第六十壱陣:幸せと絶望の狭間、そしてーー
遅くなりました、すいません。投稿です!
「うぅ…飲み過ぎたかな…」
「ほんっと、若葉ってちょっと抜けてるよなーはい、濡れタオル」
「ありがとう、冬…横になってれば治る…絶対治る…」
「それフラグゥ〜」
「…私は横になってれば大体、治る…もう後で回復術使お(ボソ」
東雲と冬の屋敷でどんちゃん…まではいかないが酒盛りをやったため全員そこでお泊りとなった。そして庭に面した部屋では二日酔い気味の若葉が心配に彼を見ている冬から濡れタオルを受け取り、横になっていた。2人の近くには若葉の屋敷から持ってきた本を寝そべって読んでいる四季がいる。
庭には武器を持った空風&海風双子が目の前の疾風の稽古に挑もうとしており、それを見守るように縁側に夜征と左眼丸、鳶丸が座っている。
「若葉、お水持ってきたよ。飲んで。2人には麦茶ね」
「…ありがとう、東雲」
「「ありがとう」」
東雲がお盆に水と麦茶が入ったコップを持って来た。そしてそのお盆を直に畳に置いた。自らもそこに座ると庭の対戦に目を向けた。
「ほらーマスター!響兄!」
「待ちなって海」
「そんな急かすな」
とそこへマスターと響、海がやって来て縁側の3人の隣に腰掛けた。3人も稽古が気になるらしい。
「準備いい?」
「当然♪」
「嗚呼」
武器を構えた双子の意気込みに疾風は笑う。疾風を白い粒子が包み、白虎と化す。それに双子は慄くことも驚愕することもなく稽古を楽しむかのように嗤った。他の者達(マスター達を除く)も同様だ。
「それじゃあ始めよう」
「「疾風兄の厳しい稽古、始まり始まり〜」」
「…だ」
疾風がスッと大きく跳躍する。と三兄弟が開始の合図のように言う。
バッと双子は二手に分かれると疾風の一撃をかわす。そして空風が素早い動きで疾風に向かい、武器を振る。
「っ?!」
突然、疾風は白虎化を解き空風の攻撃をひらりとかわした。突然の事に空風の武器は空を切り、彼は前のめりになった。その背へ軽く蹴りを入れ、また跳躍する。そこへ海風が武器を振るがそれを体を捻ってかわすと着地する。双子はパチンッと手を合わせると武器である脇差をクルンッと手首で一回転させる。
「兄弟、反撃開始!」
「おう!」
「君達の実力、見させてもらうね。〈白虎変化〉」
やる気の双子に答えるかのように疾風は再び白虎化する。そして双子は疾風に向かって跳躍し、両者の刃物がぶつかり合った。
「うひょー!あの子凄いね!空風と海風兄弟の攻撃、ぜーんぶかわしてる!」
疾風と双子の稽古を観戦中の鳶丸が興奮し、叫んだ。鳶丸の言う通り、疾風は双子が同時にする攻撃も別々にする攻撃も的確にかわし、反撃を加えている。
「………えっへん」
左眼丸が自分のことのように胸を張った。兄が褒められて嬉しいらしい。
「疾風は元々、武器を使う者だった。しかし今は素手と白虎に攻撃手段を移した。それによって視野が広がっているんだよ」
マスターが説明すると海と鳶丸が感心するように目を輝かせた。それを見て前から知っていた響と夜征の兄組は苦笑していた。
それでは対戦に戻ろう。海風の攻撃を右の爪で防いだ疾風。そこに空風が脇差を振る。疾風はそれを左の爪…ではなく人間の、生身の手で掴んだ。それには双子もびっくりしたようで攻撃の隙が生まれる。疾風はそこをつき、一瞬で元の少年の姿に戻ると双子の足を刈った。
「うわっ?!」
「っっ?!」
「夜征兄、短刀貸して。すぐ返すから」
「はぁ…先に言ってください…」
双子が無防備に倒れる中、疾風は夜征に刃物を要求する。夜征は仕方なさそうに目を伏せると短刀を2振り出し、疾風に向けて投げた。稽古のルール上に「観戦者の力を借りてはいけない」などとはないので違反ではない。まぁ、あらかじめ疾風が稽古で夜征の武器を借りる事があると忠告しなかった三兄弟も三兄弟だし、言わなかった疾風も疾風だが。
疾風は倒れる双子の手元から脇差のみを横蹴りで弾くと夜征が投げた2振りの短刀を受け取る。とそれを倒れた双子の首筋目掛けて突き刺した。
「「?!」」
本当に突き刺しはしなかったが双子は冷や汗をかいたと云う。疾風は双子に向かってニィと嗤った。
「僕の勝ち。夜征兄、ありがとう」
疾風が短刀を手放すとそれらは桜の花びらに包まれて消えた。悔しそうに立ち上がり、武器を拾う双子。と空風が心配そうに疾風に問った。
「あのさぁ…左手大丈夫?」
「左手…?嗚呼、これ」
空風に言われるまで怪我の存在をすっかり忘れていた疾風は血塗れの左手を一瞥すると、ペロリと舐めた。
「えええ?!」
「疾風?!」
「あーー」
驚く声と呆れる声がする中、真っ赤だった疾風の左手はかろうじて元の肌色を見せていた。
「こんなの、舐めてれば治るでしょ?」
「「動物かっ?!」」
何を当たり前なと言う感じに言う疾風に双子がそうツッコミをかます。クスクスと可笑しそうに笑いながらマスターがやって来、疾風の左手を無理矢理とって傷を治して行く。
「マスター!大丈夫だっt「疾風が大丈夫でも私は大丈夫じゃないんでね」……」
傷を治し終え、「はい」とマスターが疾風の手を放す。疾風は左手の感触を確かめると傷が治って安心した様子の双子を振り返った。
「あ、僕ら負けたから弟分の話はなしだねー」
「残念だな」
「…………いいよ」
「「え」」
「弟分の話!」
疾風が恥ずかしそうに叫ぶ。双子は顔を見合わせていたが嬉しそうに笑う。そしてそんな疾風を空風が抱きしめた。
「わーい!弟分だー!」
「ちょっ…?!」
「疾風兄、良かったねー!」
「空風と海風、良かったなー!」
部屋の中から四季と冬が言う。抱きしめられた疾風は満更でもないようで笑っており、そんな微笑ましい光景と新たな絆にみんなが少々感動していた。
「一時の幸せは、一瞬にして絶望と化す」
その時だった。




