日記拾漆頁目:許してとは、言わないけれど〜霧雨〜
「それは、稀に罪を引き起こす」
「ありがとう霧雨おじいちゃん!」
「だからおじいちゃんは余計だ」
霧雨は部屋から出て行く途中にそうからかう友人に「馬鹿野郎」と笑って言うと友人も笑って帰って行った。
「……さて、片付けるか」
霧雨は座った足元に散らかった湯飲みなどに目を向け、一つずつ丁寧に自前のお茶セットの入れ物に収納して行く。片付けが終了し、霧雨は「はて」と首を傾げた。いつもならこの時間帯に千夜丸と久遠がやって来るはずなのだが一行に来る気配がない。
「……要請、ではないな」
今日の要請での隊長はアリスの兄で2人は霧雨と同じように非番、留守番組である。なので2人はいるはずだ。
此処の大将は人質をとって自宅警備員にでもなるのかと云うほどに姿を見せない。裏社会の仕事を部屋で人質片手にやっているのだろう。ご苦労なことだ。
「……探してみるか」
霧雨は重い腰を上げて2人が心配なので探す事にし、部屋を出た。
部屋を出て、なんとなく広間の方へと足を運ぶ。広間の方に千夜丸と久遠がいる保証はないが行ってみないよりはマシである。
広間にいなかったら…自室?
霧雨は2人がいそうな場所を考えながら広間に向かう。
「あれ?霧雨?何をしているのですか?」
すると目の前から珀が歩いて来た。手に武器を持っているのでこれから戦争にでも行くのだろう。右の狐耳に見慣れない物が着いているが大方、莢から貰ったお守りだろう。珀は妖狐でありながらその能力を大将に見下されている。ずっと言われ続けられたら泣き虫になるのも当然だ。
「千夜丸と久遠を探してるんだけど。広間方面から来たのなら見てないかい?」
「え?千夜丸と久遠、ですか?……嗚呼!!」
「え、何?!ナニ?!」
珀に聞くと彼は少し悩んだ後、思い出したかのように大声を上げた。滅多に大声を上げない珀に霧雨は驚いて聞き返す。珀は慌てた様子で自分より背の高い霧雨を見上げ、言った。
「さっき、千夜丸と久遠の部屋の前を通ったんです!通り過ぎた辺りでどちらともつかない怒鳴り声がして!言い争う声が聞こえて来たんです!ボクは要請を受けていたので素通りしてしまったんですけど…」
「分かった!珀は気にせず戦争行って来なっ」
霧雨は心配そうな珀の頭を通ると同時に撫で、2人の部屋に向かって駆けた。そんな霧雨の背中に力強い「はい!」と云う返事が返る。
言い争い?あの2人が?あり得ないだろ…
霧雨の脳裏をそんな考えが横切る。千夜丸と久遠は喧嘩とは程遠いほど仲良しだ。そんな2人が言い争い?何やらこれ以上ない不安が霧雨の胸を埋め尽くす。まるで、2度と‘何か’がないような、身震いするような不安だった。
***
「なんでそうなるの?!」
「アンタが先に言ったんだろっ!?」
「理解出来ない!」
「それはこっちもだよ!」
マジかよ。
霧雨は2人の部屋の扉越しに聞こえる言い争う声にそう思いつつ、驚愕した。此処では何が原因の言い争いか、内容までは聞き取れない。
仲良しな2人が言い争い……信じられないが事実のようだ。霧雨はゆっくりと扉を開けて言い争い中の2人がいる部屋へ入った。
「お2人…」
「あっ!霧雨!」
「ちょっと聞いてよ!千夜がさ!」
「…………」
霧雨が入って来るなり自分の言い分を言い出す2人。霧雨は呆れた顔をしながら「まぁまぁ」と2人をなだめる。
「何があったんだ?」
「「久遠/千夜がっ!!」」
「………うおー」
霧雨が聞くと2人ハモって相手が悪いと理由も述べずに指差して言い合う。何がなんだが分からない霧雨。
「っっっ!!もういいよ!!千夜の分からずやっ!」
「!?久遠?!」
突然、悲しそうな顔をしながら久遠が叫び、部屋を飛び出して行った。霧雨は彼を引き止めようとするが一歩及ばず。霧雨は戸惑ったように部屋の外と千夜丸を見る。霧雨は千夜丸の方へと近寄った。俯いている千夜丸の顔を覗き込むと久遠と同じように悲しそうな顔をしていた。ギュっと両の拳を握り締めている。
「…千夜丸、何があったんだ?」
霧雨が優しく聞くと彼の瞳に一瞬だけ恐怖が宿ったような気がした。
「…言いたくないなら良いよ」
「…………くだらない事で言い争ったんだ…ホントに、くだらない事……嗚呼……謝っとかなきゃ…」
自分で謝らなければいけない事が分かっているらしい。そういう所が千夜丸の良いとこだと霧雨は思っている。
「原因知らないけど、そうしな」
「うん」
泣きそうな千夜丸の頭を優しく撫でる。と千夜丸の涙腺が崩壊したらしく泣き出した。彼の頭をつかんで自分の胸に押し当てて、涙が枯れるまでそのままにしていた。
***
「千夜に謝る」
「ほぉ…久遠もか」
翌日、たまたま偶然にも廊下でばったり会った久遠と霧雨。久遠は霧雨を見るなりそう言った。久遠も久遠で気持ちの整理が出来たらしく千夜丸と同じく謝ろうとしていた。
やはり、兄弟は似るものか。
と霧雨は兄弟がいない(同期ならいるが)のでそう感傷に浸った後、「偉いな」と久遠の頭を撫でた。久遠は笑って、駆けて行った。
「…大丈夫、だよな…」
霧雨は久遠の足音が背後から聞こえなくなると左胸の服を握り締めた。あの時の‘不安な何か’が胸を埋め尽くす。
きっと、大丈夫。
しかし、霧雨の心配をよそにその‘不安’は当たり、その後千夜丸と久遠は何かの因果なのかタイミングも悪い具合に重なり、謝る事が出来ずにいた。
そしてーーーーーー
すいません遅い時間ですけど久々に投稿!




