日記拾頁目:うそつきの代償〜千鶴と千秋と彩葉〜
「「うそついてごめん」」 「役立たずでごめん」
「なんで呼ばれたんだろ?」
「さぁ?」
千鶴と千秋の双子は大将に呼ばれたため、大将の部屋に向かっていた。何故呼ばれたかは不明だが行かなければいけないので仕方がない。
やっとの事で着いた大将の部屋にノックをして入る。
「「………っ?!」」
入った途端、双子は顔をしかめた。部屋中に充満する嗅ぎ慣れた血の匂い。その匂いで此処で何人もの仲間が殺されたことは容易に理解出来た。そして、部屋の隅に見えたものに目を瞠った。
「「彩葉!!」」
左足からおびただしいほどの血を出した彩葉が倒れていた。彩葉に急いで駆け寄り、千秋が抱き起こすと彼はもう虫の息だった。兄達の必死な呼びかけに答えるかのように薄っすらと瞳を彩葉は開けた。
「彩葉!大丈夫?今、薬を「無理…だ…」なんで?!」
千鶴の行動を弱々しく制する彩葉。彩葉はクスリと笑って言う。
「………オレ…消えかけて、るし」
「…ウソ…」
千秋が彩葉の左足を見れば、薄っすらと消えかけていた。それに薬などもう手遅れだと確信した千鶴は力無く両手を床に付け、土下座する勢いで彩葉に言った。
「なんで!!??僕は命令、ちゃんとやったはずなのに!!あいつ、ウソだったのか?!」
「ツル…」
「……千鶴兄さん…あいつの、ウソでも…オレは…オレ達は……救われた……」
「っ」
千鶴の瞳から涙が溢れ落ちた。何故、溢れ落ちたのか自分でも分からない。双子は消え行く弟が寂しくないよう、怖くないように手を握った。彩葉の手に薄れかけていた温もりが伝わる。そして、完全に消えると云う所で彩葉はニッコリと笑って言った。
「………ありが、とな……あんたらの……弟で……よか……た……」
短い間でも、兄さん達といられて、兄弟7人で笑い合えて嬉しかった。ありがとう。また、何処かで
そして彩葉は消えた。千秋の腕にはまだ、まだ彩葉の温もりがあるのにもういない。双子が声を堪えて涙を流す。が
「ハハハッ。まぁーた、邪魔な駒が逝った」
それすらも許さない大将がいた。双子が声のした方を見るとニヤニヤと愉快そうに嗤っている大将がいた。その手には壊れた朱色の数珠が握られていた。嗚呼、彩葉を殺したのはお前か。千鶴の思考を埋める‘感情’。
それを逆なでするかのように大将は言う。
「千鶴がやった事はぜーんぶ、無駄だったぞ?ただ、“荒神”の寿命を長くしたに過ぎない。駒はどうせ、駒。代わりは幾らでもある。ハハハッ!」
「ツル!!」
千秋の止める声など聞かず、千鶴は大将に向かって跳躍していた。武器など持っていないのに、体が勝手に動く。千鶴が大将の目の前で拳を振りかざした。それでも大将は鼻で嗤う。
「ハッ。駒が」
ダンッ!と千鶴の体が突然、壁に叩きつけられた。何が起こった?自分でも分からない。体が動かない。頭を強くぶつけたために視界が歪んでいる。
「俺の手に依り代があることくらい覚えておけよ?これがあるからお前らは駒なんだ」
壁に打ち付けた千鶴の依り代を拾いながら大将は動かない千鶴へと近づく。その前に千秋が滑り込んだ。そしてキッと睨みつけた。それに大将はなんだと睨み返す。
「ツルを傷つけるな」
「ほぉ…?武器も攻撃手段もないのに?」
「っ」
千秋が苦虫を噛み潰したような苦い顔をする。そう、今、自分は攻撃手段を持っていない。それでも、
「兄弟を傷つける事は許さないよ。僕が、死んでも止めてみせる」
その真剣な千秋の言葉に大将は…ニヤリと嗤った。そして、顔の横に掲げて千秋に見せたのは
「……アキ!」
「じゃあ、見せてみろよ」
千秋の依り代である小さな鏡であった。それを大将はポトッと床に落とした。鏡はパリンッと綺麗な音を立てて割れた。
「……………」
「アキ!」
一瞬の出来事に千秋は身動きも出来なかった。そして、頭を鉄で叩かれたかのように痛みが思考を呼び戻した。
「うあ"……あ"…」
その痛みに下を見ると胸辺りから紅い血が流れ出ていた。手に血がこびりつく。右足にも痛みが広がる。倒れそうになるのを千秋は拒み、千鶴を守るために立ち塞がった。千鶴はそんな千秋を救おうとなんとか立ち上がろうとしているが体が言う事を聞かない。
大将は倒れない千秋に不機嫌そうに顔を歪ませた。そして鏡の破片を拾い上げると千秋に向かって突き刺した。突然の行動に千秋は面食らったが避けようとする。が、足を痛めていたこともあり、千秋の体はいとも簡単に後ろに倒れ込んだ。その上に大将が持ったガラスの破片が突き刺さる。
「し・ね」
「グッ」
「アキ!!クッソ…動けよ!」
心臓部分に突き刺さったガラスの破片をそのままに大将は嬉しそうに立ち上がる。そして動けない千鶴にゆっくりと近づく。もう、死ぬとわかった千秋はその瞬間に千鶴に向かって手を伸ばした。千鶴の瞳から流れた涙は紅い色をしていた。
「…ツル…約束…守れなくて、ごめんね……こんな…僕と、兄弟で………ありがと……」
「ヤダ、ヤダよアキ…動けってのっ!」
千秋の方へ手を伸ばす千鶴の体は一向に動く気配がない。打ち所が悪かったのかはたまた大将の仕業か。
千秋の体が消え始めた。それに千鶴は目を見張り、動け、動けと体に鞭打つ。それでも体は動かない。
「アキ、アキ!」
「……じゃあね、ツル……また……ね………」
「アキ!!」
千鶴、君と双子で、兄弟で楽しかったよ。幸せだった!先に逝くけど、人間や「神様」で云う転生が僕らにもあるのなら……また……
「アキ……彩葉……あ"あ"…」
そして、千秋は消えた。悲しむ千鶴。結局、彼が伸ばした手は誰にも届かなかった。大将は悲しみ、涙を流す千鶴に近寄り、仰向けにするとその上に馬乗りになってその細い首に手をかけた。
「………うっ……ごめん、ごめん…」
「うるせぇなぁ。やっぱ、役立たずの結末は首絞めにしてやるよ」
ギュッ。首が絞められた苦しさに千鶴は足をバタバタさせて抵抗した。それを見越していたかのように大将は千鶴の依り代である手鏡を取り出すとバンッと強く床に叩きつけた。ボキリ、嫌な音と共に千鶴の体に痛みが走る。右腕も折れた。
「うあ"あ"あ"あ"……ぁ"…ぁ"…」
「俺の命令をこなしたのにお前の兄弟は死んだ。兄弟も助けられないようじゃ、ただの役立たずだな」
「…ぁ"…ぁ"…」
役立たず。その言葉が千鶴の脳内を駆け巡る。
確かに僕は役立たずだった。兄弟も助けられない役立たず。でも、それでも、僕は…僕は!!
「……や、れる……事を…した……てめぇ……が、言う……役立たずよりは………マシだ!」
「!!………そうか。なら」
「っっ!!」
首を絞める力が強くなり、千鶴は息が出来ない。視界が歪む。手足の感覚は依り代を壊された瞬間から消え失せていた。
「駒は駒らしく、役立たずとして、逝けよ?あっはっはっは!!!」
高笑いが響く中、大将は力を強くする。一瞬、千鶴が抵抗したがすぐにやめ、その瞳から紅い涙を流す。
どいつもこいつも、泣きやがって。気味が悪い。
大将は千鶴の首を彼の息が止まるまで絞めた。千鶴は、狭まる視界に別れを告げ、瞳を閉じた。
僕も楽しかったよ。治療出来なくてごめんね。役立たずでごめんね。頼りない兄でごめんね。それでも、君達といれた事は、僕にとっての幸せだった。また、会えるかな?会えたらいいね。その時はまた……その時まで、さようなら……
千鶴は静かに息を止めた。




