第四十参陣:守りたいモノ、救いたいモノ
プチスランプ状態です…ヤベェ…
鈴蘭は目の前の敵の笑みで思い出していた。逃げている時の事を。自分を追っていた奴らの事を。
「…やっと……こうしてお会い出来ました……」
だって?誰に言ってるの?殺しかけた僕?それとも…
ハッと鈴蘭はマスターを見上げる。見えることのない彼女の素顔。鈴蘭は仮定する。あの言葉は僕に向けてじゃない。彼女に向けて?でも何の意味があって?
…………嗚呼、もう!分かんないなら、使えばいい。
鈴蘭が突然、マスターの前へ躍り出た。驚くマスターが鈴蘭に向かって叫ぶ。
「おい!何する気だ?」
鈴蘭はマスターを顔だけで振り返り、悲しそうに、儚く微笑んだ。
「ごめんなさい…力を貸して衣緒」
敵を見据えた鈴蘭の瞳が金色に染まる。そして鈴蘭が敵に向かって左手を突き出すと敵に何本もの刃物が空中から現れ、敵に向かってその息の根を止めようと襲いかかった。それを敵は驚く事なく何本もの刃物を自らの武器で弾き飛ばす。弾き飛ばされた刃物を意図的に敵は鈴蘭へ飛ばしているらしい。が鈴蘭はそれらをかわす事なくそのまま立っている。鈴蘭の目前で刃物が突き刺さりそうになるがスッ…と消えた。
「おい!どうなって?」
「…僕は‘ある人達がいないと戦えない’って言ったよね…微弱ながら…その力を借りて…貴女方を守りますっ!!」
そう力強く叫んだ鈴蘭。何を思っての行動かは知らないが、心強いことこの上ない。
とマスターが鈴蘭の肩を自らの方に引き寄せると背中に隠す。突然の事に鈴蘭が目を丸くし、文句を言おうとしたその時、敵の刃物が切りかかって来た。それをマスターは小太刀と大脇差をクロスさせて防ぐ。
「ミカ姉!!」
「大丈夫だよ…とてもありがたい事だが…」
マスターは小太刀をクルリと敵の方向に回すと突き刺す。それを敵は後方に後退して避けると体制を立て直す。マスターはピッと両手の刃物を振り、構える。
「無理は禁物だ。なっ、天?」
「うん!ミカ姉の言う通りだよ!」
マスターの問いにこちらも力強く答え、ネックレスを握りしめて天がマスターの隣に並ぶ。鈴蘭は2人の背中姿を見てまた思い出していた。そして、少し俯いて二ッと嗤った。嗚呼、怯えることなんかないじゃないか。
鈴蘭は俯いたまま敵を睨みつけるとマスターの隣に歩み出る。
「分かってる!」
3人が構えたのを見て敵は不気味に嗤う。とこちらも武器を構える。案外狭い客室でマスターと敵は跳躍し、刃物同士を交差させた。鈴蘭は天を連れて後退する。マスターと敵は何度も何度も刃物を離しては交差させ、力の押し合いを繰り広げる。
「おいでおいでおいで…」
「?天ちゃん?何してるの?」
「ミカ姉のお手伝いしたいからアメも来てくれるようにお願いしてるの」
真剣そうな面持ちでネックレスを握り締め、祈り乞う天。鈴蘭は天を守りつつ、自身の両手を胸辺りにかざす。するとそこに蝶々が数羽飛び出す。それらを敵に向かって進めと合図する。ちょうどマスターと敵が相手との間合いを図るために距離を開けたところに蝶々が敵を襲撃した。敵は驚きながら蝶々に向かって刃物を振り回す。と蝶々は何やら鱗粉を振り撒いていたらしく敵の目に入った。敵は酷く痛がりながら右手で目を覆う。
「グっ……この…!……愚者がぁあ!!!」
バッと刃物を振った。と蝶々が突然、全て真っ二つに裂けた。その波動か否か鈴蘭が両腕で顔を覆うとその両腕に小さく一線が入る。天は幸運にも波動が当たらなかった。マスターは小太刀と大脇差で弾いた。
その時
「ふぇ?」
「?!」
突然、天の体が中に浮いた。天は驚きすぎで目をあっちこっちに動かしている。マスターと鈴蘭が驚愕したように振り返る。マスターはそれを見て敵をまさかと振り返る。とマスターの思惑通り、敵の右手はうっすらと光っており、それが天を浮かせていると物語っていた。そしてその右手をバッと横に振った。
「天!!!」
マスターが顔だけで振り返って叫んだ。敵はフッと嗤って去って行った。マスターはそれを尻目に背後の2人を急いで振り返る。
「天ちゃん!!」
鈴蘭が空中に浮いたまま開け放たれ窓に向かって行く天に向かって手を伸ばす。天も何が起きたのか理解したらしく四肢をバタバタさせる。が天は窓の外から空中を浮かせていたものがなくなり、落下した。
「きゃあああ!!!」
「っ!」
ギリギリ、鈴蘭が天の右腕を掴んだ。此処は悪いことに崖の上に立っている。なんでそんな所に建てたって話だが眺めが良かったのだろう。だから下は奈良の底。運が良ければ助かるかもしれないが運が悪ければ死ぬ。
天が懸命に下を見ないようにしているが怖いらしく涙目だ。鈴蘭が自身も落ちないようにしながら天を引っ張り上げようとするが力が及ばないらしい。とそこにマスターもやって来る。手伝おうとするが窓枠が小さく、鈴蘭が身を乗り出すだけでいっぱいいっぱいだ。
「うえぇえええんんん!!」
「大丈夫だからっ!」
「っくっそっ…どうしたら…」
と背後で声がした。マスターはそちらへ大声で何かを叫んだ。しかし鈴蘭は別の事に集中していたためになんと言っているのか聞き取れなかった。涙目になって怯える天に鈴蘭は大丈夫と明るく声をかけ続ける。
「うぇ…鈴兄…」
「大丈夫だから落ち着いて。ね」
「うえぇえええんんん!」
ダメだ。腕も痺れて来たし天は怖がる一方だ。鈴蘭が苦悩していると突如、天の泣き声が止んだ。そして天は涙目のまま淡々と告げた。
「…手、離しても大丈夫だよ」
「はぁ?!何言ってんの?!死ぬよ?!」
その言葉に鈴蘭は面食らう。気が狂ったか。失礼にもそんな考えが頭を横切る。天は驚く鈴蘭ににっこりと大人びた笑顔で笑いかける。
「大丈夫!!お兄達が何かやってくれるみたいだしね、大丈夫!」
「でも…っ」
後ろでマスター達が何やら言い合っているのは知っていたが内容は聞き取れなかった。と言うかさっきから天の様子が違う気がする。局面状態で逆に落ち着いてしまっているようだ。鈴蘭とは反対に。
天はにっこりと笑い、自ら鈴蘭の手を離した。
「天ちゃん!!」
真っ逆さまに落ちて行く天。鈴蘭が身を乗り出すも遅い。マスターが身を投げ出して天の後を追って助けようとする鈴蘭を背後から抑える。
「天ちゃんが、落ち、落ち…!」
「大丈夫、落ち着け」
マスターが鈴蘭を宥めながら大きく息を吸い、叫んだ。
「夜征!!行け!!」
「はい!」
マスターの叫び声を聞き、夜征は客室とは別の部屋の窓を飛び越え、天と同じように崖の下へと飛び降りた。天との距離は落下するにつれて近づく。天は信じ切っているようだが気絶してしまっている。
夜征は小さく息を吐き、呟く。
「……〈桜龍変化〉」
その途端、夜征を大量の桜の花びらが包む。そしてそのまま天の手を掴むと桜が晴れる。そこにいたのは夜征ではなく、白がかかった金色の瞳、黒い鱗に覆われた龍であった。そう、これは夜征の〈力〉の一つだ。桜の龍となった夜征は天が自身の小さな手の中にあるのを確認し、上へと再び舞い上がった。スルスルと舞い上がり、先程まで鈴蘭が身を投げ出していた客室に天を下ろす。と鈴蘭が慌てて駆け寄り、怪我がないか見る。
「大丈夫ですよ」
そう龍のまま夜征が言うと鈴蘭は彼を訝しげな表情で見上げた。
「夜征、助かった」
「とんでもございません。お役に立てて良かったです」
マスターに言われ夜征はにっこりと笑う。と鈴蘭の表情に気づいたらしく、冷静な声で呟く。
「‘ ‘もう、此処で消えて仕舞おうか ならその前にもう一度、貴方を救いましょう’ ’」
すると再び大量の桜の花びらが夜征を包んだ。桜の花びらは窓から客室へと入ると桜が晴れる。そこには人の姿に戻った夜征がいた。
「…なんなの…キミは」
鈴蘭が夜征を見上げ、呟く。マスターが天を蘭丸に引き渡しつつ、合流した疾風に一応の治療を頼む。夜征は鈴蘭の問いににっこりと笑って答えた。
「私はただのマスターの〈武器〉ですよ」
その後、蘭丸の言った通り〈レイドクリーチャー〉が全部消えるまで一日この旅館に籠もりっきりになった。まぁ寝床が見つかったと思えば良いものだと皆楽観的であったが鈴蘭は自分が天を救えなかった事を後悔しつつ、龍へと変化したり人を治す、蘭丸や天兄妹とは変わった〈力〉を持つマスター達に懐かしさとも言える恐怖を感じていた。しかし鈴蘭はその懐かしさの蓋を開けなかった。危険だと分かっていたから。
もう一つ、〈レイドクリーチャー〉とは違った意志を持つ人間の敵については『神』ではないかと疑問が浮かび上がったが知る由もない事なのですぐさま消えた。
天は何処にも怪我をしていなかったが疲れが出たらしくそのまま眠ってしまった。
マスター達は情報がない事に違和感を持ち始めていた。『災い』が影響しているにしてもこの凄まじいほどの現状。何かが可笑しい。そう、前回の異世界でマスターが感じた山茶花のような違和感。そして本に写した少女の記録。何かが此処で一本の線になろうとしている…そう感じて仕方がなかった。




