第三十伍陣:廃墟との思い出
新しい異世界へとやって来たマスター達。彼らが最初に目にしたのは〈妖京乱華街〉と同じような廃墟と化した街だった。
「また廃墟?もう飽きたぁ…!」
「コラ!飽きたとか言わない!」
四季が回りを見回し、率直な感想を漏らすと疾風が注意し、疎かになっていた彼の頭付近に飛び蹴りをかました。
「うわ?!ちょっ、疾風兄!危ないじゃん?!」
「日々の稽古が足りない証拠!」
疾風の飛び蹴りを紙一重でかわし、四季が文句を垂れると疾風から正論が返ってくる。
いや、そうだけども…疾風の正論に四季はがくりと項垂れた。
「さっすが疾風兄ー稽古の鬼ー」
「………鬼教官」
そんな2人の光景を見て海と左眼丸がそんな事を垂れながら苦笑する。その向こうではなぜか腹を抱えて笑いを堪える響とそれを心配そうに見る夜征、そして呆れたように笑うマスターがいた。
海と左眼丸の鬼が聞こえたのかクルリと疾風は振り返って怖い笑みで言う。
「2人も四季と同んなじくらい稽古する?」
「「遠慮します」」
「んじゃ四季だけ決定ね」
「裏切り者ぉおおお!!!」
笑い合う兄弟達。響が腹を抱えて笑い出す。限界のようだ。マスターと夜征が顔を見合わせ、ぷっと吹き出す。しばらくの間、どんより雲の下で笑い合っていた。
笑いが収まりつつある時だった。
「うえぇえええええええんんん!!!お兄ぃいいいいい!!鳴兄ぃいいいいい!!」
何処からかそんな泣き声が響いた。声からして女の子で怯えているようだ。助けたいのはやまやまだが回りは廃墟ビルだらけで何処から聞こえたのか検討もつかない。
「何処からでしょう?!」
「うわぁああああんんん!!!」
「ああもう!木霊しすぎ!!」
廃墟ビルを睨みつけながら何処からかと探す。探す間も女の子の泣き声は響き渡る。と、四季が武器を出現させ、握り締めるとある廃墟ビルに向かって走り出した。
「四季?!」
「兎に角追うぞ!」
突然走り出した四季を追って彼らは武器を持って走り出した。四季が駆け込んだ廃墟ビルは、病院のようだった。
タンタンッ!と四季は駆け上がる。と階段を遮るように立つ何か大きなものがいた。その背後に立つ誰かが異様に恐怖心を煽るようで四季は身震いした。
「邪魔!」
四季は大きなものに向かって跳躍しながら大鎌を振りかざした。その大きなものは、何処で見た気がした。
**…
「うえぇええん……ヒック…」
窓際の壁に追い詰められた女の子は両手で恐怖で流れ出る涙を賢明に抑えながら、怖がりつつも目の前の何かを睨みつけた。暗いためにそれが何かは判別できない。
お兄、鳴兄。勝手に離れちゃってごめんなさい。アメは…悪い子だよね…本当にごめんなさい。いくらでも怒っていいから…お兄、ユルして…
女の子は涙が溢れる目をそのままに両手で首からぶら下がっているネックレスを握り締める。そして、強く願う。しかしいくら願えど待てど何も起きない。女の子は焦りながら「なんで?!なんで?!」と驚愕する。
「お兄は出来るのになんでアメは出来ないの?!あるはずなのに…なんで…ううううう…」
女の子が再び涙目になる。と目の前にいる何かが女の子に鋭い刃を向けた。それに女の子はギュッ!と目を閉じる。鋭い刃が女の子に振り下ろされた。
だが一向に痛みは来ない。女の子はうっすらと目を開けた。そして大きく目を見開いた。女の子の目の前で大きな何かが真っ二つになっていた。真っ二つにしたのは四季だった。が女の子は四季を知らない。四季は女の子に気づくと急いで駆け寄り、不安そうな顔で女の子の前にしゃがみこんだ。
「アンタ、大丈夫?」
「…………た」
「え?」
「怖かったぁああああ!!!」
「うおっ」
そう叫んで女の子は恐怖の糸がプツリと切れたようで先程よりも多くの涙を流しながら四季に抱きついた。四季は驚いたようだったが大鎌を手放してその女の子をあやすように抱きかかえた。そしてよしよしと背中をさすりながら何かの亡骸が見えないようにする。四季は何かの亡骸を見下ろし、思い出したかのように眉を潜めた。
「四季!」
「!みんな…」
と他の兄弟達が駆け込んで来た。そして四季が女の子を抱いてあやしているのを見て一瞬固まった後、海が呟いた。
「……オカン?」
「ハァ?!どうせなら父親か兄が良いよ!オカンは疾風兄でしょ?!絶対!」
「四季、倍ね」
「今そんな事言ってる場合じゃないでしょ疾風兄!見逃して!」
そんな事を大声で慌てたように叫ぶ四季と彼にとっては死刑先行に近い倍宣言を冷たい声色で疾風が告げる。少しだけ空気が軽くなった気がし、女の子も泣き止んだようだ。女の子は疾風に向かって身を乗り出した。落ちそうになるのを四季が慌てて支える。
「危なっ」
「うううううう…」
「僕が抱っこしとくから四季は伝えたい事伝えな」
「どういうことだ?」
疾風が四季から女の子を預かり、まだ涙目の彼女をあやす。四季は自分が伝えようとしていた事が兄である疾風に伝わったと同時に不思議だったが自分よりも不思議そうにしているマスター達に事を伝えた。
「オレ、あの何か知ってる」
「?!それは一体なんですか?!」
四季が亡骸となった大きな何かを指差して言うと彼らは驚きを露わにし、夜征が代表して聞く。疾風も女の子をあやしながら聞き耳を立てる。
「…〈神の使徒〉、通称〈レイドクリーチャー〉」
「何故、知っているんだ四季?今、その情報は書いてなかったし提示されていなかったのに」
「そうだったの?!」
四季が言った事は本に載っていない。それをマスターが即伝えると響が声を上げた。四季はそれに驚くように一瞬、後ずさりする。
「…今回のこの異世界の『災い』の影響で本に情報が書かれていないんだ」
マスターが本を懐から出し、トントンと本の角で自身の右肩を叩く。その仕草によほどマスターが困惑している事が見て取れる。
「四季は何故分かったんだい?」
マスターの問いに四季は俯き加減になると顔を上げ、自身も困惑した表情で言った。
「思い出したんだ。なんで知ってるのか思い出したのかわかんないけど…」
四季は疾風があやす女の子に視線を向けるとちょうど女の子が四季を見てにっこりと笑って今度は四季に手を伸ばす。
「よっぽど四季が好きみたいだね。はい」
「……子供に、懐かれる…っけ?」
「どっちかって言うと優しい感じの人って認識だったはずだから不思議」
疾風が四季に女の子を渡しながら言うと海と左眼丸が不思議そうに顔を見合わせ言う。四季も不思議そうだったが女の子を抱きかかえる。女の子は四季になってうれしそうにきゃっきゃっと笑っている。先程までの恐怖と涙は何処へやら。
「お名前はなんて言うんですか?」
夜征が四季に近づき、彼の抱く女の子に問う。
今のところの情報源は女の子のみ。夜征の質問が今後を左右する事は必然的だ。マスターは再び〈大罪楽園〉のページを開く。題名が書かれただけで真っ白なページ。さあ、何が書かれるか?
女の子は笑顔で、首からぶら下がっているネックレスを掲げて見せながら明るく言った。
「アメ!天って書いて天って読むの!」
しかし、本には何も書かれなかった。




