日記拾壱頁目:アンチノミーとうそつき〜陽戒と葉樹〜
「知らなかったのは、きっと…俺の罰」
大将の部屋で最後を迎えた千鶴。その千鶴の体を抱き上げ、その者は庭の雅がいる所に持って行き、横たえた。兄と弟、誰かと一緒に逝く方が少しでも寂しくないでしょう?
その者は優しく2人の頭を撫で
「………………ゴ………メン………ネ…」
呟いた。そして踵を返して後にする。そのすぐ後に2人の体はーーーー
「みつけたよ」
***
葉樹は不思議に思っていた。近頃、兄や雅、仲の良い双子やその弟達に会っていないことに。戦争で怪我をすればいつもすっ飛んでくる双子がやって来ない。書斎で楽しそうに話す兄と雅が見えない。左足を痛めながらも世話を焼いていた彩葉が見えない。
葉樹はよからぬ不安を感じ、残っている仲間達に聞いた。
「……それは」
「ねぇ…」
「なんなの?!隠さないで教えて!!」
葉樹がそう懇願するが仲間達は不安そうに迷っている。その表情には恐れと悲しみが滲んでいる。何にも言わない彼らに葉樹は痺れを切らし、八つ当たり気味に叫んだ。
「じゃあ良いよ!!」
そして、駆け足でそこを後にした。
廊下を歩きながら葉樹は考える。
兄さんや雅さんは一週間前に戦争に行ったきり会ってない。戦死って情報はすぐに伝わる。でも伝わっていない。となると戦死は除外。
チィやキィ、イロはその日、非番だったはず。俺も同じ非番だったけど具合が悪くて部屋に篭ってた…その時は会ったし、いたはずなのに…
一週間前に何があったの?その日に何が?
もんもんと考える葉樹の足はいつの間にか大将の部屋の前に辿り着いていた。自分は古参メンバーで、大将は優しい人だと思ってる。でも……
葉樹は大将の部屋の扉に耳を寄せ、中の音に耳をすます。
嘘でありますように、この考えが嘘であって。みんなの表情の意味がなんなのか。教えてよ。
ねぇ、大将様……
「………………………っ」
ねぇ、俺は、今、何も考えられないよ。
*
二週間後
「葉樹様、なんか顔色悪ーいでーす」
「……気づいちゃったんじゃない?」
「あーなるほどーやっと?」
「でも、何が起きるか分からないじゃん?」
「まぁねぇ」
「私たちは何も出来ないから。他人任せになってしまう」
仲間達の言葉なんぞ葉樹の耳には入って来ない。ただ、ただただその真実を受け止めているだけ。
仲間達は気づいていながら何も言わない。自分達は反抗出来なかった。古参メンバーで大将から唯一暴力を受けていない葉樹の行動は、吉と出るか凶と出るか。
大将に対抗出来る力はほぼ“荒神”にはないに等しい。しかし例外が数例あり、使役者が最初に使役した“荒神”や大昔に造られた“荒神”などが例外に当てはまる。此処で対抗出来るのはもはや葉樹のみなのだ。他人任せだが、力がないのだ。
*
三週間後
「何の用だ?刻翁丸」
葉樹は大将の前で正座していた。陽戒は何故かいない。いつもならいるのに。しかし…今日は『好都合』だ。
大将は葉樹の気も知らずにニコニコと笑っている。
「それにしても久しいな。お前を使役してもう何年経ったかな」
「……さぁね。ねぇ大将様」
「ん?なんだ?」
暗い表情の葉樹は淡々と、淡々と聞く。なんで笑ってるの?なんで、笑っていられるの?俺の変化に気づかないほど、大将様は……
「兄さんや雅さん、チィやキィ、イロ…他の人達もどうしたの?」
「………は」
「陽戒さんも。最近、服が紅く染まってるよね?なんで?」
大将は笑顔のまま、固まっている。葉樹の冷たい瞳が大将を射抜く。
ねぇ、大将様はどう答えるの?
大将は固まった笑顔のまま問い返す。
「なんでそんな事聞くんだ?」
「不思議だからだよ。他のみんなはずっと怯えた表情してるし、傷だらけだし…俺の身内まで消えた…ねぇどうして?」
「っ……さぁなぁ…家出じゃね?陽戒は知らん」
「そう…」
「お前と話すのも久しいな」と言う大将のことになど葉樹の耳には入っていない。ただ一つ言えることは、大将が嘘をついたと言うこと。
ユラァと葉樹が立ち上がる。それに大将はどうしたと心配そうに腕を伸ばして問う。その手を葉樹は振り払った。
「刻翁丸?」
「大将様、俺は勘違いしてた。大将様は優しい人だと思っていた。でも、違った」
「刻翁丸、何言って「とぼけないで」」
葉樹の声は低く、冷たい。彼が顔を上げるとその瞳は紅く染まっていた。紅い瞳は、本物の“荒神”一歩手前。すなわち、葉樹は陽戒同様、“荒神”になろうとしていた。(ちなみに紅い涙はただ単に血が混ざったとされるが本当かどうかは不明)
「大将様は俺に隠したかったみたいだけど、俺はもう気づいたよ。みんなの傷も、いなくなるみんなも不思議だった。でも、全てが一致するんだよ、大将様、貴方だと」
その表情は悲しそうだった。大将は葉樹のやろうとしている事がわかったらしく、後退りし始めた。その後を葉樹は無表情で追う。
「やめろ……やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!」
「なんでやめないといけないの?貴方も、彼らを追い詰めたのに」
壁際に追い詰められた大将は吹っ切れた。
「あ、ハハハハハハッッッ!!!そうさ!俺が追い詰めた!!だって駒だからなぁ?気づかないお前はただのお気に入りの人形。価値なんて他の奴らと同じなんだよ!!駒 風情がぁあああああ!!!」
高笑いする大将は狂ったとしか言いようがなかった。そんな彼を悲しそうに見て葉樹は小さく「そっか」とつぶやくと懐から短剣を取り出した。
「ありがとう、おかげで貴方を憎しみだけで始末出来る」
「ハハハハハハッッッ」
にっこりと笑って葉樹は狂ったように笑う尊敬して‘いた’大将に短剣を振り下ろした。
***
紅い瞳を輝かせながら葉樹は連絡した情報管理局の役員と入れ違いになる。
「ご苦労様。ゆっくりお休み」
そう葉樹を気遣うように言った役員を振り返りながら葉樹は言う。
「“荒神”はただの駒なのに…矛盾してるよ」
葉樹は振り返らないその役員の背中にそう言うと葉樹はその先で待っていた自分と同じ紅い瞳になった陽戒の腕を引いて歩いて行った。その後を他の仲間達が追う。それを背後で感じながら役員は此処の大将で‘あった’者の部屋に入る。
「………矛盾、ねぇ…それは」
壁際に寄りかかる大将。彼に
「君達の方だと思うけどね」
外傷はなく、無傷。壁に強く突き刺さった短剣があるのみだった。大将はブツブツと何かを壊れたラジオのように呟いている。それを見て役員は『他人事』のように、嗤う。
「まっ、壊れちゃったなら仕方ない。回収しといて」
クスリと嗤った。




