003
「いやーまさか水燈も転生してたとはね! びっくりしたよ」
「俺はお前がミイラみたいな拘束されてたことにびっくりだよ」
カボチャの男――ウィルというらしい。
に背負われていたのは水燈の幼馴染であり、拘束されるに至った経緯を聞かせて欲しいと頼んだところ、
とりあえず四人で飲むことになった。
ゴクゴクと得体の知れないこっちの世界の酒を煽る幼馴染を、水燈は呆れた目で見る。
この幼馴染は千衆空楼。
もちろん男である。
七三分けにメガネをかけた、文学青年のような見た目だ。
――美少女だと思ったか?
残念だったな。幼馴染なんてこんなものである。
「つーかお前、さっき一般市民を襲ったとか言われてたけど、なんでそんなことしたんだ?」
「襲ったとは失礼な。そんなことするわけないじゃないか!」
空楼がドンッと得体のしれない酒を叩きつける。
その酒はヤク虫の生酒という名前から水燈は遠慮したものだったが、空楼に躊躇はないようだ。
揺れたジョッキの中で、何かイモムシのような物がうごめいているのが見えて若干吐き気をもようしつつ、水燈はそ、そうか、悪い と言った。
悪いと思ったのは気分か発言か。
とにもかくにも、それならどうしてあんなに厳重に拘束されていたのかと尋ねる。
「いやさ、突然森に飛ばされたと思ったら、あのカボチャ男がここは異世界だーとかいってくるでしょ?
そんで、この町に連れてこられたと思ったら、なんとエルフやらドワーフやらがいるときた。水燈ならどうするさ」
「そりゃ、まぁ、どういうことか説明を求め」
「ナンパするでしょ! だってケモミミ、人外、異種族美女なんでもござれだよ!?
そりゃ、ちょっとテンションが上がりすぎて蝙蝠人の女性に抱きついたり、小人族のお姉さんを人形みたいにもみくちゃにしたりしちゃったけど、それくらいしょうがないよね!?」
「1ミリもしょうがなくねぇよ!?
“一般市民を襲った”ってそっちの襲ったか!
なんで異世界にきて初っ端から軽犯罪に手を染めてんだよ!!」
そうだった。
この男、千衆空楼は人間の持つ欲望に忠実で、女性に対する関心が並外れて強く、つまり、端的に言うと、――変態であった。
それも真性の変態。
ド変態である。
「そうか、お前、ケモノ耳や亜人はもちろん、触手やスライム相手でもいけるって豪語してたあれ。マジだったのか」
「もちろん、人か人じゃないかなんて問題じゃないんだよ。
顔も、年齢も、種族も国籍も関係ない」
「ただ、女であれること。それそのものに価値がある。つまり――」
「「女ならなんでもいい」」
クソ野郎である。
いや、ある意味でいえば形に囚われない愛を持っているとも言えるが。
「それでもお前、すげぇな。
この世界に来てこうやって色んな種族の人たち見たら、流石に俺はアニメやら漫画とは違うなって思ったぞ」
そう、当たり前だが、この世界の人たちは皆ゲームのキャラクターなどではなく、
歴史を持ち、生活を持ち、命を育んでいる生き物なのだ。
二次元で見慣れているとはいえ、それが実際に街で生活している姿を見ると、エルフ萌えーなどとはとうて言えないなと水燈は思ってしまった。
エルフやゴブリンなども多少形は似ていても、ようは根本的に人間と違う生き物なのだ。
それを、生で見て、触れ合ってなおイケると言い張る空楼は一種突き抜けていた。
「まぁ、結局は人間だろうがミジンコだろうか全ての価値はヤれるかヤれないかだからね」
「最低だな」
やはりただの変態であった。
というか、この男はミジンコ相手でもヤるつもりでいるのだろうか。
「うわあああ! この人変態だああああ!」
「よしよし、泣かなくて大丈夫だよ~」
「おいコラ、さり気なくハートに触んな。妊娠するだろ」
「しないよ!? 触れただけでって、どんなモンスターだよ僕!?」
号泣するハートの背をさすろうとした空楼の手を、水燈が掴む。
段々収集がつかなくなってきた酒の席で、一人酒が飲めないカボチャ男が右往左往していた。