日記弐頁目:アンチノミーとうそつき〜序章〜
「堕ちた者は一体誰ですか」
「だーかーらー!もう終わっちまった事だろ?!いい加減、解放してくれ!兄貴!」
「だーめっ!」
ある一室で正座させられている少年とその前に仁王立ちしている少年。正座させられている少年は足が痺れて来たのかぷるぷる震えている。仁王立ちしている少年はそれを知っているにも関わらず解放させないようだった。
「………兄貴…限界…」
バタリと正座を崩して少年が足の痺れに「あ"あ"〜!」と悲鳴を上げる。それにもう一人の少年は「ザマァ」とニヤリと嗤っていた。
「彩葉が悪いんだよ?今日の診察来ないから」
「だ…だって…弟達の面倒を…「言い訳無用」…オレが悪かったです、これで許してくれるか?」
彩葉と呼ばれた少年が目の前の腕組みをし、明らかに機嫌の悪そうな少年に言う。少年は少し悩んだフリをし、
「まぁ良いよ。じゃっ、今から診察ね。はい、左足出してー」
「ホント、兄貴って色々鬼畜」
「さっさと出す」
「分かったって、千鶴兄さん?」
そう文句を垂れながら少年は左足の裾を捲り出し、もう一人の少年、千鶴と呼ばれた彼はその少年の前に座り込んだ。
彩葉と呼ばれた少年は、朱色のショートヘアーで髪の先端が赤くなっている。瞳は同じく朱色。両手に指先のみが出る黒手袋をしている。山吹色と焦げ茶を基調とした巫女装束のような服(上のみ)に左足のみ少々丈の長いズボンを履いている。室内なので靴は脱いでいるが靴は黒のヒールが少し高い靴。
彩葉は服(巫女装束のような服・上)と名前で女の子と思われがちだが男です。男です(大切な事なので一応2回言いました)
千鶴と呼ばれた少年は白い長髪を首根っこ辺りで緩く結んでいる。緩く結んでいるのは黄色い、小さな鈴がついた紐だ。瞳は青色。黒の上下同じ軍服を着ている。下は膝まであるズボン。室内なので靴は脱いでいるが靴は黒のブーツで黒のソックスを合わせている。
彩葉が左足の裾を捲る…と現れたのは赤く腫れた傷と既に青タンへと変貌した傷だった。それを見て千鶴は眉をひそめ、顔を歪めた。
「………だから来いって言ったのに」
「すまん」
「謝って済むなら僕が診察する意味ない……後で塗り薬持ってくる」
「ホントすまねぇ、兄貴」
本当にすまなそうに表情が沈んだので千鶴は彩葉の頭を優しく撫でた。そしてシリアスな雰囲気をありがたくもぶち壊すような声と衝撃が千鶴の背後から襲った。
「チィ!イロ!」
「うわっ?!」
「わっ?!」
千鶴が彩葉に前のめりに倒れるとドミノ倒しのように彩葉も後ろに倒れる。千鶴の髪を結ぶ紐に付いた鈴がチリン…チリリンッと小さく鳴った。
「あら〜?ごめんね」
千鶴に飛びついた声が背後で言う。千鶴が彩葉を助け起こしながら背後を振り返り、声の主を睨む。
「何やってんの葉くん!」
「いやはやー本当ごめんね」
背後にいたのは千鶴に怒られて申し訳なさそうな表情をした青年だ。申し訳ないと思っているようだが楽しそうに笑っているため説得力に欠ける。
「いつも通りだなぁ、葉樹は」
「あっははー」
彩葉が苦笑して言う。それに3人がくすくすと笑った。
葉樹と呼ばれた青年。名前は葉樹 刻翁丸。黒のセミロングで右目を前髪で隠している。瞳は藍色。左耳に白い小さな百合の花のイヤリングをしている。服は黒の童水干。紐は赤黒い色。靴は2人と同じように脱いでいるが草履だ。
3人で笑いあった後、
「じゃあ、僕は持ってくるね」
そう言って千鶴が立ち上がると彩葉が「オレも」と立ち上がる。それに千鶴は慌てたように彩葉を引き止める。
「彩葉は葉くんと此処に居て。正座で足痺れさせちゃったけど一応のために」
「えぇ…駄目か?」
彩葉がションボリとするのに千鶴は少々罪悪感に苛まれながらも彩葉を座らせる。と葉樹も彩葉の隣に腰を下ろして座った。千鶴はよしっと内心強く頷いて一室を出ようとした。
「ツルー彩葉の薬ー」
……出ようと一歩足を踏み出した所で扉が開き、一人の、千鶴にそっくりな少年が円形の塗り薬入れを千鶴に差し出しながら立っていた。「ナイスタイミング〜僕」と一人でガッツポーズを決める少年に千鶴は呆れ顔でため息をつくと塗り薬入れを受け取る。
「ナイスタイミング過ぎワロス(棒読み)」
「さっすが千秋兄さん」
部屋の中で彩葉が感心したように呟く。少年はニッコリと笑って痛ましい左足をさらけ出したままの彩葉に心配そうに問った。
「大丈夫?彩葉。それ、昨日‘付けられた’奴でしょ?」
それに彩葉の顔から笑みが消える。葉樹は彩葉から笑みが消えたのを知っていながらこの空気を絶対にシリアスで包まないようにと笑ったままだ。逆に浮いている気がするが。彩葉は自傷気味に笑う。
「嗚呼。でも、大丈夫だ」
千秋と呼ばれた少年は千鶴と同じ髪色で長髪をポニーテールにしており、同じ黄色い、小さな鈴がついた紐だ。瞳は山吹色。服は千鶴と同じである。
千秋は部屋の中に入ると彩葉の前に片膝を着くと彼の頭を先程の千鶴のように優しく撫でた。
「……なんで…“荒神”は………いつも、‘ ‘愛されない’ ’の?」
ツゥ…と千秋の瞳から涙が零れ落ち、床に染み込む。誰も何も言わなかった。だって、‘分かっている’事だから。
***
“荒神”、神の別体であり人間で云う式神。そして、「神様」と人間の都合の良い駒である。
使役者は陰陽師の末裔から始まり今や一般人もが“荒神”を使役し、敵である化け物と戦争を繰り広げている。
ただ、人間は“荒神”を使役し、指示を出し、安全なところで踏ん反り返っていると云う方がどちらかと言うと正しい。何処にでもあるような物語の設定のように“荒神”は、例外以外死なないと云う特殊設定持ちである。しかし、“荒神”も別体と云えど神であるので少なからず治療は必要であるが……そんなことが許されるのはごく一部のみである。
そして、そんな“荒神”はこの世で闘うために依り代が必要である。当然、依り代が壊れれば例外である死が訪れるし、依り代が傷つけば直に付いた傷よりは痛いし酷い。
まぁ、そんな話は置いとくとしよう。使役者は「化け物を倒す者達の上に立つ者」と云うことから一般的に‘大将’と呼ばれ、その大将が使役する“荒神”達の隊、もしくは軍(此処の呼び名は大将次第で決まる)を軍隊と呼ぶが一部の者は「自分だけの軍隊だ」と云う事で名前を付けたりもする。そこは個人の自由だ。
大将は化け物の情報を扱う管理局からの要請を受けて軍隊を派遣する。さしずめ派遣会社のみたいなものかもしれない。使役者、大将は化け物と“荒神”の数だけおり、戦場も化け物によって何個も作られているので世界中がレスリングのリングのようなものである。戦場で要請を受けた軍隊同士がぶつかり合って喧嘩になることもしばしば。
“荒神”はたくさんいるのでランダム。兄弟や友人がいたりすると引き寄せる。どうやって出てくるかは“荒神”によって異なり、依り代に移してから現れるのか現れてから依り代かも“荒神”次第。人間は“荒神”を使役するのに霊と云う精神を使う。つまり、代償である(詳しく?は***頁参照)
***
本当の事を言えば、彩葉の足の傷は自分達の使役者である大将にやられたものである。上記に記した通り、人間と神の駒である“荒神”に虐待を加え、放置するというケースは珍しくない。だいたいが初期からいる陰陽師が多い。彼らもその中の一部なのだが……
「イッッッッッタッッッッ!?」
「千秋、葉くん、彩葉の事しっかり押さえててよ」
「はいよ」
「ごめんねー彩葉。我慢して」
ただいま彩葉の左足の治療中である。傷に塗り薬が染みて彩葉が逃げ出すので葉樹と千秋が2人して羽交い締めにしている。彩葉は痛いようだが我慢しているようだった。
「っっっっっ」
「…よしっ。包帯巻いて終了!お疲れ様でした」
テキパキと彩葉の左足に包帯を巻きつけて終了と片付けを始める。それに葉樹と千秋が彩葉を解放する。彩葉は包帯が巻かれた左足をさすりながら自分を押さえていた2人を振り返った。
「葉樹も兄貴も少しくれぇ手加減してくれよ」
「ムッリ〜ごめんねイロ」
「弟の頼みは聞き入れてあげたいけどさ、双子の兄弟の方が優先順位高いからさ?」
「さっすがブラコン兄弟ー!」
千秋がそう言うと葉樹が可笑しそうに笑う。それに彩葉も千鶴も千秋も釣られて笑い出す。
千秋の云う通り、千鶴と千秋は双子で彩葉は弟である。まだ上に2人の兄がいる。葉樹にも兄がいる。
辛い、このような悲劇に見舞われたとしても兄弟や友人がいるから大丈夫。
そう、思っていた日常は、自分達の大将のある出来事によって無残にも崩れ去る。
「うわぁぁぁぁああああああああ!!!赫袮?!赫袮ぇえええ!!」
男性の悲痛な叫び声が使役者である大将の部屋から響き渡った。それは奇しくも千鶴と千秋兄弟と彩葉がよく知る人物の声だった。
「?!今の声って…」
「「陽戒兄さん?!」」
***
「兄様!?どうされまし…っ?!」
大将の部屋にノックもせずに扉を開けて飛び込んだ男性はその部屋に漂う異臭に顔を歪め、鼻を手の甲で抑えた。
部屋はカーテンが締め切られているために暗く、床には紅い液体と淀んだ色の液体が広がっており、その液体の中央には光をなくした瞳のまま微動だにしない女性と彼女を抱きかかえ、嘆き叫ぶ己の兄の姿があった。
「……これは、どういう…」
「嗚呼…雅か」
その低い声に雅と呼ばれた男性は扉付近を見た。すると自分がいる入り口の近くに少年の面影を残した青年が腕組みをし、部屋の中の2人を見ていた。
雅と呼ばれた男性は漆黒の黒い髪色でショートで灰色の瞳。上下を黒の軍服で統一し、ネクタイを締めている。下は長ズボンでお察しの通り黒。靴は室内なので脱いでいるが靴は黒のブーツでヒールが高く、ズボンの下だ。
雅は、青年に問う。
「……何が、あったんですか…」
「嗚呼、これ?…自分の大事なものを壊されて絶望する顔って、滾るよな」
ガッ!雅はその言葉にこの現状の意味を読み取った。そして憤怒のあまり、青年の胸倉を掴み上げ、壁に押し付けた。なんとも思っていないその瞳が余計に雅を苛立たせる。
「貴様……よくも…っ!!」
「あはは…お前も、お前も気づいてただろ?!」
「?!」
目を見開き、そう告げる青年の瞳には何が宿る?
「俺は完璧じゃない!赫袮に恋い焦がれてもいつも陽戒が全部奪う!だったら!!」
憎しみと怒りと絶望と悲しみがその瞳から、声から溢れ出る。でも、それは……それは!!
「最初から奪った方が楽だろう?駒である“荒神”から何もかも!!!」
高笑いする青年もとい自分達の大将。雅はそれに驚愕し、絶望し、大将を離した。それでもなお彼は笑い続ける。
「……あか…ね…赫袮…」
その声に背後を振り返ると床に届くほど長い茶色の髪をし、椿の花が散りばめられた和服を着た女性を横抱きにし立っている男性がいた。男性の瞳からは涙が零れ落ち、その瞳に以前まで宿っていた光は消えていた。男性は笑いを抑えつつある大将を光のない瞳で見やり、
「……コロ…ス……オマエヲ……アカ、ネガ…」
カツンッ…と女性、赫袮がしていたであろう椿の簪が床に落ちて悲しい音を奏でる。
「………………復讐ヲ……」
さあ、使役者が望んだ絶望の始まり始まり




