日記参頁目:パラドックスとアンチノミーの思い出〜雅〜
「事実の書き換え方ってなんですか?」
『陽戒兄様の恋人でした赫袮義姉様が昨日、お亡くなりになられました。既に赫袮義姉様の依り代は長様が除霊後、破棄。運良く残りました遺品は只今陽戒兄様がお持ちです……これが、長からの伝言です……』
そう、自分の兄弟達と親しい友人に報告した雅は疲れ果て、いつもの、住んでいる家の裏にある大木の下に座りこんで休んでいた。
「ハァ…」
無意識にため息が出る。
自分の兄弟達、主に弟達だが陽戒の恋人であった赫袮を本当の姉のように思っていたがために悲しみは大きかった。そして親しい友人の悲しみも。
しかし
「………事実は」
事実は異なっていた。赫袮は亡くなったには亡くなった。どちらかと言うと『殺された』の方がしっくり来るし今の陽戒は『悲しみにくれている』ではなく『狂っている』の方が合っているのだ。赫袮の事実が他の者達に公にはならないにしろ陽戒の異変はすぐに気づかれる。
全てを隠し通す事などできやしない。
雅は幹に頭を付けて木の葉が生い茂る大木を見上げる。そよそよと髪を撫でる風が心地良い。
「雅」
スッと雅の目の前に現れた影。雅が頭を下ろして前を見ると一番親しい友人である男性が悠々と立っていた。
「どうしたんだ?此処にお前が来る時は必ず、何かあった時だ」
「……」
「話すと楽になるもんだ」
「……………負けました話します…桜樹」
雅の降伏宣言に男性はにっこりと笑って雅の隣に腰掛けた。
桜樹と呼ばれた男性。名前は桜樹 龍神丸。灰色のショートで少しだけオールバックになっている。瞳は薄い赤色で右耳に龍をかたどったイヤリングをしている。服は紺色の狩衣で紐(糸)は紫色。両肩に当てを付けている。靴は黒の革のブーツ(ヒール低め)である。
雅はポツポツと話し出す。
「今日、報告をしたでしょう?」
「嗚呼、赫袮さんの事か…残念だったな…え?」
雅がこの話を持ち出したことに桜樹は自分が持っていた違和感を再び呼び寄せてしまった。
あの報告には違和感を持っていたが…まさか当たったとは…
雅は「やはり」と桜樹を横目に見た後、続ける。
「…私は昨日、現場にいたんです。兄様の叫び声がしたので長の部屋に飛び込んだんです…そしたら…兄様が赫袮義姉様を抱きかかえて泣き叫んでいた」
「?!それって…」
「ええ…兄様が赫袮義姉様の遺品を持って立ち去った後、報告しろと命じられたのでこれ好機とばかりに聞いてしまったんです…」
明らかに雅の顔が暗くなる。桜樹は話を急かすことなく、彼が話し出すのをゆっくり待った。しばらくして雅は自分を落ち着かせるように深呼吸を繰り返した後、何処か遠くを見据えて事実を吐き出した。
「…そしたら長、義姉様に何をしたと言ったと思います?‘赫袮を強姦して壊してやった。陽戒のお望み通り、俺の駒にして最高の結末だろ?’って…!!」
悲痛な表情を浮かべ、雅は顔を体育座りしていた足に押し付けた。桜樹は驚きで声も出なかった。桜樹の中に渦巻いていた悲劇が現実となっていた。
「雅…」
「兄様は狂った…私達はどうしたら良いのでしょう?長はこれからも弟達や他の仲間に暴力を働くでしょう…今はまだ千鶴の治療で大事になってはいませんが…桜樹、私は、怖いです」
桜樹は雅を慰めようと腕を挙げたが小さく震える雅の背中と声に置き位置を変更。優しく頭を撫でた。自身の弟にする時のように。
「いつか本物の“荒神”になって、憎しみに喰われて、君や弟達を殺してしまうのではないかと……」
「大丈夫だ。そん時は俺が止めてやるから」
「………ありがとうございます…」
雅のズボンに濃い染みが出来つつある。どういう意図で流した涙かは知らない。恐怖からかもしれないし、悲しみからかもしれない。それでも桜樹は何も聞かずに彼が涙を泣き枯らすまで頭を優しく撫で続けた。
***
「雅さーん、兄さーん、何処ー?」
いつの間にか桜樹の肩で居眠りをしてしまっていた雅はその自分を呼ぶ声に起こされた。眠気眼を擦りながらこちらも寝てしまっていた桜樹を起こす。
「桜樹」
「…んっ…あれ…俺も寝ちゃってたか…」
「葉樹が呼んでいるようです。行きましょう」
「分かった」
寝起きでフラフラの足取りの桜樹と共に雅は自分達を呼ぶ声を響かせる葉樹の元へと歩いて行った。
「あっ!いたぁー!もう何処にいたの?!」
「すまんな」
「すみません」
ようやく現れた目当ての2人に葉樹はプンスカといかにも怒ってますと言わんばかりに腰に手を当て言う。その手には彼の、“荒神”の武器である短剣2本が握られていた。それに即座に呼ばれていた意図に気づく2人。
「……要請が来たんですか」
「そうなんだよね〜大将様は雅さんと兄さんと俺、あとはテキトーに連れて行って全滅させて来いってーじゃあ、俺、残りの何人か探してくるから雅さんと兄さんは武器取って来てよねーあっあと」
長々と話していた葉樹が雅を見据えて、悲しそうに顔を歪ませて言う。
「赫袮さん……御愁傷様だったね」
「……ええ……ほら、早くお行きなさい。全滅させに行きますよ」
「うっ、は、はい!隊長!!」
ピシッと慌てたように敬礼をし、葉樹は残りの何人かを探しに駆けて行った。桜樹はニヤニヤと悪戯っ子のように嗤いながら雅を見る。
「‘隊長’、だって?また厄介なお役目だな?」
「あ……あとで葉樹に押し付けます」
「俺の弟だ。お手柔らかに押し付けてくれ」
「分かりました。ではさっさと武器を取りに行きましょう」
「嗚呼」
2人は小走りで自分達、“荒神”の武器を保管している保管庫に向かって行った。
そして、雅はレイピア、桜樹は2本の長剣を手に葉樹が連れて来た者達と共に化け物退治に赴いた。
雅兄さんってレイピアって感じしません?ウチだけですかねぇ…




