日記陸頁目: うそつきの代償〜彩葉〜
「隠す事は騙す事と同じだろ?」
「ッッッ!!」
歩いただけで痛む左足。その左足を抑え、彩葉は廊下の壁に寄りかかった。左足のズボンを歪んだ表情で捲り上げた。左足の肌が見える事がないほど包帯が何重にも巻かれており、所々まだらのように血が滲んでいた。
「ツゥ…」
その現状に彩葉の顔がまた歪む。彩葉はズボンを元に戻し、壁を支えに再び歩き出す。目指すは書斎。自身の兄である雅のいる部屋である。
書斎の扉を開けて中に入ると所狭しと並んでいる本棚たち。椅子とテーブルもあるがなぜか書斎は畳を使用。多分、今はいない古参メンバーの誰かが頼んでこうなったのだろう。『以前は大将は暴力などしなかった』と言うのはいない古参メンバーの口癖であったがこの現状だ。真相は分からない。
彩葉は部屋の中、兄を探す。といた。本を読んでいる。雅は暇な時は大体書斎で本を読んでいる。たまに医者を目指す千鶴もいる事がある。
兄の元へ左足を引きずって行くと彼の影になっていて見えなかったが千秋もいるようだった。
「雅兄s「シィー」…お?」
彩葉が声をかけようとすると雅が人差し指を口元に当て「静かに」と言う。彩葉は戸惑いながらもゆっくりと2人の元へ。
「千秋が寝ているんですよ」
「嗚呼ーなるほど」
雅に寄りかかるようにして眠る千秋。その千秋の前髪や後ろの長髪には見えないからと言ってつけられた暴力の跡があることを彩葉と雅は知っている。彩葉は空いている反対側の雅の隣に左足を庇いつつ座る。そして雅の読んでいる本を興味本位で覗き込む。
「なんの本?」
「彩葉には分かりませんよー」
「はぁ?んなの、読んでみなけれりゃわからねぇだろ?!……わからん」
「だから言ったでしょう?」
兄にからかわれてムッとした彩葉だったが彼が開いていたページにさっと目を通しただけで「あ、無理だ」と察した。雅が読んでいるのは全文外国語の本である。翻訳なしで読んでいる。
雅は察した彩葉をクスリと笑って本に栞をはさむとパタンと閉じた。
「さて今日の本題に入ります。千秋は寝かせておきましょう」
「おう」
「左足は、大丈夫ですか?無理なようなら戦争から外すよう頼んでおきますよ?」
心配そうな雅に彩葉は苦笑い。それが何よりの証拠だった。
彩葉の左足は歩くのもやっとだ。戦争に駆り出させれるは出させれるが左足の傷が傷だけに他の仲間よりも足手まといになることが多い。といっても彩葉は後方支援系の“荒神”であり、数少ない後方支援系。戦争にいるかいないかで戦況は大きく変わる。
「大丈夫だ。出来る限り出る」
「しかし」
「あの野郎のせいで死ぬよりは戦争で死ぬ方が誇れるぜ」
にっと笑って言った彩葉。彩葉らしいと雅はクスリと笑って彼の頭を優しくポンポンと撫でた。そして途端に兄の表情になり、こう付け加えた。
「無理は禁物ですよ」
「わかってるぜそんな事。左足の事は」
彩葉は自身の左足を優しく撫で、ニカッと笑う。
「オレが良く分かってんだからさっ!」
***
ーバンッッー
耳元で鳴る破裂音。遠くで聞こえる雄叫びと刃物同士の音。
雅と話しを終えてからしばらく。彩葉は戦争に赴いていた。何人かは使役者と自身の依り代を守る目的で残っているがその他は戦争だ。
戦争といってもただ人間が倒せない化け物を代わりに倒すだけだ。何処の物語あれゲームであれ役割は何処ぞの勇者様の仲間達に代わりない。それか主人公の影にいて主人公の代わりとなる脇役か。
【四時の方向から敵の増援を確認。数は2】
「了解。オレが殺る」
耳にさしたイヤホンから仲間の声。その情報にイヤホンから伸びているマイクに向かってそう告げ、彩葉はその方向に武器である銃器を向ける。報告通り、化け物が2体。1体の脳天に位置を合わせ、引き金を容赦無く引く。
ーバンッー
「っっ」
銃器を撃った衝撃波が体に伝わり、痛む左足に激痛をもたらした。彩葉は顔を歪めながらも残りの1体を射殺した。化け物がいない事を確認して物陰で左足を強く胸に抱え込む。
痛みよ止まれ。頼む。
そう祈る彩葉の耳に別の声が割り込む。
【イロ!大丈夫?!】
「……嗚呼!大丈夫だ」
葉樹だった。彩葉が見えなくなったので心配したらしい。葉樹は【良かったぁー】と安堵する。
【‘また’左足やられたんじゃないかとヒヤヒヤしたよ〜】
「………悪い。すぐ戻る」
【りょーかーい】
葉樹との会話を終え、彩葉は小さく息を吐いた。
葉樹は彩葉の左足の傷を化け物にやられたとずっと思っている。葉樹は暴力の事を知らない。知っているかもしれないが。
彩葉は小さく息を吸い、深呼吸。
痛みも治まって来た。戦況はこちらが有利。決着をさっさとつけよう。
彩葉は足元をガサゴソと手探りで探すとマシンガンを発掘。ガシャンッと近場の岩にセッティングして、神経を集中させる。
「………………死ね」
ーバンッー
化け物に当たるように彩葉は大将への憎しみ全てを銃弾にこめて乱射しまくった。
勝敗は、案の定、勝ちだった。




