日記拾陸頁目:うずくまっててごめんなさい〜碧〜
「…………知ってるから」
「クッソ……」
アリスは大将によって乱された服を直しながら悪態をはたく。アリスは此処ではただ一人の女性である。いや、少々語弊がある。元々此処にはアリス以外の5人の女性がいたが大将の裏社会の件、人身売買に巻き込まれ3人が消え、2人が行方不明となった。行方不明の2人の生死は不明。依り代がないことから死んだとも噂されているが真実は不明だ。
そして一人残った女性、アリスは人質となった“荒神”をダシに欲望の捌け口とされていた。アリスは人質を救うために自らの体を鞭打っている。例え、視界が歪んでいたとしても。
アリスは服を直し、部屋に向かってぺっとツバを吐く。大将は既に此処にいないがツバを吐くだけでもかなり気が楽になった気がした。
そして、悲しそうな顔をした後、言った。
「待ってな、沙羅」
そして部屋を出た。
扉を開けると心配そうな顔をした碧が立っていた。それに驚きながらアリスはいつも通りに笑う。
「碧、どうしたの?翠h「戦争………だから…俺が、迎え……来た」そうか」
淡々と告げた碧の言葉にアリスは素直に頷いた。心配して自分を外して貰ったのか。ありがたいような余計なお世話のような。苦笑を浮かべながら2人は廊下を歩き出した。
歩きながら碧は自分より背の低いアリスを見た。大切な兄弟であり友人の翠の相棒。自分自身がこんなに疲れているのに頑張る彼女はとても美しいと思った。
「アリス………は、大丈夫……?」
「何が?」
「………体。無理、してるようなら………休まない、と」
ギクリとアリスは顔を歪めたが背の高い碧は分からない。そして言ったのは労わりの言葉。
「……大丈夫だy「嘘……いつも、助けて、貰ってる……俺を、騙せる、と………思ったか?」」
ポンッとアリスの頭を撫でて、碧は彼女の手首を掴んで優しく引っ張る。それにアリスは驚きつつもそのままだ。
「あ、碧!あたしっ!」
「………アリスに、ピッタリの……作った…から、聞かせるな…」
振り返り様に見せた碧の笑顔にアリスは一瞬、惚けたがクスッと笑い返した。
***
箏の余韻が聞こえた気がした。戦争から帰って来た翠は戦争で負った擦り傷の手当てを終え、部屋に向かっていた。自分達が使っている部屋の内の一つには碧とアリスがいるはずだが……
「ただいま帰りましたぁ〜…」
ソロォーと控えめに部屋の扉を開け、中に入る翠。中には他の仲間達は居らず、部屋の隅っこに碧とアリスがいるのみだった。翠は2人がいたことに安心し、早足にそちらにかけて行った。
「……………おかえり……翠…」
「ただいま碧。ところでさ、どういう状況?これ?」
2人の目の前まで行った翠は碧に返事を返しながら微笑ましそうに笑った。碧の前には先程まで弾いていたのであろう箏 が置かれ、壁に寄りかかるように座っている碧の左肩には彼の肩に寄りかかって寝ているアリスがいた。
あんまり見ることがない2人の態勢に翠は口元を抑えて笑う。微笑まし過ぎる。
「………アリスに…ピッタリの……作ったから、聞かせた……」
「そしたら姐さん、寝ちゃったと?」
「………応」
「よっぽど疲れてたんだね…」
翠は碧の説明を聞きながら寝ているアリスの前髪を優しく撫でる。頑張る彼女は、とても強い。
「………お疲れ様、姐さん」
翠が寝ているアリスを起こさぬように頭を撫で、碧の隣に座った。そしてこちらも同じように頭を優しく撫でる。それに碧はむず痒いようだ。クスリと笑って翠は碧に言う。
「ありがとう、碧」
「…………別に……」
迎えに行って貰ったお礼を言うと彼は照れたように顔を背けた。
「照れちゃって」
「…………煩い…」
クスクスと笑う翠。碧も柔らかく笑う。




