第五十漆陣:鳥の子
「マスターヒマー」
「そんな事言われても困るよ」
「若葉がそこの本棚の本読んでもいいって言ってたよ。それ読んでたら?左眼丸も読んでるし」
「うん。左眼丸ーナニ読んでんのー!」
「……図鑑。動物図鑑…」
四季が壁際で分厚い本を読んでいる左眼丸の元へと膝で移動すると2人で覗き込む。響はマスターと一緒に何か会話をしている。
若葉が夜征と海を借りて行き、少年(海風)が疾風と共に別の部屋に手伝いで居なくなって早数十分。用意されたお茶は底をつき、マスター達は少々退屈していた。
「子供達って何人いるんだろうね」
「さぁ…わからない。でも」
マスターはテーブルの上に懐からあの本を取り出して置き、あるページを開いてそのページを人差し指でトントンと叩いた。
「この異世界の事は、記載されている。人工的に創られたとしても“彼”は此処を異世界と認めたようだ」
響はマスターが示すページを見るとそこには〈神様天国〉の情報が記載されていたが重要な情報はあまり載っていなさそうだった。それぐらい文章がなかったのだ。
「左眼丸はどの動物が好き?」
「………俺は……猫、かな」
動物図鑑を2人で見ながら楽しそうに話す四季と左眼丸。マスターは本をしまい、再び響とこちらも楽しそうに会話を始める。
と、その時だった。
ーバサッー
何かが羽ばたいた音がした。その方向へ4人が顔を向けると鳶の羽を持った青年がこちらを興味深そうに見ていた。一瞬にして彼らは警戒をしたがこの異世界にいるのは誰だと考えたところ、住人の子供達しかいないと辿り着いた。しかし、警戒を怠る事に越したことはない。
青年は彼らを見て、「へぇ…キミたちか…」と小さく呟いた。
「あれ?鳶丸?どうしたんだい?」
その声に別の方向を見ると帰って来た若葉が不思議そうな顔をしながら立っていた。夜征と海がいない事から子供達と一緒にいるのだろうと分かった。
青年は若葉を見つけ、面白そうに笑った。
「どうしたんだ、じゃないよー若葉ったら。ボクのお散歩コースからでも見えたよ?若葉の術」
青年の言葉にマスター達は「やっぱり深緑色の光は若葉だったんだなー」と改めて確認し、安心した。
「ありゃ。見えた?」
「見えたよ。だから気になっちゃって来ちゃった」
ニヒヒと悪戯っ子のような笑みを浮かべる青年。若葉はそれにクスリと笑うとマスター達に紹介した。
「彼は鳶丸。好奇心旺盛なんだよね。多分、此処にいる子供達の中で一番」
「好奇心旺盛とかーボクは子供じゃないっての!!」
若葉の紹介に青年は面白そうに笑った。それにマスター達(特に四季)が仲良く出来そうだなと思った。
「俺は三日月 響、宜しく。こちらはマスター。俺達はそう呼んでるけど好きに呼んで良いよ」
「宜しく、鳶丸殿」
「オレは万象 四季!宜しくー!」
「………六花 左眼丸…宜しく頼む」
響が笑ってマスターの紹介もやってのける。四季と左眼丸が図鑑を片付けて自己紹介をする。ちなみに若葉とは自己紹介は済んでいる。
鳶丸はマスター達の方へ興味深そうに首を伸ばして名前と顔を確認する。
「…三日月、万象、六花…じゃあボクは姫って呼ぶね!宜しく!」
青年、鳶丸は深い青色のセミロングで瞳は銀色。左耳にのみ鳶の羽を模したイヤリングをしており、両手に指先が出る黒手袋をしている。服は袖がウィングドスリーブ…というか和服のような袖のこげ茶の暗めな服で下は黒の長ズボン。ベルトは黒紫色。靴は黒の膝上まであるブーツ(ヒール高め)。ズボンはブーツに入っている。そして背には鳶の羽がある。
鳶丸はポイポイッとブーツを脱いでそこにほっぽり出すと中に膝歩きでマスター達の方へと歩く。
「鳶丸!」
「いーじゃーん。どうせ若葉がやってくれるんだし?」
「もぉ…」
鳶丸がまた悪戯っ子のように笑う。若葉は仕方なさそうに笑いながら彼が脱ぎ散らかした靴を揃えると自分も靴を脱いで中に上がる。その2人の兄弟のようなやり取りにマスター達は面白そうに笑っていた。
「お茶のお代わりいる?」
「嗚呼、頼むよ。響も?」
「うん。俺も」
若葉の問いにマスターと響が答え、若葉は「了解」と言ってからになった湯飲みに台所へ一度行き、新たに持って来たお茶を淹れた。
「なんで羽が生えてるの?」
四季が自身の隣に座り込んだ鳶丸に聞く。左眼丸も気になっていたようでうんうんと頷いている。鳶丸は羽が邪魔にならないように小さくたたみながら言った。
「ボクの父さんは鳶の神様なんだ。で、母さんは鳶の神様である父さんをまつる村の人柱巫女。父さんが人柱だって言う母さんに一目惚れしちゃってね、ゴールインしちゃったの。んで、ボクは父さんから鳶の羽を受け継いだんだー」
「……なんか、壮大」
「でっしょー」
両親の馴れ初め?を自分の事のようにニコニコと笑って話す鳶丸に左眼丸が驚いたような表情で感想を告げる。
「まぁなんでボクを此処に連れて来たかは知らないんだよね。母さんに‘お友達も此処にいるから、お母さんとお父さんが迎えに来るまで良い子で待っててね’って言われて別れてそれっきり。ボクの友達もいた形跡はあるけど見当たんないし」
「…辛く、寂しくない?両親にも友達にも会えなくて」
四季が鳶丸の表情がなんだか可哀想に見えてそう問ってしまった。問った後、鳶丸の驚いたような表情と左眼丸に肩を叩かれた事で「やっちまった」と思ったのだが鳶丸は四季の思いとは裏腹に笑って答えた。
「大丈夫!ボク、此処でたくさん友達作ったし。それにキミたちと知り合えたからそれで良いよ!」
それに2人は照れ臭そうに笑った。
「言いづらいんだけどね」
若葉が壁際の3人に聞こえないようにマスターと響に湯飲みを渡しながら小声で言った。
「〈神様天国〉にいる子供達はもう……いや、やっぱり、なんでもない」
よほど言いづらいのか、はたまた別の機会に言うつもりなのか。若葉の表情も声色も悲しみ一色に染まっていた。それにマスターと響はなんとなく察した。〈神様天国〉には子供達の声が溢れてても良いはずなのに静かすぎる事からおおよそ予想はついていた。
2人は若葉の悲しみを少しでも減らすように話題を変えた。
「そう言えば、此処の庭って誰が手入れしてるの?とっても綺麗だけど」
「嗚呼、それ?この屋敷は私がやってるんだ。お褒め感謝」
「ほぉ…見事な腕前だな」
「いや、褒められる事じゃ…」
そんな感じで若葉を褒め倒した。




