で、空が晴れているのにふっている雨が綺麗で虹がかかっていて。


「虹のふもとには宝物が埋まっているんだって! よし、追いかけてみよう!」


 そう思って私は走って行って、それにあまりにも夢中になってしまっていたからだろう。

 気づけば私は見知らぬ場所に立っていた。

 それまでは、アスファルトの地面と、ブロック塀に囲まれた住宅が並ぶ道を走っていたはずなのに、今は茶色の土の剥き出しの場所で、周りは木々に囲まれていて、そして。


「君は、誰?」


 そこで私は、恐る恐るといったようにか細い澄んだ声で問いかけられた。

 振り返ると、そこにはヒマワリが咲いたのかと思うくらい、鮮やかな金色の髪が目に入る。

 陽の光を浴びて、一本一本が金糸のように輝きながら風に舞い、瞳はまるでペリドットのように鮮やかな黄緑色に輝いている。


 服装からは私と同じ男だと分かるけれど、こんな綺麗な子を見たのは初めてだった。

 男装の美少女だと言われても信じてしまいそうな程だった。

 そしてその子は今、涙目になって私を見ている。


 どうしたのだろう、そう私が思っていると、


「なんだ、もう一人子供が増えたぞ」

「彼が何かやったのでは? ……ですが可愛い子供が二人に増えたのは、都合がいいですね」


 気づけば私達のすぐそばに二人の大人が立っていた。

 元々いたけれど私が気付かなかっただけなのかもしれない。

 そこで大人の一人が、


「では始めましょうか。この子供達の血によって、私達が本物の“魔王”となるのです!」


 物騒な事を、と私が思っているとそこで、もう一人の大人が大きな鎌のようなものを取り出した。

 陽の光に銀色に輝くそれに、私は凍り付く。と、


「おい、こっちの子供は、魔力封じはしなくていいのか?」

「別にかまわないでしょう。この子供からは、魔力も何も感じませんから。ただの子供……けれど生贄には都合がいいですね」


 不気味に笑う子の大人達に、私は誰か助けを呼ぶべきだと思った。

 だから私はすぐそばにいた綺麗な子の手を握りしめて、その場所から逃げようとした。

 けれど、彼の手を引っ張るとすぐに、ちゃりっと、金属がこすれる音がする。


 音のした方を見ると、この綺麗な少年の足には金属の鎖が巻き付けられて赤く腫れていた。

 少年が逃げられないように拘束していたのだ。

 私はその鎖を何とかして解こうと思う。と、


「き、君だけでも逃げなよ」

「でも……」


 その時私は、この子を助けたいと思った。

 後から考えればこの大人達からは私だけが逃げてもすぐに捕えられてしまっていただろう。

 もしそうならば、その後に私が運よく助かったとしても、私は、それからずっと、その子を助けられずに後悔しただろう。


 それとも彼が悲しい運命をたどることになって、それを私は後悔しただろうか?

 けれどそれらを私は考える必要はなかった。

 だって私は逃げなかったのだから。


 必死になって鎖をほどこうとする私の傍で、風を切る音がする。

 振り返るように見上げると、銀色の大きな鎌が青白い光を纏いながら、私へと降り下ろされる最中だった。

 これは武器に魔力を纏わせたものだと後で知ることになるが、その禍々しさに私の血がざわめく。


 しかも、視界の端に振り下ろした男が、にやついた笑顔でいるのが見える。


下種げすが!


 強い感情が私の中で膨れ上がった。

 そしてそれは、不可視の力、空気の流れとなり甲高い音を立てて私に振り下ろされようとしていた鎌に突き刺さり、鎌が砕け散る。

 その鎌を振り下ろした男が、不思議そうな顔をして私を見た。


 そして私はその男を睨み付ける。

 この男達は、“悪人”だ。

 多くの子供がそうであるように、ひーろーもののものがたり正義に憧れ、敵を憎むように私は、彼らを“許せなかった”。

 もともと男勝りな所もあって、ヒーローもののテレビなどを見ていた影響かもしれない。


 知識があったわけではないし、それは私自身の感情に誘発された、拙い能力の発露だった。

 再び風が吹き荒れる。

 鎌を持っていない方の男は魔法使いのようで、私のその力を打ち消そうとしたけれど、無理であったようだ。


「何だ、何なんだお前は!」


 絶叫するように、驚きの表情を浮かべた男が私の魔法によって倒される。

 殺す、殺さない、は考えなかった。

 ただ倒せればいい、そう思っていた。


 だから気絶させる程度に、彼らをその時は倒せたのかもしれない。

 それからそのこの鎖を引きちぎりたいと思うと引きちぎれて、それが私の魔力や魔法によるものだと知る。

 鎖に囚われた彼から教えてもらった。しかも、


「もしかしたら、この魔道具のせいでルカを呼んでしまったのかも。母方の血筋がずっと受け継いだお守りのペンダントなんだ」


 金髪の美少年、名前はリオネルというらしい彼は、そう言って銀色の円盤に、血のような赤い石で幾何学模様が描かれた“お守り”を見せてもらう。

 それに私は触れてみるけれど何も起こらない。

 こうして私はこの世界から元の世界に戻る方法を探すことになった。


 しかもこの助けたリオネルは、王子様であったのだ。

 助けたのもあって私はリオネルに懐かれて、


「将来はルカのお嫁さんになるから、ルカを僕に頂戴?」

「私、女だし異世界人なんだけれど……」

「異世界人でも構わないよ。だから、駄目?」


 可愛いリオネルにお願いされて、つい六歳の私は頷いてしまったのだった。

 そして元の世界に戻る方法を探しつつ、私の能力を見極めたりした過程で、私には武器を操る才能もあったらしいとしる。

 だから私は剣士としても才能を発揮する。


 元の世界ではそこまで体も上手く動かなかったのにここでは動く。

 それは私の中に内在している魔力の影響であるらしい。

 そんな体の変化は身体能力だけではなく、何故か瞳の色が水色になっているおまけがついたりした。


 また、すぐにでも元の世界に戻る方法は分かった。

 どうやら眠っている間はこの世界に来て、起きている間は私は元の世界にいるようだ。 そういった意味で私の体は、この世界でも元の世界でも都合よく成長しているようでもある。


 ちなみにどうして一番初めは外に出ていたと思ったのに、この世界に紛れ込んだのかというと、虹に夢中になっていた私は車と接触事故を起こして意識不明になっていたらしい。

 運が良い事に特に後遺症も残らなかった。


 それからリオネルにまた来てねとお願いされていたのもあって、二つの世界での生活をも始める。

 リオネルはああ見えて、活動的で、しかも魔法の腕も剣の腕も優れていた。

 それもあってか私はリオネルに連れられて盗賊退治などをすることに。


 危険だとは思ったけれど、私はリオネルと一緒に居るのが楽しかったので、こっそり城を抜け出したり、それがばれて私もリオネルと一緒にお勉強をさせられたりした。

 そんな中で剣の練習や魔法の練習も行い、気づけば魔王(偽)やら盗賊やら、違法な奴隷商やら……倒してしまっていた。

 おかげでここでは、過去にリオネル王子を助けたこともあって私は、英雄扱い。


 それが息苦しく感じていたのもあったけれど、リオネルと一緒に居るのは楽しかったのもあって特に気にしていなかった。

 そんなある日私が魔物を倒すのを見て、


「これなら本物の魔王も倒せるかもしれないね」


 リオネルが楽しそうに笑いながら私に言う。

 それに私が、


「確か、魔王は、長い時を経て、勇者、お前の血を倒すだろうと予言をして倒されたんだっけ。そして……」

「そう、僕は勇者の家系なんだよね。だからもしも何かあった時は、ルカが守ってくれないかな」


 リオネルが私に言う。

 リオネルというか、この王家自体が勇者の血統なのだそうだ。

 ちなみにこの王家にはお妃も王子も、リオネルとその母以外にも何人もいる。

 ただ私が思うに、


「リオネルは私が守らなくていいくらい強いじゃない」

「えー、お嫁さんに薄情だなルカは」

「……私よりも背が高くてイケメンなリオネルが、何を言っているのよ。というか普通にお婿さんで良いと思うのだけれど、お嫁さんていうのが好きだよね、リオネル」

「うん、俺の方がヒロイン力が高いらしい」

「……私も女子力を高めなければ……」

「ルカはそのままでいいと思うけれど」

「いえ、これは女としての戦いなのよ!」


 そう私が言い返すと、リオネルが困ったように苦笑した。

 この前、十六歳の誕生日を迎えた私とリオネルだが、リオネルは昔の美少女のような可愛さは完全になくなり、イケメンになっていた。

 それに過去の、子供の頃の約束が守られるわけがないと思う程度に大人になっていた私は、リオネルのその“冗談”を受け流し、一番の“親友”としての立場を手に入れていると思っていた。

 男と女ではあったけれど、とても近い幼馴染な彼とは親友でいられる気がする。


 ただ最近リオネルに婚約者の話が出ているのを聞いて、そろそろ私もこの世界でどう生きて行こうか考えるべきだなと思ったのだ。

 婚約者との仲を深めるには、私はあまりリオネルの傍にいない方が良いだろうと思ったのだ。

 それに、私がいなければ一人で無茶な遊びをしてもつまらないだろうし。


 しかももう一つ思う所が私にはあった。

 つまり、それまではちょっと調子に乗って、“色々と”やりすぎた。

 で、でも若気の至りという物があると思うわけで、私は英雄としてこの城周辺や一部では顔や名前すらも知れ渡っていた。


 それが窮屈で、だから、そろそろ平凡になるために、王宮の客人ではなく扱われたかったのだ。

 さらに付け加えるなら、こういったファンタジーな世界の学園にも通いたいという気持ちも私にはあった。

 だからリオネルには内密に事を進めて……私は、魔法使いの科目がある、この国ではあるけれど辺境の魔法学園に入学することにした。


 正確には試験を受けに行く、だが。

 その筆記試験に合格すれば、見かけ上、魔力が“ゼロ”の私なので、最弱魔法使いとして通るはずなのだ。

 いつもは剣などの武器を扱っていたので、剣士としての英雄として私は知れ渡っている。


 だからきっと魔法使いになれば、そこらにいる一山いくらなレベルの魔法使いと思われて、英雄扱いなんてされずに普通の魔法学園生活を送れるはずなのだ!

 ここまでして、都市から離れた場所であれば私を知っている人は(多分)誰もいない! 

 “ロディア魔法学園”。

 ここで私は新しい自分へと生まれ変わる!

 そんな決意をした私だが、そこで試験会場に続く入口の所で見覚えのある人物が立っている気がした。


 私はさっと顔を背けて見なかったことにして、その場を通り過ぎようとした。のだが。


「酷いな、“相棒”。俺を置いていくなんて」


 そこには金髪イケメン王子様なリオネルが、笑顔で立っていたのだった。



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