第拾漆陣:解放された対戦
「オレ一人なのーーー?!」
四季は目の前からやってくる紅い瞳をしたナイトメアの攻撃をバク転して避けながら叫んだ。多分、響はマスターを守ろうとして来れないのだろうが隊長と云う身分の彼を自分一人で倒すことが出来るだろうかと内心、四季は思っていた。倒せるはずだ、いや、倒す!
四季はやる気を入れ直し、前方のナイトメアを見やる。欲望に染まり上がった紅い瞳が四季を貫く。彼の右手には剣が握られており、剣の鞘の所にはまだ別の武器があるようだった。
「俺は…勝利したい…ハハッ!」
そう愉快げに笑ってナイトメアは四季に向かって駆け出して来た。大きく振りかぶられた剣を四季は大鎌で防ぐ。と力任せに大鎌を振り回し、ナイトメアを弾く。そしてナイトメアに向かって素早く懐に迫り、大鎌を振った。それを紙一重でナイトメアはかわし、地面に片手をつきながらバク転し後退する。
「自然中間軍民は…有利品…なんとしてでも…」
「!」
ナイトメアの狂ったような言葉に四季は眉をひそめる。と地面を力強く蹴った。そしてナイトメアからかなりの距離があるにも関わらず、大鎌をブンッと振った。
「当たるわけ……!!」
そう微笑したナイトメアはすぐさまその間違いを思い知った。届かないはずの大鎌のリーチはナイトメアの右脇腹を微かだが斬り裂いた。微かなので切り傷程度だがそれでもナイトメアは驚いた。
「ちょっとズレたかなー?」
四季は大鎌を担ぎ、「うーん」と唸る。と目を細めてナイトメアを見る。
「アンタ、人は生き物だよ」
突然、四季はナイトメアの目の前にいた。ナイトメアさえ驚くほどの速さだった。四季が容赦なく横蹴りを放つ。ナイトメアは防げずに横に飛ぶが地面に足をつき、止まると口元から零れ出た血を強引に拭い、剣を構えた。
「なーんか、一人でもいけるかもね?」
「…んだと」
「だってさっきから攻撃されてばっかじゃん?」
四季がクスリと笑った。バッとナイトメアは跳躍し、上段から強い一撃を放つ。それを大鎌で防ぎ、力任せに振る。ナイトメアはそのまま後退した。両者共に相手に向かって駆け出した。両者の武器が交差し、離れ、また交差する。それが何度も何度も続く。その時だった、ガキンッ!とナイトメアの剣が手元から弾かれた。それを好機と思った四季は大鎌の刃を向けた。が四季はすぐに後退しようと思い立った。何故ならナイトメアの武器は剣だけではないと思い出したからだ。だがもう遅かった。ナイトメアは腰にあるもう一つの武器、短刀を抜き放つと四季の顔面向けて突き刺した。それを紙一重でかわす。が
「いっ?!」
それを見越してかナイトメアは四季の足に自身の足を引っ掛けた。四季は後ろに倒れ込むようになる。仰向けに倒れ込んだ四季は急いで立ち上がろうとするが、ナイトメアが大鎌を持つ彼の手ごと足で踏んづけた。
「ちょっ?!」
「終わりだ」
ナイトメアが短刀を四季に向かって振り下ろした。四季は動く体の部位を動かして抵抗しようとした。
「俺の弟に何してんの?」
「?!」
ナイトメアは弾かれて勢い良く後退した。四季の前には響が刀を手に立っていた。そして響はナイトメアを睨んでいた。
「響兄!」
「大丈夫?四季」
響が振り返り、四季に手を差し出す。それを掴み、立ち上がると四季は疑問を兄にぶつけた。
「大丈夫だけど…マスターは?」
「此処だよ」
その声に前方を見るとナイトメアがバク転しながら後退していた。何を避けたのかと云うと彼の前方にいるマスターからの蹴りだ。マスターは響と四季の所にやって来る。
「他のみんながあいつの部下を目覚めさせた。するとある事が分かった」
「?ある事?」
「ナイトメアは誰かに操られているらしい。だからあの紅い瞳なんだ」
その真実に四季は驚きを隠せなかった。誰がそんな事を?!
「四季、君には海と左眼丸と一緒にこの別空間を破って欲しいんだ」
「や、破る?どうやって?!」
響に言われたことに四季はさらに驚く。響は頭上を見上げた。それに四季も混乱しつつ頭上を見る。その視線の先にあるのは下弦の月。
「月を壊すんだよ!」
「うえ、ちょっ!響兄?!」
突然、響が四季の片腕を掴み、月に向かって強く上へ投げ飛ばした。
「頼むよっ!!」
途端に四季は空中に飛ばされる。廃墟ビルの外、ポッカリ空いた穴の近くには兄弟の海と左眼丸がいて2人は空中を飛ぶ四季と並列するように跳躍するとこちらも片腕ずつ掴んだ。
「大役任せたよ四季!」
「………頼む」
「もう、やるっきゃないじゃん!」
そしてこちらも月へ向かって投げ飛ばした。月は案外近くにあったらしくもう少しで届く所まで来た。四季は空中で大きく腕を振りかぶり、大鎌を振った。
「させるか!!」
ナイトメアがそれを阻もうとするが響が彼に刀を振り、それを止める。四季の大鎌の刃が下弦の月をパキンッ…と壊した。その途端、別空間だった廃墟ビルに太陽の光が差し込み、全員を暖かく包み込んだ。
**…
「ナイトメア!!」
「ナイトメア様!!」
夜征と疾風の力により回復したディディアと魅弧が血塗れで片膝をつくナイトメアに駆け寄った。別空間から元の場所に戻った直後、悪あがきとでも云うようにナイトメアは響を攻撃した。それを彼は左腕でかばったので怪我を負ったがその瞬間に響も攻撃を返した。当たったのは腹だった。ナイトメアの瞳は今だ紅いままだ。
「……俺は、まだ…殺せ!自然中間軍民をっ!!」
「「っ!!」」
心配して駆け寄った2人は顔をしかめた。やっぱり、隊長じゃない!
マスター達も見守る中、それは唐突に起きた。突然、ナイトメアが両手で目の辺りを覆い、痛がり出したのだ。
「う…あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」
「ナイトメア!」
「何が起きてるですが?!」
慌てるディディアと魅弧。
「響、〈力〉を使って治してやれ」
「!分かった」
マスターの指示に響は一瞬、迷ったが痛がるナイトメアにゆっくりと近づき、ディディアと魅弧の心配そうな視線と背後の兄弟達の視線を浴びながら彼に向かって両手を向けると意識を集中させる。とそこに小さい月と月光らしき光が舞出す。そしてそれはナイトメアを包み込む。暫くナイトメアは光に包まれても痛がっていたが突如、手を下ろし悲鳴を止めた。すると瞳から紅い色が抜けて行き、元の桃色の瞳に戻った。彼を包んでいた光は消え、響の両手の光も消えた。ディディアと魅弧がハラハラしながらナイトメアを覗き込む。
「…ディディア?魅弧?どうしたそんな顔して?」
「「!!!!!」」
「よし」
不思議そうな顔をしているナイトメアにディディアと魅弧は嬉しそうに笑った。その前で響が小さくガッツポーズを決め、後ろでも小さな安心の声がする。マスターがゆっくりと歩み寄るとディディアが白色の瞳で「手加減してけれ」と訴えて来る。それに軽く頷き、マスターは響の隣に立ってナイトメアと同じ高さになる。
「ナイトメア殿」
「!…マスターとか言ったか…」
「何が起きてるか分かってるかい?」
「……嗚呼、俺は、自分の欲望に取り憑かれていた」
やはり…マスターはそう思いつつも彼の話に耳を傾ける。
「取り憑かれて目の前が見えなくなっていた…申し訳ない」
「俺達に謝るよりは君の部下に謝ったら?」
ナイトメアがすまなそうに頭を下げるのを遮り、響が言った。それに背後にいる兄弟達が頷く。ナイトメアがディディアと魅弧を見、言う。
「……すまん!」
「全く、これだからナイトメアのとこは飽きひんわ!」
「謝られても魅弧は許してあげないかもですが!」
大丈夫と笑う眩しい2人がナイトメアの目の前にはいた。それにナイトメアは
「………………ありがとう」
涙を零しながら言った。
とりあえず、今回の事は水に流すことになった。ディディアと魅弧は自分達を目覚めさせてくれた彼らには感謝しており、それにナイトメアを助けてくれたことにもたくさん感謝していた。もちろんナイトメアも自身をもう一度考える機会にもなり、欲望に取り憑かれていた自分を元に戻してくれたことにも感謝していた。だからこそ、彼らを戦力として捕らえたくはなかった。だが、彼ら、主にナイトメアを操ったらしき人物は結局分からなかった。
「聞いてもいい?」
「?答えられることならなんでもいいですが?」
「“彼”って分かる?」
疾風が魅弧に“彼”の事を聞く。それを瞬時に疾風の視線で確認した彼らは魅弧の口から飛び出す情報を今か今かと待った。
書き溜めてたのが少なくなって来たので少し遅くなるかもです!




