第八十捌陣:今日はね、此処はね、
気泡が浮かんでいっては消えていく。深い、深い、何処かに沈んでく。辛くとも苦しくともない、不思議な中で沈んでいく。
此処は何処だろう?
自分は誰だろう?
そんな些細な事も思い出せないまま、沈んでいく。
ねぇ、光の中で笑っている君は、誰?
**…
〔○月×日
此処には月日と云うものが存在するようだ。それで数えると此処に滞在して早8年が経った事になる。自分の中ではまだ昨日の事のように感じるのに、8年……
俺達が滞在している此処の主さんはとても気前の良い人で見ず知らずの俺達(宗近達含む)を快く引き入れてくれた。他にも人がいるのに…
あ、凄いんだけど、宗近達と仲良くなったんだ。性質上、似ている部分もあったのかもね。
異世界は以前、俺達がいた異世界と似ている。もしかすると同じかもしれない。それでも、楽しくやってる。
此処の主さんと一緒に住んでいるのは本当に俺達の異世界と似た式神や妖、妖怪の類の人々。誰も異形な姿をしていない。彼らが凄いのか、主さん達が凄いのか…
とりあえず、楽しいよ。〕
「兄さん」
「夜征」
先ほどまで動かしていた手を止め、響は振り返った。そこにはお茶が入った湯呑みが置かれたお盆を持った夜征がいた。夜征は響の隣に膝をつき、お茶を彼の近くに置く。それに響がありがとうと頭を軽く下げた。
「何をしているんですか?」
「ん、ちょっとね。疾風達は?」
「疾風は宗近さんと長光さんと将棋をしています。三兄弟は五月雨さんと真守さんといつものメンバーで舞を教えてもらっています」
「はは、仲良くなったよね」
響はお茶を少し飲み、彼らが仲良く過ごす光景が目に浮かびクスリと笑った。それに夜征もそうですねと笑った。
「夜征兄ー!ヘルプ!」
「夜征さんに助け求めるなんてズルい!もう一戦!」
「お前が何度ももう一戦ってやってれば逃げたくなるだろうが」
と、そんな声が部屋の外から聞こえて来た。どうやら宗近は疾風に勝ちたくて何度も挑戦しているらしい。が疾風は限界の模様。だったら長光が代われば良い話だが勝ちたい宗近は代わろうとしないのだろう。
夜征はクスリと笑って響に会釈して立ち上がった。
「行って来ますね」
「行ってらっしゃい」
響は笑ってそう返すと部屋を出て行った。その後に3人がいる部屋に入ったらしく声が聞こえた。響はまたお茶を飲んでから机に向かい、再び手を動かし始めた。
〔この異世界には〈白菊〉、〈蒼菊〉、〈遊戯島〉、〈日竜〉と4つの国に分かれている。4つの国同士が協力しあっているんだって。ちなみに此処は〈白菊〉っていう国。
此処での敵は〈毒忌子〉と呼ばれる地中深くに蔓延った瘴気と呼ばれるものが地上に出て化学反応を起こし、異形な姿へと変化したもの。暇な時にひょっこり来るから大変だよ。
ところで此処がなんと言う異世界か分かってないんだ。もしかすると一緒に回った異世界かもしれないけれどそれを確かめるすべが俺にはない〕
ポタリ、紙にシミが出来上がる。ポタリ、ポタリとそれは続けざまに紙にシミを作っていく。
「………今、君は、何処を彷徨っているんだろう…」
そう呟いた響。時間が止まってしまったような気がすると、一人、再び手を動かしながら思った。




