第三十漆陣:女の子の兄と連れの少年
ーキイィン!!ー
刃物同士が弾ける音が耳に響く。それを真近で聞いた青年は片耳を抑えて後退した。
「っ!鳴!そっちは?!」
「大丈夫とか言って欲しかったか?!お生憎様だ!」
「くっそ」
青年はその両手に持つ刃物を目の前の敵に向かって向け、駆け出した。が頭上から来た別の敵の刃物に気を取られ、前の敵の刃物を受け、地面に転がる。
「ぐぁ…あ"…」
手元から武器が離れ、腹からおびただしい量の血が溢れ出し、決して良い地面とは言えない地面に広がり、染み込んで行く。
「!?畜生…」
「…っ」
青年は首からぶら下がっているネックレスを血塗れになった右手で握りしめる。
「…ゲホッ…ゲホゲホッ…天…すまん……櫻」
『承知』
ポワン…と青年のネックレスが桜色に光るとその光は離れた武器に向かい、青年の元へと引き寄せる。青年は片方の武器を杖に立ち上がるともう片方の武器も握り締め、敵を睨みつける。敵はそれに愉しそうに口元を歪める。青年は痛む腹を無視して敵に向かって足を踏み出した。
その時で
「行け」
「え」
キン!と青年ではない別の刃物が敵と交差する。それは響だが彼は知らない。響は敵の刃物を弾くと腹を蹴る。ズサササと滑るように後退して行く敵。腹を抑えて響を睨みつける。と青年を守るように海が立つ。もう一人の青年を見ると青年が相手していた敵もこちらへと後退しており、白虎になった疾風と左眼丸がいる。敵は悔しそうに歯を食いしばるともう一人の敵に合図を出して2人で逃げて行った。
「大丈夫?」
「お前ら…は…?…ぐ」
青年は響の問いに緊張が切れたのか武器を手放し、傷口を抑えた。響は青年の傷口に向けて右手をかざすと〈力〉を使って傷を治して行く。それに青年は驚いたように響を見上げる。響はニッコリと笑う。
「大丈夫か?!」
「嗚呼…」
青年の元へもう一人の青年…と云うよりも少年が駆け寄る。少年が誰だと云う視線を彼らに投げかけるとテテテテと聞いた事がある足音が背後でした。そして
「お兄!鳴兄!」
「「天!!??」」
抱きつく。その声の主に2人は安心したように頬を緩ませ、青年が天を抱きしめた。
「何処行ってたんだ?!離れたら駄目だとあれほど!」
「ごめんなさいお兄…アメもお兄の櫻みたいに頑張りたくて…」
「!ったく…無事で良かったっ」
「お、お兄!痛いよぉ〜」
天が笑いながら青年を抱きしめる。
「その2人で合っているのかい?」
その声に響達は振り返る。マスターと夜征、そして四季がいた。響達はそちらに戻る。四季は何故か誰かを睨みつけるように目を細めている。
「うん。お兄と鳴兄!」
「天を助けてくれたのか?」
「助けたのは私の連れであるこの子だがね」
マスターはニッコリと笑って四季を示すと彼は海と左眼丸にバシッと背中を叩かれた。
「感謝する」
「…いいえ」
少年が言うと四季は照れたように頬をかいた。とカラン!と音を出して振り返ると透明な体をした青年がマスター達を何故か睨みつけていた。敵だと勘違いしたのだろうか?
「!」
「…夜征兄」
ビクッと反応した夜征に元の姿に戻った疾風が心配そうに見上げる。透明な青年はスゥ…と地面に転がった2振りの刀に吸い込まれた。
「とりあえず、移動でも…?」
「そうだな」
とりあえず移動。
**…
移動した先は廃墟となった家。屋根が今にも崩れそうだが文句は言えない。天は三兄弟に任せ、マスターと響、夜征、疾風は2人から情報を引き出そうとしていた。
「しかし、あいつらは何者だい?」
「さあ、〈レイドクリーチャー〉ではなさそうだけどな…『神』はなんでオレ達を狩るんだ…!!」
響の問いに答えた青年は頭を抱えて言う。それに少年が悩むなと背中をバチンと叩く。
「そんな事言っててもしょうがないだろ」
「まぁな…」
「『神』によってこんなに…」
疾風が唇を噛み締めて言うとその発言に少年が訝しげな顔をする。
「なんでそんな事を言うんだ?」
「私達は比較的に安全地帯だった場所から来たので驚いているのですよ。他の人々も〈レイドクリーチャー〉によって狩られたのですか?」
兄弟の息ぴったしにアドリブが成立する。夜征の問いに青年と少年は落ち込んだ様子でいかにもそうだと言わんばかりの空気を醸し出していた。それに夜征は何も言わずに口をつぐんだ。
ほとんどの人間は『神』の〈レイドクリーチャー〉によって狩られたのだろう。
「そういやぁ自己紹介してなかったな。俺は鳴時、鳴時 六道。宜しくな」
少年、鳴時 六道は深い黒紫色の長髪で首根っこ辺りで結んでいる。瞳は蒼色。両耳に紫のピアスをしている。黒のブレザーと軍服が合わさったような服を着ており、服の袖口がターンアップカフスという袖で、そこの模様はストライプのようだ。下は黒の短パンで裾も同じ模様。靴は黒のブーツで黒のソックスを合わせている…つまりは疾風と海と同じ服と云うことだ。武器は薙刀のようだ。
「んでこいつは…蘭丸!!いつまでしょげてんだよ?!妹が無事でよかっただろぉが!!」
上の空だった青年を鳴時が励ますように言うと青年は少し元気を取り戻したようだった。まるで兄弟のやり取りのようでマスターはクスリと笑って響、夜征、疾風の三人を横目で見た。
「…オレは蘭丸。天の兄だ。宜しく頼む」
青年、蘭丸は山吹色のショートでオールバック。瞳は同じく山吹色。首には桜を模した水晶玉のネックレスをしている。蒼系のタンクトップの上に黒のロングベストを羽織り、下は黒の長ズボン。腰にチェック柄の小さな布を巻き、2振りの刀が提げられている。両腕に長めの黒の指先が出る手袋をしている。靴はこげ茶のブーツで少々ズボンがブーツの中に入っている。
「私はいいからお前達」
「了解。俺は三日月 響。宜しくね」
「桜舞 夜征と申します、宜しくお願いします」
「疾風」
「…疾風、名前だけって短過ぎない?」
「いいじゃん。僕の勝手」
挨拶をした後に3人が口々に会話する。それを蘭丸は自分と妹との光景を思い出したのだろうか微笑ましそうに眺めている。が鳴時は自己紹介をしないマスターに違和感を覚えたらしく眉をひそめている。それに気づいた響がマスターが自己紹介しそうにないので代わりにやった。
「マスターの事は好きになんて呼んでもいいよ。ね、マスター」
「嗚呼」
何やら楽しそうに笑い合うマスターと響。鳴時が「へぇー」と声を上げ、どう呼ぼうか考える。蘭丸は決まっているらしく、夜征と疾風と話している。
「じゃあ、オレはテキトーに呼んどくわ」
「んー俺は…そうだな。ミカって呼ぶな」
「?なんでマスターをミカって呼ぶ事にしたの?」
疾風が素直に疑問を鳴時にぶつけると彼は自分より低い疾風の頭をポンポンと叩いて、言った。
「三日月とミカって仲良さそうだったからな。恋人同士か?」
「「違う!!」」
ケラケラ笑って鳴時がからかうとマスターと響が同時に否定した。響の頬がほんのり赤く染まっているのは無視しよう。マスターはどうか知らないがフードに顔をうずめてしまった。その反応を見た夜征と疾風が楽しそうにニィと笑った。




