第四十肆陣:『神』が囚われた
………スランプが続く…
旅館の食堂を借り、疾風がお得意の料理を振舞ってから彼らは寝た。〈レイドクリーチャー〉が襲ってくると云う事も考えられたがロビーに〈レイドクリーチャー〉の亡骸が気持ち悪いほどにあるため大丈夫だと踏み、彼らは久しぶりに安心して夢の中へと旅立った。
その数時間後、彼らが就寝した2部屋から少し離れた広間に鳴時がひょっこりと現れた。その手には蘭丸の武器である2振りの刀がある。鳴時は誰もいないのを暗い中確認すると広間の壁に2振りの刀を立て掛けた。するとその刀から再び透明な青年が現れる。なんだが不機嫌そうだ。
「何でそんなに不機嫌なんだ?櫻」
鳴時が両腕を組んでからかうように言う。それに櫻と呼ばれた透明な青年は余計に機嫌を悪くしたのか眉間にしわが刻まれた。
『どうもこうもないよ。なんなのあいつら』
「まぁ落ち着けよ櫻。あいつらは俺達に危害を加える気はなさそうだぜ?」
『本当に?また‘あの時’みたいに狙ってるんじゃあ?』
「…そりゃあねぇだろ。俺達を助けてくれてるんだぜ?そんな信頼関係築いてどうする」
『………でも』
「そう言って櫻はいつまでも囚われすぎなんだよ」
鳴時の言葉に透明な青年は気に障ったらしく、さっきよりも不機嫌そうになった。それに気づいていながら鳴時は続ける。
「…まぁそう言う俺もだけどな」
悲しそうに言うとそれが気になった透明な青年の顔がどうしたと歪んだ。鳴時が悲しそうに控えめに笑うと言う。
「鈴蘭って奴、保護しただろ。あいつの言葉に血が昇っちまってな。つい手上げた…俺も囚われすぎだよなぁ」
『………そうだね。俺達はある意味、囚人さ』
クスリと2人は笑い合う。悲しみに包まれる夜の空気。両者共に無口になってしまった。その時だった。
「ふぅん…そういう事だったんだ。納得したよ」
『「?!」』
その声に2人が振り返るといつの間にいたのか、はたまた最初からいたのか響が立っていた。2人は驚いたようで口を鯉のようにパクパクと動かしている。
「それで、櫻がそうなの?夜征」
「はい。間違いありません。正確に申し上げれば鳴時もですが」
響の右隣に暗闇から夜征が姿を現す。夜征は透明な青年と鳴時を見て懐かしそうに小さく笑った。それに透明な青年は違和感を持つ。
「な、なんで此処に?寝てるはずじゃ…」
鳴時がようやっと聞きたい事ではない質問を口から吐き出す。
違う。聞きたいのはそれじゃねぇ。
響は口元を服の袖で隠して控えめに笑う。
「それはそっちにも言える事だよね?」
「あっ…」
自身の質問に質問で返され、鳴時は呻く。
「響兄、そんな意地悪しないの。にしても…」
『?!』
その宥めるような声がした後、透明な青年の真ん前に疾風が突然、上から現れた。それに透明な青年が酷く驚いたようで体を背後に仰け反らせた。背中が壁につく。そして突然現れた疾風を驚いた様子で見下ろす。疾風は「ふーん」と透明な青年を見上げ、クスリと笑う。
「面白いね」
『…?』
疾風がクルッと踵を返して響の左隣に歩いて行く。
鳴時は困惑していた。なんで3人が?どうして?
「さて、俺達から質問させて貰うよ。その後でも俺達に聞くと良いよ」
「……それもいいかもなぁ。で、なんだ?俺達に聞きたい事って」
鳴時は開き直ったように響を見据えて言った。それに響は聞けと言われているように感じた。響は一度瞳を閉じ、そして開けると夜征に視線を向けた。それに夜征は頷き、2人を見据えて言う。
「君達は『神』ですね。いえ…正確に申し上げれば、異端の『神』」
『「?!」』
夜征の言葉に2人は目を見開いた。なんで、そんな事が?
その2人の様子に夜征はやはりかと瞳を一瞬、伏せた。
「なんで分かったって顔しているね。まぁ理由があるんだけど…聞く?」
「…面白ぇ、言ってみろよ」
鳴時が再び両腕を組んで挑戦的に言う。がその額には冷や汗が滲んでいる。その挑戦的な物言いに疾風は笑い、その理由を話し出した。
「じゃあ、僕の理由から」
疾風が右手の人差し指を立て、言った。
「櫻は蘭丸の武器から現れた。知ってる?本来そんなものは…この異世界には存在しない。そこから導き出される事は人間を狩り始めた『神』だ。『神』でも物から現れる事は全くと言ってないしできない。だとすると異端が浮かび上がるって訳」
『…俺はそれで納得行くけど鳴時は?武器から現れた訳でもない』
透明な青年が鼻で笑うと疾風はまあ聞いてよと笑いかける。
「鳴時の方、気づいたのは僕じゃなくて夜征兄だから」
「疾風に代わって私が続けますね。鳴時さんは蘭丸さんや天さん、鈴蘭さんを気にしつつも何処か他人行儀な感じがしたんです。其処で失礼ですが鳴時さんの魂、海に頼んで見させて貰いました」
「っ?!」
「その結果、疾風の答えと同じように異端の『神』である事が分かったんです。まぁ海に頼んだのは確定させるためで本当は少し前に勘付いてたんですけどね」
どうです?と夜征が笑う。それにもう言い逃れは効かないと思ったのか透明な青年が小さくため息をついて鳴時に言った。
『鳴時ダメだ。正体が完璧にバレてる。考察が合いすぎるよ』
「っ!でも櫻」
『良いよ。言い逃れ無用…そうだよ、お前達が言ったように俺達は異端の『神』だ。そして俺は櫻。この秘密、バラせば良いじゃないか』
透明な青年、櫻は紫のセミロングで瞳は藤色。右耳に十字架を模したイヤリングをし、左目を眼帯で隠している。透明なため色が定かではないがロングコートに身を包み、袖の部分は別の素材のようで桜の花がプリントされている。左肩に甲冑をつけ、ロングコートの中はワイシャツにネクタイ。下は長ズボンで靴は革靴だ。
「バラすつもりはないよ。大切な情報源を自ら手放すなんて得策じゃないし」
響が再び、服の袖で口元を隠して笑う。それに鳴時は安心し、息を吐いた。今、人間が『神』に狩られているのに連れの中に異端ではあるが『神』がいたらどうなるか…想像しただけでも恐ろしかった。
「異端は『神』から外れた者を差す。あの子達に言っても大丈夫な気がするけど?異端の『神』、正確には『神』じゃないんだから」
疾風が笑って言う。それに2人は内心、ホッとした気がした。
さて、次はこちらだ。




