第七十弐陣:別れと思い
若葉から貰った本について書かれていた異世界の〈核〉。〈神様天国〉では神樹と呼ばれる御神木様だった。本当に“彼”が書いた通り、〈核〉が正常に作動。〈神様天国〉は滅亡の道を辿り出した。
それが分かった頃には青かった空は暗くなり、太陽を雲が覆い隠した。不穏な雰囲気を出しながら冷たい風が吹き出す。ゴゴゴ……と云う不気味な地響きがどこからともなく聞こえてくる。
「……もう、10分もないよ!!」
海が〈力〉を使い、滅亡へのタイムリミットを慌てたように叫ぶ。
たった約一日の付き合いだった新たな友人達にせめて、別れを。
きっと、滅亡したら永遠に逢えない。そんな気がしてならない。
「お別れだね、疾風。ありがと、僕らの弟分になってくれて」
「嬉しかった。短い間だったけど、ありがと」
ギューッと空風と海風が元の少年の姿に戻った疾風を両脇から抱き締める。それに疾風は驚いていたが抗うことなく身を委ねた。過去に、前世に兄弟達とあったまるためにこんな事をしていたのを思い出しながら、笑って言う。
「僕も2人の弟分になれて良かったよ。空風、海風」
冬が心配そうに空を見上げる海に近付くとツイツイと服の袖を引っ張る。海がそれに反応して冬を見る。
「海兄」
「ん?何、冬」
「俺の話とか聞いてくれたよな。ありがと!また会えたら!」
ニカッと歯を出して笑う冬。その笑みが少々泣きそうだったのを海は気づいていたがあえて言わなかった。過去、前世にこんな事があったなと思いをはせつつ。
「うん。また会えたら良いね。その時は……また、話そうっ」
「なんで海兄が泣きそうになってるんだよー」
「だってぇー」
泣き笑いを浮かべる海とそれを笑う冬。海は冬の頭を撫でた。
「2人共、元気でねー」
鳶丸が羽を使って空中を漂いながら四季と左眼丸に言う。それに四季が可笑しそうに含み笑いをしながら言う。
「早いでしょー鳶丸ー…楽しかったよ」
「………俺も、鳶丸と話せて、楽しかった」
四季と左眼丸が鳶丸を見上げてニッコリと笑って言う。それに鳶丸はキョトン…としたが「二ヒヒ」と悪戯っ子のように笑う。過去、前世にいた兄弟や友人と笑い合うように2人も笑う。
「ボクも!楽しかった!」
元の男性の姿に戻った夜征に東雲が近付くと言った。
「桜舞さん、色々ありがとうございました」
丁寧に、背筋を伸ばして、ピシッと軍人のように敬礼する東雲に夜征は笑い、頭を今も過去も同じように優しく撫でる。
「こちらも色々お世話になりました。ありがとうございました」
ニッコリと笑う夜征に東雲は恥ずかしくなったのかわからないが頬を赤く染め、精一杯笑った。
「また会えたら、今度は桜舞さんのお話を聞かせて」
「ふふ、仕方ありませんねぇ」
マスターは若葉と別れの握手を交わしていた。
「色々世話になったな。感謝する」
「こちらこそ。色々ありがとう」
若葉は今度は響と握手を交わし、同じ別れをする。2人との別れを済ました後、響は気になっていたことを問う。
「どうやって逃げるつもり?移動したことあるんなら別だけど…」
その問いに若葉は得意げに笑った。それが答えだ。
「私はね、禁呪と妖術で移動をすることができるんだよ。まぁ、非常時にしかやらないある意味副作用だけどね」
バッと若葉は片目を覆っていた包帯を外す。あらわになった左目は濁った深緑色をしていた。というか深緑色なのかどうかもわからない。
「空風、海風、東雲、冬、鳶丸!準備が出来たら私の所に!」
『はーい/了解/分かった/応!はいよー』
子供達が返事を返す。それに別れが済んだと分かったマスターも叫ぶ。
「四季、海、左眼丸!移動の準備を頼む!緊急事態だ、丁寧だとかそういうのは気にするなっ!」
『御意』
三兄弟が広い場所を探し、そこに緊急事態なので石ではなく武器で地面に掘っていく。
若葉はある意味副作用の力を使う。
「汝、我が願いを聞き入れよ!」
若葉がそう叫ぶと彼の左目が深緑色に光る、と若葉を囲むように深緑色の光の柱が現れ、地面には魔法陣のような模様が浮かび上がる。
「若葉!何処に避難させるつもり?!」
「とりあえず、消滅した異世界もあるから近場に移動するよ。その後は…考えてないけど」
疾風の問いに若葉はそう答える。緊急事態だ。何処でも良い、今はそれしか考えが回らない。
ードゴンッッッ!!ー
大きな音に全員が振り返ると東雲と冬の屋敷が地面に吸い込まれて行くところだった。もう、時間がない。
「ボクがいっちばん乗り〜!じゃあねみんな!」
鳶丸がこんな時なのに明るく笑い、おちゃらけながら若葉の周りを囲む柱に飛び込む。シュン…と控えめな音がして鳶丸が姿を消す。移動したようだ。
「海風!行こっ」
「嗚呼」
双子が兄弟達に手を振った後、鳶丸と同様に柱に飛び込む。続いて冬も東雲の手を引いて柱の近くまでやってくる。
「またな!」
「何処かで」
冬は大きく、東雲は控えめに手を振って柱に飛び込んだ。残ったのは柱に囲まれた若葉のみ。若葉はにっこりと安心した笑みを浮かべ、言う。
「ありがとう、零慈と響薬は空風と海風の従姉弟でさ、仲が良かったから悲しみも大きかったんだ。数年前に死んだと、思ってたからあの子達の喜ぶ顔が目に浮かぶよ」
「ふふ、そうだな」
若葉の話にマスターはそう相槌を打つ。あの双子の事だ。弟分が出来た時と同じように…いやそれ以上大喜びするだろう。
「………ねぇ、姫さん」
若葉はそうマスターを呼んだ。鳶丸と同じ呼び名を使っていた。それにマスターがなんだ?と優しく微笑んで首を傾げる。
「……“彼”を、責めないで。止めて。君に、頼みます。この世界も“彼”も“彼”の想いも…」
スゥ…と若葉の左目から涙が流れ落ちる。マスターは、力強く、それでいて静かに頷いた。それを見た若葉は嬉しそうに笑い、
「では、お先に失礼する」
そう言って柱を自身に吸い込ませた。光が晴れると若葉も移動したらしくそこには何もなかった。
「マスター!!」
さて、私達も。
マスターは振り返った。




