第四十壱陣:〈レイドクリーチャー〉との対戦
「ミカ姉ミカ姉、髪拭いて!」
「分かったからそこにお座り」
露天風呂から上がった女性陣は脱衣所で着替えを済まし、髪を乾かしていた。男性陣の方は入れ替わりがあるが女性陣は2人のみ。ゆっくり貸し切り状態だ。
天が綺麗なタオルをマスターに手渡し、鏡台の前の椅子に座る。タオルを使ってマスターが天の髪を優しく拭く。
「ふーんふふーん♪」
鼻歌を歌いながら満足そうに笑う天を鏡越しに見ているとマスターも嬉しくなって笑ってしまう。
「あのねー」
「ん、なんだい?」
天がマスターを見上げる。マスターは髪を拭く手を止める。
「アメね、ミカ姉が女の人ってすぐ分かったよ」
「凄いね。すぐ分かってしまったのかい?」
「うん!アメと同じ感じがしたから!」
子供なりに分かったのだろう。笑う天に笑い返してマスターは再び作業に戻る。天の髪がいい感じに乾いた頃だった。
「ねぇ!!」
と扉の向こうから鈴蘭の緊迫した声がかけられた。それにマスターは何かあったと思い、天を椅子から降ろし、荷物を取りに行くよう背を押して指示する。天はそれが分かったようでトテトテと荷物を取りに行く。
「どうした?…嗚呼、入って構わんよ」
「あっ、はーい」
ガララと扉を開けて鈴蘭が恐る恐る入って来る。と廊下から大きな音が響き渡った。それでマスターは〈レイドクリーチャー〉の襲撃だろうと察しがついた。鈴蘭はいつも通りにフード姿のマスターを見てホッとしたようでパーカーの袖に手を隠しながら近づくと混乱したように、慌てたように言った。
「大変だよ!さっき〈レイドクリーチャー〉が襲撃して来て!ほっ…他の人達はロビーと此処に来る廊下で戦ってる」
「うむ…やはりか。天、荷物は全部持ったかい?」
鈴蘭の慌てようの報告を聞きながらもマスターは冷静に行動する。マスターは天を振り返って聞くと天はマスターと鈴蘭の元にやって来て「忘れ物ないよっ!」と敬礼してみせた。その返事にマスターは頷き、オロオロとする鈴蘭を見る。
「きっと彼らの事だ。大丈夫だろう。しかし油断は禁物…此処の隣は客室だったね。そこへ行こう」
「はーい!」
「う、え、でも…勝手に移動しちゃっていいの…?」
「あの子達ならすぐに分かるさ。ほら、行くよ」
狼狽える鈴蘭を残し、マスターは歩いて行く。その後を危機感をしっかりと持ち、険しい表情をした天が雛鳥のようについて行く。少し何かを考えるように鈴蘭は動かなかった。
「はーやーくー!!」
天の声に我に返り、鈴蘭は2人を追って走った。
**…
「ったく…」
海はそう文句を垂れながらサブマシンガンの引き金を引き、〈レイドクリーチャー〉の脳天に撃ち込んだ。〈レイドクリーチャー〉は青い血を吹き出しながら倒れ、別の〈レイドクリーチャー〉が後ろから次々とやってくる。海は隠れていたロビーのカウンターから出ると気持ち悪いほどにいる〈レイドクリーチャー〉を一睨みするとサブマシンガンを持つ片手とは別の方に持ったナイフを近くの〈レイドクリーチャー〉に投げつけ、その手にマシンガンを持ち、二拳銃状態で〈レイドクリーチャー〉に乱射する。光と銃弾の音が視界を支配する。と海の頭上を空中一回転して四季と左眼丸が移動し、少々開けた場所に着地する。そして海の攻撃を受けていない〈レイドクリーチャー〉に向かって武器を振り回した。
「海ー左眼丸ーオレあれやるからサポート求むっ!」
ブンッ!と大鎌を振り回し、数体の〈レイドクリーチャー〉を真っ二つに切り刻みながら四季が言う。左眼丸が薙刀で〈レイドクリーチャー〉の足を切り、倒れ込ませるとその額にぺたりとお札を貼る。ビリビリ!と電流が流れ、ぷすぷすと黒焦げになった。左眼丸はピッと薙刀を持っていない方の手の指と指の間にお札を一枚挟め、それで口元を隠すようにして四季の指示に答えた。
「…応…でも、無理したら…駄目だぞ」
ガンッ!とサブマシンガンの銃弾を予備に入れ替えて、カウンターを使って完全に入れると近くの〈レイドクリーチャー〉を数体蜂の巣状態に仕上げるとまだ銃口から煙を上げるサブマシンガンを肩に担ぎ、四季の指示に笑って答えた。
「任せときなってー失敗は無しな」
2人の兄弟の答えに四季はニッと笑い、ブンッと大鎌を振る。四季は首にしているネックレスを真似っこのように軽く触れる。
「お任せあーれ♪…〈雨華〉」
四季がスッと大鎌を持っていない方の手を顔の前に差し出す。とそこに小さな緑色の木の葉が舞う。それらをフッと息を吹きかける。戦う兄弟達の間をぬって木の葉は〈レイドクリーチャー〉に張り付いた。
「海、左眼丸!準備完了!」
「はいよ!」
「応!」
四季が叫ぶ。と海と左眼丸と共にロビーから逃げ出す。〈レイドクリーチャー〉が3人を追ってやって来るが3人は海の銃器と左眼丸のお札を使って〈レイドクリーチャー〉を後退させながら他の人達がいる廊下に向かって駆ける。3人は狭い廊下へと滑り込むと四季が再び〈レイドクリーチャー〉に向かって木の葉を飛ばす。
「爆っ!」
と、ドガンッ!!!と〈レイドクリーチャー〉に張り付いた木の葉と四季が飛ばした木の葉が爆発した。〈レイドクリーチャー〉が気持ち悪いほどいたので威力はダイナマイト級だった。全部の〈レイドクリーチャー〉が全滅した。それに三兄弟は「成功!」と全滅したのを確認してハイタッチした。
これが四季のやりたい事だった。〈雨華〉は四季が持つ〈力〉の一つだ。
兄弟達の〈力〉にはそれぞれモチーフとなるモノが必ず存在する。例えば、響は月や月光…と云う風に。
「四季…凄い事考えたもんだね…」
「オレも思った…」
その声に3人が後方を見ると呆れ顔の疾風と驚いた顔をした蘭丸が立っていた。ダイナマイト級だったので爆音も爆風も凄まじかったのだろう。左眼丸が周りの壁を見てみるとボロボロになっていた。
「でもいい案だったでしょ?気持ち悪いくらいの〈レイドクリーチャー〉を始末するには」
「そうだけどさ」
「これじゃあ当分外に出れないわ…」
「「え、マジで?!」」
蘭丸が廊下から顔を出してロビーを覗き見て言うと四季と海が驚愕したように目を見開く。蘭丸が振り返って顔少々歪ませながら言う。
「〈レイドクリーチャー〉って〈神の使徒〉の通称だろ?倒すと勝手に消えるんだけど時間がかかんだよ…この量だから…一日かかるかな」
「「えええー!!」」
「しょうがない」
「…うん」
疾風と左眼丸が納得したように頷いた。と奥の廊下、響と夜征、鳴時が残っている方向から刃物同士が交差し、こすれ合う音がした。彼らは顔を見合わせ、手に持つ武器を握り締めた。そして奥の廊下に向かって駆け出した。
「もしなんかあったら海と左眼丸は後方支援頼むよ!四季は僕達と一緒に行くからね!」
「「「了解」」」
疾風の指示に三兄弟が答える。蘭丸が2振りの刀を抜き放つ。とあの透明な青年が現れた。
「櫻」
『御意』
そう言って蘭丸にこうべを垂れて消えた。




