第弐陣:瞬間数列移動
彼らは屋敷の中庭にいた。広い中庭には埋め尽くすほどに掘られた理解が難しい文字と数列、模様の数々。
その中央に彼らはマスターによって誘導される。マスターはみんなが自身が誘導した所(大きな円が掘られている)に入ったのを見て、懐からある物を取り出した。それは古びた厚い本。
「みんな、私を中心に手を繋いで円を作ってくれ」
それに彼らは言われた通りにテキパキとマスターを中心にして手を繋ぎ、円を作る。
「……マスター」
「ん?どうした左眼丸」
一瞬、俯いた後、左眼丸は顔を上げて言った。
「…………大丈夫か?」
「大丈夫さ。私を信じな」
「うん…」
「もー左眼丸は心配症なんだからー!」
「四季よりはしっかりしてるよ」
「むっ?!オレだって一応!」
「はいはい、兄弟愛に溢れた喧嘩とお世辞は後にして」
ちょっとした言い合い?を疾風がたしなめる。それにクスリとマスターは笑う。と真剣な顔をする。それに彼らも真剣な面持ちとなる。マスターは手元の本をバッと開くとその上に片手をかざす。
「我、〈力〉を持ちし者。我が名と“彼”の名の元に我らは異世界を移動する事を希望する」
ブワッ!と彼らを何処からともなく吹き出した風が襲い、数々の文字や数列がスゥ…と薄紫に輝き出す。
「我らに意志を示し、解放せよ。我ら、闘いし者。さあ、我らの戦場を、指し示せっ!」
数々の文字や数列の光が空高く伸び、彼らを包み込む。水色の文字が彼らの周りを巡るとそれらはマスターが持つ本へと吸い込まれ、文字を記し、場所を示した。
「決定。戦場は異世界、〈妖京乱華街〉!」
そうマスターが異世界の名を叫ぶと凄まじい光が彼らを包み込んだ。光が消えるとそこにあったのは元に戻った中庭と古びた屋敷だった。
**…
「?」
何か気配がした。懐かしい、でも少し悲しくなる気配が。
「どうした?」
「こうちゃん?行くよ!」
………気の所為か?
**…
シュン…と音が響くと紫の光に包まれて彼らが現れた。光が消え、マスターがいいと合図を出すと兄弟達は辺りを見回し始めた。
先ほどまでいた所とは打って変わり、暗い。空は真っ暗で月光だけが頼りだ。ボロボロの建物が立ち並び、生き物の気配が微かにしか感じられない。
「ふーん。結構真っ暗」
「気をつけてね」
四季が額に片手を当てて辺りを見回す。それに響が言う。
「オレ、ちょっとそこまで行ってくる!」
「分かった。無理するな」
「はーい!」
「四季?!ったく…僕らも行こ、左眼丸」
四季がマスターに言いながら駆け出すと海がため息を尽きながら後を追う。それに左眼丸も少し遅れて駆け出した。
暗闇に三兄弟の姿が消える。
「マスター、よかったの?」
「そうですよ。あの子達はまだ未熟です。何かあったら…」
三兄弟が消えた暗闇の先を見て疾風と夜征が心配そうに言うとマスターは大丈夫だと片手を振った。
「夜征、あの子達は強い子だ。心配しなくて大丈夫だよ。疾風も、ね」
ニッコリと笑うマスターに2人もつられて安心したように笑う。響がそんな弟達の頭を優しく撫でた後、マスターの頭も撫でた。ついでに言うと響は兄弟の中でも一番背が高く、マスターは疾風と同じくらいの背だ。ちなみに響が188cm、夜征が185cm、疾風が167cm、四季が174cm、海が175cm、左眼丸が176cm、マスターが166cmだ。
「響?やめてくれないか?」
「いいじゃないか。マスターは嫌い?」
「いや…そういう訳じゃ…」
「マスター、照れてる?(コソ」
「でしょうね(コソ」
「そこ!聞こえてるぞ!」
4人の楽しそうな声が響く。と暗闇から物音がした。それに一気に4人の表情が引き締まる。音的にあの三兄弟ではなさそうだ。だったら敵?
マスターを囲むようにして兄弟3人が立つ。マスターは持っていた本をバッと開くとこの異世界、〈妖京乱華街〉のページを開き、速読した。
異世界へ行くと白紙のページにその異世界の情報が記入される。役立つ情報だらけなのだが稀に『災い』によって情報が可笑しかったりするのが要注意だ。
マスターは情報を収集し終えると本を懐にしまい、3人に小声で言った。
「この異世界には『災い』の影響で思考などが狂って同類や仲間を殺してしまう症状が出ているらしい。そいつらかもしれんから十分、警戒しろ」
「「「御意」」」
物音は彼らの様子を伺っているようで同じからで動かない。
としばらくして物音が動いた。その先には疾風。彼に何かが襲いかかった。
「疾風!」
「おりゃっと!!」
疾風はその何かを回し蹴りを展開し、靴底で跳ね返した。ちなみに良い角度で何かを跳ね返したので疾風の靴は無傷だ。
「無事…のようですね疾風」
「当然」
「さすが俺達の弟」
安心しきった声が響く中、マスターが3人を指でツンツンと突っついて「警戒しろ」と言う。それに3人が再び、警戒を開始した時だった。
「へぇ…俺の攻撃を蹴りで返すなんて…」
低くもあり高くもある中性的な声が響いた。
「面白れぇ!なぁ、2人共?」
へ?2人共?他にもいる?
そう4人が同じことを思った時、別の声が響いた。
「そうかもねーでも、見極めないと、ね」
「お前は行き過ぎだ」
「いいじゃねぇか。さっきまで無かった気配が今はそこにあるんだぜ?気になるじゃねぇか」
さっきの声も合わせて3人?
彼らは警戒を強めた。
「じゃあ、早速。あなた達は誰?いきなり何も無かった空間から出てきたみたいに気配が揺らいでいたけど」
気配を感じ取れる…しかも空間の歪みにも気づくとは…相当の強者か…
マスターはそう考えると声を出した。
「そう言うお前達も誰だ?味方か敵か分からなければこちらとて正体を言う訳にはいかん」
「ふぅん…そうくるか…だったら…あおちゃん、こうちゃん」
武器を構える音がする。だが彼らはそれでもまだ武器を構えない。
高い声…女性というよりは少女の声が言う。
「戦ってみたらどうかな?わかるんじゃない?」
この異世界の実力、見てみたい気もする。マスターが悩んでいると響がマスターを顔だけで振り返り、頷いてみせた。それに前を向いたまま、夜征と疾風も頷く。マスターは彼らの意図を読み取ると一度瞳を閉じ、開けると言った。
「いいだろう。ちょうど、実力を見てみたいところだったんだ。じゃあ、響、夜征、疾風。お相手をしてやりな」
「任せて、マスター」
「そのご使命、承りました」
「まっ、問題ないね」
力強い3人の言葉が聞こえた。と、同時に暗闇から声の主らしき3人が躍り出た。
自分に向かって来た刃物を疾風がその刃物を持つ腕を足で防いだ。
「へぇ」
「ん?」
暗闇で見えなかった正体不明の相手の姿が見えた。疾風の相手は自分と同じくらいの少年だった。少年はバッと疾風の足を弾くと刃物を一振り。それを疾風は一回転して避ける。と態勢を立て直しながら相手を見る。
「いんや、独特の戦い方だと思ってな」
「そう。まだ、僕は本気じゃないよ」
自分に向かって振られた刃物を夜征は地面に手をついてバク転しながら避けると片膝をついて相手を見る。相手は夜征と同じくらいか少し上くらいの青年だった。
「逃げるだけか?」
「いいえ、違いますよ」
青年が鼻で夜征を嗤うとこちらに向かって跳躍した。
2本の刃物が目の前を通り過ぎた。響はクルリと回って避けると相手を見る。相手はマスターと会話していた少女のようだ。少女は武器を持たない響に困惑したような表情で言った。
「あれ?武器は?」
「その内、使えるさ。待ってみなよ」
響の言葉に首を傾げながらも少女は武器を構え、攻撃体制に入った。
彼らは、兄弟は待っていた。マスターの命令を。
「〈武器〉の使用許可を出す!」
この、言葉を!
**…
三兄弟は目の前にいる大勢の敵に困惑していた。ちょっとそこまでのはずが敵に囲まれてしまった。四方八方、敵だらけ。いつもはマスターが異世界の情報をくれるが自分達は離れてしまっているため、何もない。敵は焦点の合っていない瞳でありながら殺気に満ちており、こちらを殺そうとしているのは理解出来た。
「どうすんの?!」
「オレが知る訳ないじゃん!」
「……四季、海、落ち着け」
「「左眼丸は落ち着き過ぎ!」」
「……………」
左眼丸が兄弟の落ち着きの無さに頭を痛くした、その時だった。
敵が三兄弟に向かって攻撃して来た。
「〈武器〉の使用許可を出す!」
遠くからマスターの声が聞こえて来た。こちらのことを分かっていないのは百も承知だ。だが、
「タイミング良過ぎ〜さっすがマスター!左眼丸!」
「……分かってる…はぁ!」
左眼丸がバッと何処からか出した大量のお札を空中にかざすとそれらは結界となって敵の攻撃から三兄弟を守った。
タイミングが良過ぎる。もし、マスターがこちらのことを分かっていて叫んだのなら恐ろしいがマスターなので気にしない。
「じゃあ、マスターが許可出したことだし…殺ってやろうぜ!」
海がニイと嗤う。と両手を真横に出した。するとそこに黒い小さな球体が集まって何かを形作る。形作られらた物を握り、海は片方を肩に担ぐ。それらは黒く光るマシンガンと銃であった。
四季が手を天に向かって突き出すとそこに葉が集まって何かを形作る。形作られた物の柄を握り、四季はそれをグルンッと自身の周りで一回回す。それは大鎌であった。
左眼丸が手を前に突き出すとそこにお札が集まって何かを形作る。形作られた物の柄を握り、左眼丸はブンッと振る。それは薙刀であった。
「さぁて、異世界での最初の戦場だ!行くよ兄弟!」
「任せとけ!」
「………応」
三兄弟が言うと敵が一斉に三兄弟に向かって遅いかかった。
マスター達、主人公勢を前々から創作してたんですけど使い所がなくて此処まで来ました。やっと使えた!!だから嬉しいし、楽しいです。




