第八十壱陣:真実ノ双子
マスター VS 夕月夜
「くっ」
マスターは夕月夜の大太刀の風圧に耐えれず、一旦後退した。それを見て夕月夜はカラカラと嗤った。
「それで終わりか?勝つとは聞いて呆れる」
「そんな簡単に思ってもらっちゃあ困る、よっと」
「!」
突然、マスターが大きく跳躍し、夕月夜に向かって上段から2つの刃を振り下ろした。夕月夜はかろうじて大太刀で防ぐと彼女を弾く。マスターは空中でクルリと一回転して綺麗に着地した。そこに夕月夜が懐に入り込み、切りかかった。マスターは紙一重で大脇差を間に滑り込ませ、防いだ。
「……なぁ、聞いて良いか」
「なんだい?」
こんな闘いの最中なのに呑気に質問をしようという夕月夜にマスターは違和感を感じた。
「その本はいつから持っている?」
「?!」
‘その本’とはマスターが異世界を移動する時に使い、異世界の情報を入手する時に使うあの古い本の事だと瞬時に分かった。きっと“彼”はマスターが若葉から貰った本(日記に近い)の事を把握はしていないだろう。していたとしても勝負のためのヒントだとでも言うのだろう。
と言うか、何故
「本の事を知ってる?って顔だな。答えようか…その前にっ」
マスターの考えを読み取り、夕月夜がクスッと笑う。そしてガキッと大太刀で大脇差を動かすとマスターの腹を蹴り上げた。痛みに顔を歪めたマスターに容赦無く追撃を与える。マスターの左肩に深々と大太刀の刃が刺さる。
「ぐ……あ…」
「嗚呼、痛いか。ごめんな、俺、痛みなんてもの、捨てちまってるから分からないんだ」
「?!」
紅い血がマスターの左肩から流れ落ち、左腕を伝って持っていた小太刀を濡らす。マスターはブンッと右腕を動かし、彼を後退させる。夕月夜の首筋に一線刻まれたがこれでは意味がない。マスターは痛みに顔を歪ませ、息を吐きながら左肩を抑えた。
「……どういう、事だ?」
「嗚呼、本と痛みの事だろ?俺な、ずっと昔に君が今持ってるその本、持ってたんだ。つまり、前は俺の所有物」
「なっ?!」
嘘だろ?!その言葉がマスターの思考を支配した。自分が持っている本は元は夕月夜のモノ…なら何故自分は、物事ついた時から、‘持っていた’?
次々に浮かんでは消えていく疑問。マスターの頭の中は、混乱を極めた。
「まっ、今は君が持っているようだし関係ないか。いつから、なんて……あんまり関係ないしねぇ…」
そう言って夕月夜は遠い目をした。思い出にふけっている感じがし、マスターはまた違和感を感じた。なんで、なんでなの?
「それと痛みか。痛みはなぁ、異世界を回る時に捨てたんだ。あの子達は‘捨てちゃダメ’って言ってたけど捨てたもんは仕方がない。でも、なんでかな…」
「?」
お面を抑えて夕月夜は悲しそうな声色で言う。
「君と実際に会った時から捨てたはずの痛みが止まらない」
それすなわち、私が体験して来た痛み。貴方に分かって欲しかった痛みなんだ。捨てたという貴方の痛みが私を通じて戻っているのならそれは、きっと良い兆候。
「では、」
マスターは地面を一蹴りし、夕月夜の目の前に躍り出た。これには彼も驚いたらしい。マスターはかろうじて動く左腕の小太刀を振った。
「私が教えてあげる。おいで、〈お月様〉」
バチリ。そんな音を夕月夜は耳元で聞いた。マスターの小太刀に何かが貼り付いた、かと思うと小太刀に吸い込まれ小太刀は美しく輝いた。ブンッと美しさに見惚れていると小太刀が振られ、慌てて後退した。が時すでに遅く、自分の右肩から左脇腹まで一線が刻まれていた。痛いなぁと夕月夜は思った。
「この〈力〉はね、私が一番最初に使った〈力〉なんだ。美しいでしょう?」
「本当になぁ。じゃあ、質問の答えはこれぐらいにして…〈大太刀鼓舞〉」
夕月夜が前に大太刀を構え、〈力〉を使う。それにマスターは「“彼”はもしかして私と同じなのだろうか」と考えた。逆に「私が“彼”と同じかも」しれないが。
夕月夜の大太刀に虹色の粒子が控えめに舞い出す。夕月夜はそのままマスターに向かって走り込み、大太刀を振り回す。マスターは一撃目を紙一重で避け、次の攻撃を大脇差で防いだ。がやはり男と女で力の差があるし、怪我の状況から見てもマスターが不利なのは明らかであった。
「っっ!」
ギリッと夕月夜が力を込め、マスターに片膝を地面に付けさせる。
勝った?
夕月夜は一瞬だけ期待した。他の者達はそれぞれ闘っていてこちらに目を向ける余裕はない。だったら、
今が絶好のチャンス
「………‘ ‘我が胸に紅き花を咲かせ、その花を勝利の宴に持ち帰ろう’ ’」
「?!これはヤバイ…」
「〈紅華一戦〉」
マスターが慌てるのも気に留めず、夕月夜は〈力〉を使う。力を蓄えた大太刀をマスターに向かって力強く、振り下ろした。




