第五十伍陣:眠った兄弟、待つ兄弟
章の数字、間違っていたのにやっと気づいて直しました。混乱していた方いましたらすいませんでした!!
「こっち来い」
「分かった」
疾風は少年に案内されて屋敷の中を歩いていた。マスター達は居間でまだあの青年と話しているか青年の言っていた‘〈神様天国〉にまだ残っている住人’に会いに行ったのかもしれない。が疾風にそれを知るすべはない。
「僕は疾風。君は?」
疾風が廊下を歩きながら前方の少年に問うと少年は顔だけ振り返って自己紹介した。
「海風。宜しく、疾風」
「うん、宜しく」
少年、海風は空色のショートで後ろ髪の一房だけが異様に長い。瞳は黄緑色。服は上下共に黒と蒼色を基調とした軍服で下は長ズボンだ。紺色のネクタイを締めている。左腕の中間辺りに蒼の腕章をしている。(室内なので靴は脱いでいるが靴は黒のローファー)
「僕は何を手伝えばいいの?」
「時期にわかる…着いた。此処」
そう疾風が問うと丁度良いタイミングで目的の場所に着いたようだ。海風は障子を開けて中に入り、それに疾風も続く。中は殺風景な部屋だった。奥にも部屋があるらしく、「なんもない…?」と混乱する疾風を置いて海風はもう一つの障子を開け放った。
「え」
「…疾風は、〈治癒力〉が使えるか?」
悲しそうな顔をして疾風を振り返った海風の後ろの部屋には布団に横たわる、海風とそっくりな少年が静かな、穏やかな表情で眠っていた。疾風は少々驚きつつも海風の隣に行くと眠っている少年を見る。
「どういうことなの…?寝てるだけ?」
「兄弟が、もう何週間も起きない」
「っ」
海風が悲しそうな声色で告げる。海風は「なんで聞いたんだろ…」と自分の過ちを脳内で後悔している疾風を見て、言った。
「まだ、父さんは健在だけど、母さんは死んでしまった。そのためか兄弟は、深い眠りについたままだ」
やはり…と疾風は思っていた。
〈神様天国〉の子供達は異世界中から避難させられた神の子だ。今、異世界の滅亡が各地で起こっている時点で異世界と両親が消滅した場合、子供達にも影響が表れる。
「もう一度、問う。〈治癒力〉が使えるか?」
海風の問いに疾風は力強く頷いた。
「うん、使えるよ。君の兄弟に〈治癒力〉を使えばいいんだね?」
「嗚呼。〈治癒力〉は回復術よりも傷や怪我を治す能力、力が強いと聞く。此処に〈治癒力〉を使える者は一人もいない。だから、起こしたくても無理だった…頼めるか?」
「任せてよ」
疾風は海風を安心させるように笑いかけると眠っている少年の元へ、部屋の中へと駆け込む。そして眠っている少年の傍らにひざまづくと両手を少年の上にかざした。疾風の指先から粒子が少量落ち、少年の上に舞い落ちるとスゥ…と消えた。
「長いこと眠っていたのと眠っている間に治せなかった傷も治すから結構時間がかかるよ」
「!!かかってもいい。兄弟が…彼が目覚めてくれるならっ!」
海風が疾風の隣に立ち、真剣な眼差しで言う。その瞳にはどんな思いが宿っているのか?
ずっと、眠ってしまった時から待っていた。やっと会える。やっと…
疾風はその瞳を見てクスリと笑った。海風は嬉しそうに微笑んだ。しかし、途端に疑問に思った事を口にした。
「なんで傷の事を?」
そう、確かに眠ってしまったためにそれまで完治していなかった傷までもが治すことが出来なくなった。しかし、それを疾風は知らないはず。少年の体の上には毛布がかけられており、疾風はそれをめくってすらいないのに。
海風の疑問に疾風はウインクをした後、ちょっと自慢げに答えた。
「〈力〉で分かった。僕の〈力〉は医療系や治療系…ともあれそういう医学系が多いんだ。マスターが僕に他の兄弟よりもそういうのを多めにくれた。なんでだと思う?」
「?…わからない」
海風の答えに疾風は柔らかく笑う。
「昔、僕が医者目指してたから」
そう答え、疾風は眠ってしまった少年に〈治癒力〉を使い始めた。




