第五十陣:神様達の思い
「失望したよ、鈴。ウチらを裏切るなんてね」
そう言って瞳は悲しそうにしつつも顔は嗤っている少女。他の人達が闘い始めた中、彼らは依然として睨み合っていた。
「裏切ったつもりはありません。助けを求めたまでです、レン姉様」
鈴蘭の答えに少女は何も答えず、いつに間にか少年と繋いでいた片手を強く握りしめた。
「考えを変える気はないのかい?」
響がそう尋ねると少年がハッと鼻で嗤った。変える気はないようだ。
「さて、そろそろオレ達もやろうぜ?『神』様?」
蘭丸が少年と少女をおちょくるように言うと2人は繋いでいた手を離す。とバッと外側の手を振る。そこに扇が現れ、握れらる。扇が2人の武器のようだ。それを見た蘭丸が訝しげに言う。
「扇…?なんで?ふざけてんの?」
「違います。リン兄様とレン姉様…悠鏻と悠憐は『神』でも上位に君臨する『神』で罪を司る『神』です」
「…その罪って」
蘭丸が鈴蘭に問うと鈴蘭は蘭丸の考えが合っていると頷き、少年と少女を見る。
「そうです。七つの大罪、『神』の中では『神柱の罪』と呼ばれる罪を司っています。そして、2人の異名は〈神の双子〉。聞いたことありますよね?」
鈴蘭の言葉に蘭丸は面食らった。
あいつらが〈神の双子〉。〈レイドクリーチャー〉を放ち、人間を殺した『神』の筆頭。他にもいるであろう『神』の大半は人間との全面戦争により殺され、異端の『神』は人間と身内により殺された。あとどのくらい『神』が残って、人間が残っているのだろう。
柄にも合わず、そんな事を蘭丸は考えていた。自分は知らない事が多過ぎる…残酷なほどに。
「へぇ…〈神の双子〉、ねぇ」
マスターが興味深そうに呟き、両手に持つ武器を握り締める。それに響が「やめときなよ…」と云う視線を送る。
「……ついでに言いますと僕の異名は〈神の花魁〉、異端側に近いんです…異名で察してください」
自虐気味に笑う鈴蘭に蘭丸はもう『神』の話はしないと決めた。
少年、悠鏻はスミレ色の短いポニーテールで赤にも黒にも見える瞳をしている。左耳に菫の花のイヤリングをしている。黒の和服、水干と言うもので帯は紺色、紐は灰色。下は同じ色のズボンで袖やズボンには小さく菫の花が散りばめられている。草履とブーツが合わさった靴を履いている。
少女、悠憐は悠鏻と同じスミレ色のセミロングで瞳も同じだ。右耳に悠鏻と同じイヤリングをし、服も同じものだ。が下だけは別で丈の短いスカートになっている。模様も靴も同じものだ。
そして2人の顔はよく似ており、〈神の双子〉と呼ばれた所以だと分かった。
2人、双子は扇を口元に持って来て口元を隠し、蘭丸達の様子を伺っているようだ。両者は睨み合いを続ける。と鈴蘭の瞳が異様に金色に輝いた。そして大きく息を吸い、叫んだ。
「沙雪!力を貸してっ!」
「「っっ??!!」」
ブワッと突然、鈴蘭の足元から雪が双子に向かって吹き上がり、襲い掛かった。双子が視界を扇で庇う。鈴蘭の初撃を合図に響と蘭丸が地面を強く蹴り、双子に向かって跳躍した。双子を襲っていた雪が消えた時には響と蘭丸がもう目の前だった。驚く双子を尻目に2人は刃物を振りかぶった。2人の刃物は正確に双子を捕らえ、空中から地面へと叩き落とした。ドゴンッ!と双子が地面に叩きつけられると土煙が舞う。響と蘭丸が地面に着地し、全員で様子を伺おうとしていると土煙から双子が突然、躍り出た。双子は一直線にマスターに向かって跳躍すると素早い動きでマスターの真ん前に出、2人一緒に扇を振り下ろした。
「マスター!!」
響が叫ぶ。ガキンッと響達から少し離れた所に立っていたマスターは小太刀と大脇差で双子の扇をクロスして防ぐ。
「オレ達の攻撃を」
「いつまで防いでいられる?」
クスクスと嗤う双子にマスターは嗤い返す。それに気づかない双子。マスターがやろうとしている事に気づいた響は二ッと自分の事のように自慢げに笑った。
「さて、いかほど?」
「「なっ?!」」
バッとマスターは小太刀と大脇差を振り切ると双子との距離を少し開ける。そして言う。
「〈明かり〉」
キラリとマスターの2振りの武器が何かによって光る。それに驚く双子の手首を武器を光らせた白い糸状の物が捕らえる。そのまま捕らわれた双子に向かってマスターは刃を振る。双子が傷付くと同時に糸状の物も切れた。マスターは響達の元へと舞い戻る。
「やってくれるなぁ!!」
悠鏻が悠憐を庇うように立ちながら憎しみを露わに叫ぶ。
「やったね、マスター」
「それほどでも」
パチンッとハイタッチするマスターと響。蘭丸と鈴蘭が2人と入れ違いになるように双子に向かって大きく跳躍した。それに双子も跳躍する。
「調子乗んないでよ!」
「衣緒!刃を貸して!」
悠憐が叫び、鈴蘭も叫ぶ。蘭丸と悠鏻の武器同士と鈴蘭の周りに現れた無数の刃物と悠憐の武器が空中で交差する。
蘭丸は悠鏻の扇を片方の刀で防ぐともう片方を振った。がその刀は悠鏻の手に現れた透明な扇によって防がれる。
「なっ?!」
「オレ達の力、舐めるなよ?」
驚く蘭丸を尻目に悠鏻が2つの扇で蘭丸の2振りの刀を弾く。蘭丸が地面に一回転して着地する直前、悠鏻が透明な扇を大きく振りかざした。それは円を描きながら巨大化し、着地し顔を上げた蘭丸に無慈悲に襲いかかった。
「俺の存在、お忘れじゃ?」
蘭丸の前に響が突然、躍り出ると巨大化した透明な扇をスパッと真っ二つに切った。透明な扇はそのまま消えて行き、悠鏻が苦々しげに顔を歪ませると扇を構える。
「サンキュー」
「いいえ」
蘭丸が響に礼を言いつつ、隣に並ぶ。2人は武器を構えるとこちらへ向かって空中を滑るように移動して来た悠鏻に攻撃した。
「ふにゃっ?!」
「ほーらほらほら?何本あってもダメじゃない?!」
悠憐が鈴蘭が出した無数の刃物をこちらも片手に持った透明な扇と共に弾き返して行く。それらをバク転したりしながら鈴蘭は地上で逃げ回る。普通なら自分を攻撃しないはずの刃物は悠憐の扇に当たると何やら呪文?だろうかをかけられたらしく自分を攻撃する格好の刃と化していた。
「快疾!」
鈴蘭の瞳が金色に光り、彼の両手に無数の蝶々が舞う。それらを自分の周りにまとわせ、刃物を防ぐ。悠憐はニッと嗤うと一斉に残っていた刃を鈴蘭に向けて攻撃させた。さすがにこの量は無理だと悟った鈴蘭は両腕で顔を覆った。
「私もいるよ」
「!クッソ」
その声に顔を上げると全ての刃を弾いたマスターが立っていた。悠憐が悔しそうに顔を歪ませると扇を構える。
「あ、ありがとうございます!」
「嗚呼」
鈴蘭がマスターに礼を言いつつ、隣に並ぶ。2人は態勢を整えるとこちらへ向かって空中を滑るように移動して来た悠憐に攻撃した。
**…
形勢は逆転しつつあった。〈レイドクリーチャー〉を倒し終えたみんなが帰って来たのだ。変わった所といえば天の隣にカルリヴァが浮かんでいる事と鳴時が夜征に支えられて来たと云う事くらいだ。
空中に浮かんだ双子は倒された〈神の使徒〉と増えた敵の現状に顔色を変えた。
「鳴時さん、大丈夫ですか?!」
鈴蘭が夜征に支えられた鳴時に問う。彼は「平気だ」と手を挙げて答えた。鳴時は全快ではないようだ。
「お兄!アメ、出来たよー!」
『よっろしくねー!』
天が嬉しそうに笑って兄に告げるとカルリヴァが場に合わないピースをかます。
「さて、どーすんだ?〈神の双子〉様よ?」
「っ、どうする悠鏻」
「…〈レイドクリーチャー〉の存在価値が完全に霞んだな。オレ達でどうにかするしかない」
蘭丸が挑発するように言うと悠憐が悠鏻の腕を掴んで心配そうに言った。それを悠鏻は落ち着かせながら次の策を思索する。
「……リン兄様!レン姉様!降伏、してください」
鈴蘭が後がなくなった双子に懇願する。しかし双子の行動に降伏と云うのはないらしい。真剣な瞳を向ける鈴蘭から視線を離した。
「これでお二人の、『神』が与えるべき罰は出来なくなりました。抗うのをおやめください!!」
「………鈴蘭」
金色の瞳から大粒の雫が一筋、流れ出る。
ただ、キミ達、兄様達を助けたいだけなんです…人間は許せないかもしれない。でも、それは人間が『神』に牙を向ける行為と同じ。分かってください!!
「…………………………それg「!!後ろ!!」?!」
「悠鏻!!」
悠鏻が何かを言おうと口を開けた瞬間、それは緊迫感をはらんだ海の声と悠憐の声に遮られた。
悠鏻が顔だけで後ろを見るとそこには愚かだった自分が‘鈴蘭を殺せ’と命じた2人が自分に刃を向けていた。
悠憐の扇はきっと届かない。鈴蘭達の攻撃も届かない。2人分の刃がオレの首を狙う。嗚呼、これが報いなのか。蘭丸の、言う通りだった。鈴蘭の言う通りだった。でも、オレは、決めたから。
悠鏻の目の前に迫る刃物。悠鏻は静かに瞳を閉じ、淡々と呟いた。
「****」




