第六十陣:色の贈り物
「桜舞さん、あっちでお酒飲んでてもよかったのに」
東雲は台所の中央を陣取っているテーブルに頬杖を尽きながら言う。ちなみに座っている。東雲の視線の先にはこちらも座った夜征がいる。
「いいえ。万が一の事があってはなんですから」
「ふふ、桜舞さんって真面目だね。他の人にもそう言われない?」
「言われますね。‘もっと肩の力を抜いてもいいんだよ’、と。そう言われましてもこれが私ですからねぇ」
夜征のその言葉に東雲はクスクスと笑った。
「話は変わりますが東雲さんの髪質は珍しいですね。とっても綺麗です」
夜征に突然そう言われた東雲は真顔から照れたように顔を赤くした。夜征は何か失礼な事を言っただろうかと心配になって少々オロオロした。
「あの」
「大丈夫。ちょっと嬉しかったの」
年様相に笑う東雲は瞳に少しの哀愁を漂わせて言う。
「僕、お父さんの遺伝でこんな髪質なんだけどね…色んな人からバケモノ呼ばわりされてたから‘綺麗’って言われて嬉しくて」
「バケモノ…ですか」
東雲の言葉に夜征の脳裏に前世、過去のあの出来事がよぎる。‘バケモノ’、言い続けられた忌まわしき言葉。
「でも」
「?」
「今は誰も言わない。誰もバケモノだなんて言わない…いえ、言わせない」
力強い言葉と瞳で言う東雲。それに夜征は彼女は大丈夫だと確信した。この強い光は闇に決して負けないだろう。
夜征は柔らかく微笑むと立ち上がり、後ろ、流し台の方を見ながら言った。
「此処にある食材を使ってもよろしいですか?」
「?良いけど…なにするの?」
夜征の行動に困惑する東雲に向かって夜征は人差し指を口元に当て、笑う。
「強い君にご褒美をあげましょう。私の得意なお菓子を作って差し上げます。皆には秘密ですよ」
そして夜征は台所に立つ。東雲はそれに嬉しそうに手を叩いて頬を染めたが背を向けた夜征は知る由もない。




