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終章

 梅雨が明けた七月の後半は本格的な夏を迎えて暑い。いわゆる初夏なわけやけど、本来やと梅雨に比べてからっとしてるはずやのに京都の夏はそうやない。鍋底のような盆地に住んでいるせいで、夏は籠もったような暑さでみんなを苦しめる。直射日光を浴びながら風の凪いだ街を歩くなんて最悪や。

 とはゆうても仕事がある以上は家から出んといかん。幸い、学校の建物内は冷房が充分に効いているから過ごしやすい。汗が冷えてきた頃くらいにお腹が冷えてしまうことが玉に瑕やけどな。


 「あらぁ、御前先生。こんにちはぁ」


 とある日の昼休み、いつものように仁科先生がやってきた。

 春の頃に比べて慣れたとはいえ、全く知らないゴシップ記事の話を振られたときの対応にはまだ苦労してる。


 「先生、試験の問題ってもう作られましたぁ?」

 「ええ。まだ完成したわけやないですけど。今週中にはできますよ」

 「うらやましいですわぁ。私なんてこれから作るんですのよぉ」

 「締め切り来週の月曜ですやん。間に合うんですか?」


 期末試験を実施する場合は、教員が問題用紙と解答用紙を作成して学校側に提出することになってる。そのため、印刷の関係から試験の三週間前までに提出するように決まってた。


 「去年の問題がありますから、それを使えば大丈夫ですよぉ」

 「そりゃそうなんでしょうけど」


 俺も基本的には去年の問題の使い回しやけど、さすがに毎年いくらか修正して出してる。本当は1から作ったらええんやろうけど、いくつも授業を抱えてると全ての試験を毎回作るってゆうのは無理や。そやから、初めて授業を担当したときは問題作りで随分と苦労したなぁ。


 「そうそう。試験問題も大切ですけど、学生の成績も困ったものですよねぇ」

 「あー、特にぎりぎりの学生はねぇ」


 学期末が近いこの頃になると、担当授業を受けてる学生の成績をどうするかで頭を悩ませることになる。特に、単位を取れるか落とすかの境界線上をうろついてる学生や。対応を間違えると後で大変なことになる。


 「そうなんですよぉ。うちにも何人かいて困ってるんですよねぇ」

 「更に厄介なことに、大体そういう学生って同じやからたまりませんわ」

 「でも、一時期佐竹君が休み続けたときは驚きましたわぁ」


 大半の学生がとりあえず単位を取得していく中、当落線上の学生というのは授業でもぎりぎりやったりする。そのため、こういった話になると大体出てくる学生の名前は同じであることが多い。

 そのなかで、ほぼ六月全てを休み続けた佐竹君の話が仁科先生から出てきた。

 あの事件の推測を佐竹君にした翌日からしばらく休み続けていたんや。今まで休まず授業に出てた優等生が突然休んだもんやから、他の先生は首をかしげてた。

 でも、心当たりのある俺は内心焦ってた。中途半端に佐竹君を追い詰めてしもたから。


 「今月になってまた出てきてくれて助かりましたよね」

 「全くですわぁ。このまま出てこなかったらどうしようかと思いましたぁ」


 仁科先生は心底安心した様子やけど、俺の気分はあんまり晴れてない。というのも、以前と違って明らかに佐竹君から避けられるようになったからな。まぁ、佐竹君からしたら俺は危険人物やろうからそんな態度になるんやろうけど、俺としては地味に傷つく。


 「まぁ、このまま出席してくれたら佐竹君は大丈夫でしょう」

 「彼なら試験はほぼ満点でしょうしねぇ」


 だから、俺としてはとりあえず最後まで授業には出てほしいと思う。今後は俺の選択授業を避けるやろうけど、もうそれは諦めるしかないやろう。


 「そうそう、先生ぇ。今度駅前に新しいお店ができたんですけど、知ってますかぁ?」


 話題が変わった。今度は再開発が進んでる駅周辺のスイーツ店らしい。

 俺としては佐竹君の話は多少気の滅入るところやったので、この話題転換はありがたい。普段行くことのないスイーツ店の話やったけど、何とか話題についていこうと仁科先生の話を真剣に聞いた。

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