第四十玖陣:能力と今と昔
え…ブックマークが増えている…だと…?!
ブックマークつけてくれた方ありがとうございます!
「でやぁい!!」
鳴時が〈レイドクリーチャー〉に薙刀を振り切り、後退させるとその横腹に横蹴りを与える。と〈レイドクリーチャー〉が飛んで行った先に白虎になった疾風がおり、その〈レイドクリーチャー〉を爪で切り裂いた。続けて近くにいた〈レイドクリーチャー〉を次々と爪と牙で裂いていく。疾風の頭上から飛ぶタイプの〈レイドクリーチャー〉が襲い掛かる。それに気づいたが疾風はそのまま戦う。と、夜征が大きく跳躍し、その飛んでいる〈レイドクリーチャー〉に武器を突き刺した。態勢を崩すその敵を地面に叩きつけ、トドメを刺すと別の武器を出現させ、〈レイドクリーチャー〉を倒して行く。
「多いですねぇ」
「だね」
夜征の独り言に疾風が苦笑する。疾風が元の姿に戻りつつ、〈レイドクリーチャー〉を倒す。夜征と疾風が背中合わせになっていると鳴時が後退しながらやって来た。
「ったく、切りが無ねぇな」
「それ今話してたとこ」
「…しょうがありません。疾風、〈力〉を使いまs「ちょっと待ってくれねぇか」はい?なんでしょう?」
夜征の提案を遮り、鳴時が言う。夜征と疾風は頭しか見えない前方の彼を見やる。此処から見ると鳴時は薙刀の切っ先についた〈レイドクリーチャー〉の血を軽く払っているようだ。
「俺に策がある」
二ッと歯を見せながら笑って2人を振り返る鳴時。それに2人は顔を見合わせ、鳴時を見てどんな?と首を傾げる。
「お前達が俺達を異端の『神』と見破っただろう?『神』は異端であろうとなかろうと一つ、特別な能力を持つ。それを使うのさ」
「なるほど、分かりました。私達は時間稼ぎをすればよろしいのですか?」
鳴時の考えを聞き、夜征が問うと「いや」と短く彼は否定した。ではどうすれば?
「時間稼ぎじゃないならどうするの?」
ジリジリと作戦会議中であるのにそんな事知った事かと〈レイドクリーチャー〉がよって来る。それらを一旦、攻撃して下がらせると鳴時が顔だけで2人を振り返り、言った。
「俺にお前達の魔力を貸して欲しいんだ」
「「魔力?」」
鳴時の言葉に兄弟揃ってハモる。
魔力は一応、夜征も疾風も知っているが如何せん、使った事も触れた事もないのだ。
鳴時はハモった2人を可笑しそうに見て、短く説明する。
「ただ俺の肩に手を置いて力を放出すれば良い。深く考えなくてもいいぜ。俺の能力には魔力が必要ってだけだしな」
「今、魔力無いの?」
「ないねぇ。からっからだ」
鳴時が情けないなと自身を哀れむかのように笑うが夜征と疾風はそんな事、気にしない。鳴時の言葉通りに夜征は右肩、疾風はちょっと背伸びをして左肩に手を置いた。普通に流れるような動作で、何の疑いも無く行動に移した2人に鳴時は面食らった。がニヤリと笑い、深呼吸する。
夜征と疾風が魔力と云う名の力を放出する。鳴時に、魔力がからっからの彼に能力を使うだけの魔力が溢れる。
鳴時は薄く目を開き、目の前に広がる〈レイドクリーチャー〉の群れを睨む。
「…………ありがとな、桜舞、疾風……紅華七剣の名の元に、今宵、紅い華を咲かせようぞ…風華道」
鳴時が2人によって溜まった魔力を薙刀に残らず乗せ、その切っ先を地面に押し付け、ガガガガと一線を引く。〈レイドクリーチャー〉はんなもん知るかと言わんばかりに飛び出してくるがもう遅い。バゴンッ!とその一線から凄まじいほどの風が巻き起こり、〈レイドクリーチャー〉を土の中に埋めて行く。中には這い上がってくる奴もいるが風に切られたようで血を噴き出しながら地面に埋れて行く。だいぶ埋まった所でまた風が地面から吹き上がり、埋まった〈レイドクリーチャー〉を吐き出す。吐き出された〈レイドクリーチャー〉はすでに亡骸と化していた。
「すっごっ!!」
「……ぇえ…」
亡骸の絨毯を見て2人が驚きの声を漏らす。鳴時の能力で片付いてしまったようだ。鳴時は久しい能力の出来に満足そうに「よしっ」と言い、2人を振り返った。
「ありがとな!お前達のおかげだ」
ニカッと笑う彼に2人も「いいえ」と笑い返す。
この時、何故、安心して、油断してしまったのだろう。
「罰を」
ーザシュ…ズサッー
「…っ…グァ…!」
「…え」
突然、鳴時が前のめりに、夜征に寄りかかるようにして倒れた。呆然とする2人の視界に写ったのは鳴時の血と彼の背後に立つ、紅く染まった武器を持ったあの敵だった。その敵は2人に向けて蔑むように嗤った。
「!!!てんめぇ…よくもっ!!」
疾風が我に返り、白虎化すると敵に襲いかかった。そして両者は刃(疾風は鋭いモノ)を交差し、火花を散らせ始めた。が怒りに血が上っている疾風の攻撃はただ単に弄ばれているようだった。
「……ゲホッ……」
「な………るじ…さ、ん…?」
自分に寄りかかるようにして倒れた鳴時を夜征は呆然としたまま腕の中で横たわせた。そしてゆっくりと地面に両膝をついて座り込んだ。鳴時の心臓辺りからはドクドクと血が流れ出る。紅く染まり出す彼の服と痛みに苦しむ彼の表情とうめき声にようやっと夜征は我に返り、ゆっくりと傷が痛まないように鳴時を地面に寝かせると〈力〉を使おうと両手をかざす。
「今、治します…!…ごめんなさい、油断していた私が悪かったんです……!」
「……そ、れ…は…ちげぇ…え」
胸の傷を抑えながら途切れ途切れに鳴時が言う。そして夜征に「〈力〉を使うな」と言うように抑えていないもう一方の震える片手で彼の手を制した。その行動と言動に狼狽えながら夜征は震える口から言葉を紡ぎ出す。
「………桜、舞は…悪く……ね…ぇ……俺…が、悪……い……自分を…責め…る、な…お、ま…え…の悪い……癖……だぜ……?」
「……ふふっ、悪い癖ですか…そうですね、私の悪い癖ですね」
ぎこちない笑みを鳴時に向けると彼は痛みながらも笑ってみせた。が夜征は〈力〉を使おうとし出す。鳴時はやめろと何故か再び制する。不思議に思った夜征は心配そうな表情のまま問った。
「なんで、ですか?今すぐ治せば…っ」
「思い……出した…」
「は、い?」
その答えに夜征は首を傾げた。何をこんな時に思い出したと云うのか。夜征が不思議に思いながら指の先に微かに〈力〉を入れた時だった。
鳴時が穏やかな、夜征が見たことあるような笑みを彼に向けて浮かべ、言った。
「……雅」
「…え」
夜征の驚愕した声が異様に大きく聞こえた。
近くで疾風が闘っている音が異様に大きく響く。
え、今、鳴時はなんと言った?その名を、何故知っている?その名は前世の、過去の名前。知っている者は限られているはずなのに、告げた事はないはずなのに……
嗚呼、でも、懐かしい。君でしたか。ずっと感じていた違和感は。
鳴時は夜征の驚き様に可笑しそうに小さく笑った。
「……はは…驚いて、るな……お前…達に、会った時から……引っかかってた……俺は…いや、俺達は……」
「もう、喋らないでください!血が、血がっ」
助けたい。例え前世の人であろうと今の人であろうと…その一心だ。
夜征が〈力〉を使い、鳴時の傷を治し始める。それを視線でやめろと鳴時は言うが知った事かと夜征は進める。傷は深いらしく、一行に治る事はない。
「畜生!!逃げられたっ!夜征兄、手伝うよ」
「ありがとうございます疾風!」
敵と闘っていたが逃げられた疾風が少年の姿になって戻って来た。苦々しげに顔を歪ませる疾風は夜征を手伝おうと反対側に両膝を付くと〈力〉を使う。鳴時の顔が痛みに大きく歪んでいく。
「……体…は容姿…は違って、も……魂は…変わらない、な……なぁ…雅…」
「……ふふ、何呑気な事を言っているんですか。死にそうになっているのに…危機感を持ちましょうよ」
「え、雅?今、鳴時、夜征兄の前世の名前言った?なんで知ってるの?!」
鳴時の言葉に夜征が小さく笑って言う。鳴時の言葉に疾風は驚いて彼を見やると彼はクスリと笑った。
「……昔、から…危機感…なんぞ……ウッ…持ってねぇ…だろ?」
「………ふふっ。全く、変わっていませんね君は」
「え、夜征兄?どういう事?」
鳴時が緊急事態であるにも関わらず夜征はつられて笑ってしまったが手元は治癒を続けている。疾風はなんの事やらさっぱりだ。
青白かった鳴時の顔に血の気が戻って来る。
「……治し、たって、この…体は『神』だし、治るのになぁ…」
「いいですから黙って治療されてなさい、桜樹」
夜征が鳴時の前世、過去の名を懐かしむような笑みを浮かべて告げる。それに鳴時が笑い返し、疾風が驚いたように手元を止めるがすぐに我に返って治療を始める。
「え、うっそ?!マジなのそれ?!」
「本当だ…魂だけ…本物だがな…俗に言う…転生って奴かな…?」
「でも、僕達がいた世界は…?」
「消えたと思っていいのでは?」
そんな事心底どうでもいいと言わんばかりに夜征は治癒を続ける。
夜征達兄弟は以前自分達がいた世界がどうなったかは(異世界と言った方が正しいか)知らない。マスターに助けられ、異世界を渡り歩いているため現状は分からないのだ。彼らにとっては前世で過去。嫌な思い出しかない。忘れたい記憶しかないのだ。忘れたくない記憶といえば…
「ハハ…相変わらず、冷たいなぁ…」
「あんな世界、消えて良かったんです…私達にとっては」
「……………」
しばらく沈黙が続き、治癒の、穏やかな音が響く。
鳴時の胸の傷は夜征と疾風の〈治癒力〉と元々の体の回復力が会い重なって完治したが胸辺りにはぽっかりと穴が空き、背中にも穴というか切り跡が残っている。
「ありがとな、助かった」
「良かったです、鳴時さん」
それに疾風は眉を潜めた。何故、夜征は魂に刻み込まれた記憶を思い出した鳴時を名で呼ばないのだろう。それは鳴時も同じようで首を傾げつつも上半身を起き上がらせた。
「昔みたいに呼んでくれないのか?雅」
「……私は」
夜征は俯き、決心したように顔を上げる。その瞳には何が宿るか。
「私は過去と決別したい。桜樹が転生してくれたのは嬉しかったです。でも、昔ではない」
夜征の瞳から透明な涙が一筋零れる。それに鳴時はクスッと口元を押さえて笑って言う。
「本当、お前らしい。でも」
「?!」
「桜樹s…じゃない鳴時?!」
鳴時は驚く夜征を尻目に彼を抱き締めた。
「お疲れさん。それと…ありがとう、雅」
「うっ…」
その言葉を皮切りに夜征の瞳から涙がとどめなく流れ出る。夜征は鳴時の服を掴みながら、嗚咽を漏らしながら過去との決別を果たそうとしているように見えた。そんな彼に鳴時は彼が泣き終わるまで胸を貸し、昔のように一度だけ頭を優しく撫でた。
「疾風」
「!…何」
夜征が泣いている最中、鳴時に呼ばれて疾風はびくりと肩を震わせた。
「頼むぜ」
何を頼むと言っているかは聞かなくても分かった。疾風はそれに力強く頷いた。
どうか、転生した前世、過去の友人との出会いで憎らしい記憶と決別出来ますように…
新しい光が彼らを照らし、記憶を塗り替えますように…
過去編書きたい。




