ぬいぐるみのわたがふわふわする件について
ぬいぐるみのわたがふわふわする件について
僕はある種の優しさを求めていたのかもしれない。ふわふわした『わた』に包括されながら、眠るのが僕の密かな野望である。
天才は、法を凌駕し、全ての凡人を超越するのだそうだ。
自分自身を凡人だと認める事は、そうそう難儀な事ではなかった。簡単、そして明解。
偏差値。
アヴェ(Average→平均)が50。以下は劣等。以上は優越。それだけ。それだけ。
日本の学生にとって、友達より、メシより、家族より、何より大切な絶対だ。
成績がそれにかわる事もある。順位も同義。
故に、僕はいとも簡単に殺された。己の惰性と闘争欲の欠落を呪いながら、自分という人間に激しく嫌悪を抱く。自殺という考えにさえ至らない。(←正しく墜ちていった自分に憎悪を抱かざるをえない)硫化水素は怖い。飛び降りはもっと怖い。しまった、僕は堕落さえまともに出来ないのか。
認識だ、偏差値が絶対だという認識が僕、いや一億二千ないし三千万人全員の瞳に、脳に、心に、言葉に巣食っている。そうして『また』差別やら侮蔑やらいじめやらが生まれるのか。否。
そんなものはとっくに存在する。嘘だ。教育がそれを黙らせる。
人間として、最も自分が下等であると思う。吐きそうなくらい、身体から黒いうじのようなものが湧いてきて、そうして自分を見失ってゆく。イライラとしたものが、僕を無力にしてゆく。
そうして、彼女に出会った。
完全に人間不信になった僕は、罪をつくった。
この世には、罪は存在しない。
そういうわけで、無差別に人を『救って』あげようと思った。
救うということは殺すと言う事だ。それ以外、凡人の僕には到底思いつかない。
自分の快楽の為に、抵抗されない人を選んだ。
だから、小学生の四年生〜六年生の女の子を襲った。
いいかえると、僕は完全なるロリコンに成り下がったわけである。
一人目は死ななかった。
夜9時頃、塾帰りのところだった。軽い嫉妬があったのかもしれない。
ほっそりとした柔かいからだに腕を滑らせて、絞殺するつもりだった。
結果、黒い服を着た大人の公僕の人にナイスタイミングで発見されて鬼ごっこをした。
勝った。
二人目はもっと死ななかった。この子が彼女、リンである。
本当に死なない。僕の天使だ。
リンはいい子だ。昨日も死なずにいて、ずっと僕の心を支えてくれる。
僕はリンが好きだ。この上なく愛してる。
「うぇぇえ。鉈使うんですか? ナイフで満足できませんか?」
リンのしっとりとした耳障りのよい声が僕の耳に届く。煙草を飲みながら、作り笑いをしてこう応える。
「この前の傷も、もうふさがっただでしょ?
治癒は完璧だって。僕はもっと君の事を愛したいんだよ」
「でもっうれしいな。また縫ってもらえるなんて……」
医学と言うものは不条理過ぎる。エリート過ぎる。
僕は誰の為でもなく、自分自身の為に医者になりたかった。
人を救う事なんて、大して考えてない。
唯、医者になる事で、僕にすがってくる人がいると思ったから。
「うん。またお兄ちゃんに『直して』もらえるのはいいとして、今日はどうしてメイド服なんですか。乙女に幻想を抱き杉ではないのですか?」
「なにげにさらっと辛口だな。なんていうか、すごくもえるんだよ」
「うわぁああ。やっぱりへんた」
その刹那、僕はリンに接吻をした。熱いもしくは冷たい。
リンの言うように、とても幻想的なキスだった。
心の奥まで、自分を快楽で満たすことができた。鼓動は高鳴って、劣等感は薄らいでいき、やがて消える。
やっぱりリンは可愛い。唇を離したら、すべるように唾液が糸をひいた。
赤らめた頬は軽く火照っていた。
しかしながら彼女は無垢で、精密で、凍ったように美しかった。
「……うれしい」
余韻が冷めぬうちに、一気に鉈を振り下ろした。
刃はリンの顔を少し引っ掻いてから、胸部から腹部にかけてを斬った。メイド服は引き裂かれ、新鮮な褐色に染まった。優しい狂気に飲まれたリンに、第二波を浴びせる。
瑞々しい傷口からは鈍い色の血液が噴出す。危ない、刃にこれが付着してしまったらまともに斬れなくなる、その後錆びて使えなくなる。僕はその傷口を視姦し、どう縫合するか考える。
「…あっ……っぅ、…ひぃ…」
声にならない言葉を僕に浴びせて、その後は、管をかすれて息が通る音しか聞えなくなる。
顔を穢すのは禁忌。綺麗に透き通った瞳もナイフで刺したくてしょうがないときがあるが、上手く直せる自信がないので自重する。生気を失って、眠っている目も可愛かった。
僕は頬に軽くキスをしてから、ナイフでリンの傷口を抉る。
やわらかく、ぷにっとしたお腹から、ほんのちょっとぬめり気のあるひも状の臓器が出てくる。
ぬいぐるみのわたがふわふわして柔かい件について。
いいと思う。凄いと思う。僕は何度も救われてきた。
この子は天使ではないのか、いつもそう思う。
セックスはしたくなかった。リンに『そんなグロテスクなこと』したくなかったから。
僕は息があがってしまい、昂揚して一気にその紐を引っ張って、それに包まれて一緒に眠ってしまった。至福の刹那である。このために生きているのかもしれない。
だいぶ時間が経った。起きあがったら、心は満足感であふれていた。
心臓は止まったままである。僕は心臓を手で優しく撫でてから、心マをする。
動かなかったら一回縫合してから、薬品投与→カウンターショック。そのまま電圧を流すと本当に死んでしまう。しかしこれまでの経験からいくとほとんど動く。
しばらく沈黙が続く。
……トクン、トクン、トクン…と、リンの心臓は再び鼓動をはじめた。
何度やっても、緊張する。
次に縫合であるが、用具は近くの病院の勤務医から流してもらったものを使う。何でも、病院名義で一つ余分に注文してしまったらしいとか。
そうしたら、手袋を装備した手で綺麗に『ぬいぐるみ』を縫っていく。きれいに、腹部から胸部までを、幸せである、人生でもっとも至福のときである。
そうして、彼女は生き返る。
「……楽しかった? お兄ちゃん」
濡れている彼女の髪を梳かして、優しく瞼にキスをする。
そして、どうしようもなくあふれてくる歓喜に、彼女を抱き寄せて涙をながす。
「……好きだ、リン、大好きだ」
少女は微笑んでこう言うのである。
「ありがとう……」
僕はさらに激しくぎゅっと抱きしめた。
彼女は天使かもしれない。
こうして、僕はまた今日もどうしようもない虚無感から解放され、
人を愛することができるのである。
本作執筆にあたって
○とにかく読んでもらいたかった
○こどものじかんED「ハナマル☆センセーション」を聞いていてなぜか出来上がった作品。結果全然関係なくなってしまった。
○作者はロリコンではない。
○多くの人に人気があるジャンルを選んだために、グロ→ロリコンへ。
○ご意見、ご指摘、ご感想などありましたらお気軽にどうぞ。待ってます。