第五十玖陣:お酒の席で楽しく話しましょう
「あれ、四季も左眼丸も寝ちゃった?」
「あはは、疲れてたんだね。熟睡だよ」
寝息を聞き、疾風が寄りかかっている左眼丸とその隣に座っている四季を見上げると2人は今日の、いや別の疲れも出たのかぐっすり眠ってしまっていた。幸いにも壁際にいたので倒れる事は無い。
疾風は痛む体を引きずって立ち上がると2人を横にし、掛け布団代わりにと座布団をかけた。
「優しいんだな」
「僕の弟達だしね」
海風が背後で飲み物片手に言う。それに疾風は「当たり前だよ」と言うように答えた。がやはり体は痛むし、フラフラのようで正直、彼が倒れやしないかと不安そうに海風は見ている。それに気づいた空風はそーっと疾風に両手を伸ばすと自分の方へ引っ張った。以前にもやられたので疾風は抵抗せずに(ただ単に力も体力も残っていないだけだが)後ろに倒れるように座り込む。
「何すんの?」
「んー?倒れないようにした」
「空風」
「いーじゃん!僕、こんな弟欲しかったんだよね。海風も欲しがってたでしょ?」
「え?!」
空風の言葉に疾風は彼らを見上げ、双子の兄弟に思考を見破られ、海風はムッと顔をしかめた。
「そうなの?海風」
「………はぁ。嗚呼、そうだよ。弟が欲しかったんだ」
「やっと認めたね、海風♪」
疾風の問いに海風が呆れ顔で答えると認めた事を茶化すように空風が言う。
「って事で疾風!弟分で良いからなって?」
「えぇ?!」
「返事は?」
驚く疾風を尻目に双子は急かす。疾風は少々、過去に思いを馳せながら楽しんでいた。前世、過去に以前の兄弟達や友人達とやれこいつを弟分にくれやらこいつを兄貴分にくれなどと苦しい中で話していた。結局、誰一人として弟分にも兄貴分にもならかった。いや、‘話すら出来なかった’と言う方が正しいだろう。
疾風はクスリと微笑んで、挑戦的に言い放った。
「だったら、明日の稽古で僕に勝ってみせてよ。勝ったなら考えてみるけど?」
‘疾風兄は稽古の鬼’。三兄弟からそう言われるほど疾風の稽古は厳しい。いつもならバッサリ断るのにあえて稽古にしたのは疾風に前世、過去の記憶からだった。
そんな疾風の心情を知らず、双子は顔を見合わせたがニィとこちらも挑戦的に笑った。
「「その挑戦、受けて立つ」」
「ハハッ。楽しみにしてる」
そう三兄弟が見たらきっと「悪い顔してる」と言われるであろう笑みを浮かべながら疾風はテーブルの上にある自分の飲み物を取るとグイッとあおった。
「いける口だねー三日月」
「鳶丸もね」
カツンッと飲み比べをしていた鳶丸と響は酒が入った盃をぶつけ合うと並々に注がれた酒を飲んだ。鳶丸は酒を飲む動作の尻目に隣で潰れたはずの若葉が自分の、まだ少量酒が残った盃を取ろうとしているのを見て、慌てて彼の目の前から奪い取った。
「ちょっ…!若葉はこれ以上飲んだらダメっ!」
「まだ…飲みたい…」
「ダメ!」
「グゥ…」
昼間の真面目というかしっかり者だった若葉はすっかり酒に強い鳶丸と響の飲み比べによって酔い潰れていた。若葉は酒のせいで顔が赤くなっている。鳶丸に酒を取られて不貞腐れていたが眠気に勝てなかったのかテーブルに突っ伏すと寝た。それはもう秒速で。
「早っ?!早くない寝るの」
「若葉は潰れると寝ちゃうんだよねーホント秒速で」
驚く響に鳶丸は笑いながら説明すると若葉の盃をテーブルの中央に置いてあるお盆に載せた。後で酒が飲めないため後片付けに回っている東雲か万が一のために酒を断り東雲を手伝っている夜征が取りに来てくれるだろう。
「最速は2.5秒だったかな?一口で撃沈」
「わぉ。早いね。弟達でもそこまで早くないよ。てかお酒強い方だし」
「え、全員飲めるの?!ていうか疾風は確実に飲めない年齢だよね?!」
今度は鳶丸が驚き、身を乗り出す。響はクスクスと控えめに笑いながら酒を飲む。
「嗚呼見えて疾風はとっくに大人だよ?俺達の方は全員、酒が飲めるくらい。…でも、この子だけは色々別かな」
そう言いながら響は自身の隣で猫のように包まって寝てしまっているマスターを見た。自分でも分かるくらいに顔はマスターを愛おしそうに微笑んでいた。響はマスターの頭を布越しに優しく撫でると寝ぼけているのかマスターはそんな彼の手に頬ずりした。そこもまた愛らしいと思ってしまう。
「…ふーん。三日月は姫の事、大事にしてるんだね。表情で分かるよ」
「まぁね。この子は、俺達で言うところの光。闇に埋れた俺達を救った光なんだ」
そう、マスターは彼らを救った光。大切な存在で恩人だ。最も、響の中ではそれ以上の存在だけれども。
鳶丸は頬杖を尽きながら響の方を見てニヤニヤと笑った。それに気づいた響が訝しげな表情をする。
「……何」
「いんやー?三日月ってホントに姫の事、好きなんだなぁーって?他の人と接し方違うし。もしかして、恋愛感情?」
からかうように鳶丸が言い、酒を飲む。酒のせいで顔が少々赤いため響がどう思っているのかは鳶丸にはわからなかった。
からかう口調で言いつつも鳶丸は真剣だった。絶対、三日月は姫の事、好きだよね。確信してる。
響は儚げに笑って言う。
「この子には、マスターには秘密だからね」
その顔が惚けているようにしか見えなかった鳶丸は内心、早くくっつけよ!と思ったらしい。




