日記二十参頁目:欠ける言葉〜千夜丸&七音&碧〜
「支配した‘感情’を」「己の意味で」「解放させる時」
「?何の用だ?駒ども」
裏社会の仕事から帰って来た大将を迎えたのは武器を持ち、紅い色に染まりかけた瞳を持った千夜丸と七音、碧だった。大将は自分に向けられるその‘感情’に気づきながら「ククク」と喉の奥で嗤い、何人もの“荒神”を殺した護身用(本当は)の拳銃を取り出した。
「分かってるんでしょ?」
クスリと嗤って千夜丸が言う。それに大将は愉快そうに口元を歪めて言う。
「“荒神”を殺した事?だって、駒なんだからいいじゃんか。駒のくせに生意気で、気持ち悪いんだしぃ?」
「っ。君ねぇ…それがどんなに僕らを侮辱し、友人を、兄弟を失った気持ち分かってるの?!」
七音が腕を振り、叫ぶ。しかしその思いは虚しく、大将には届かない。大将は子供のようにコテンと首を傾げて先程よりも無邪気に嗤った。
「“荒神”の気持ちをなんでわかんないといけない?駒は駒。それ以上にそれ以下に価値など存在しない」
「………………それが、お前の答えか」
3人の瞳にそれこそ、‘感情’が宿る。大将が拳銃をこちらに向けて一発、発砲した。それが合図だ。他の“荒神”は大将を助けにすらこないから存分に、気づかれる前に成し遂げる!
3人は大将に向かって跳躍した。彼が撃った銃弾は七音の拳銃の銃弾で防ぐ。薄ら笑いを浮かべる大将に向かって千夜丸が大鎌を、碧が薙刀を振った。
「………ハハッ♪」
「「?!」」
一瞬にして、そこにいた大将が姿を消した。そしてその途端、背後で響き渡った嫌な破裂音。千夜丸と碧が慌てて振り返ると脇腹からおびただしい量の血を流した七音とその背後に立つ大将がいた。七音は振り返りざまに大将に向かって発砲。しかしそれはなにもない空間に虚しく響いた。
「ハハハッッ!!可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい可笑しい!!狂おしいほどに可笑しい!!」
目を見開いた表情で大将は3人の中心に姿を現した。
「俺は、僕は、“荒神”を喰ったんだ。こんくらいの力、持って当然だろう?あいつは用済みだが、力になるのなら良い女だった…」
「…………お前が、アリスを語るなっっっ!!!」
碧が怒りに任せて叫び、大将に跳躍。薙刀を振るがそれは見え見えの攻撃であっさりとかわされ、銃弾を食らった。
人間は“荒神”と性行為に及んだ際、別体である“荒神”から力を奪う事がある。奪われた“荒神”は衰弱する。此処の大将はアリスの力を奪い続け、力を得たのだ。
「ハハハハハハハハハッッ!!!駒は駒らしく」
「!!」
「「千夜丸避けて!!」」
「使われてろ」
呆然としていた千夜丸の目の前に大将が現れる。2人の忠告を聞きながら千夜丸は大鎌を振った。が大鎌のリーチに入られてしまい、2人の忠告は無駄に終わってしまった。血を流しつつも倒れず、大将へ紅い瞳を向ける3人。大将にとってそれはとっても不愉快だ。
嗚呼、気持ち悪い。
3人が同時に駆け出す。憎しみに囚われ、‘感情’に囚われた彼らは正常な判断を下せずにいる。それは大将にとって格好の餌食。大将は3人が迫っているにも関わらず、3人分の依り代を出すと容赦なく依り代と3人に向けて拳銃を乱射した。3人の攻撃が何処かしらに当たっても良いのだ。この駒を殺せれば!
ードサッー
倒れる音がする。愉快そうに嗤って地面を見ると血の海の中に倒れ、痛みに苦しむ3人の姿があった。それでも大将に攻撃しようとするから笑える。
憎しみを、悲しみを、怒りを、全てを大将に!そう思っても依り代に付けられた大きな傷と心に空いた穴はそう簡単に動かしてはくれない。痛み苦しむ3人に大将が近寄る。その通路で3人分の依り代を踏みつけて壊すことも忘れずに。
「久遠、その名の通りのクズだったな。莢、弱い狐を守って死んだ愚かな馬鹿。翠、用済みの奴をかばって代わりに殺された阿呆。みんなみんなみーんな、駒。駒は壊れる事が結末!代わりは幾らでもいる!せいぜい、大将の鬱憤払しの的でよかったと思え!」
3人は睨んだ。痛いけれど、こいつに一言言っておかないと憎しみは消えない!
「久遠は…クズじゃない。オレ達に明るく接して元気をくれた」
「莢は珀を誇りに思ってた。兄弟を誰よりも理解していた」
「翠は…アリスを尊敬し、敬愛していた。誰にでも優しかった」
「「「そんなアイツ/あの子/彼を」」」
下から紅い瞳が大将を貫く。こもっているのは憎しみ、悲しみ、怒り、痛み全て。
「「「大将が言うなっっっっ!!!」」」
「…………………そうか、なら」
ーガチャー
「死ね」
ーバンバンバン!ー
***
大将が去って、どのくらいの時間がすぎただろう。唐突に、千夜丸が意識を失っているかもしれない2人に声をかけた。
「……七音、碧…オレさ……こんな結果になったけど復讐出来たと思うんだ」
ギュッと握り締められたのは久遠の遺品で形見であるお揃いのネックレス。穏やかな笑みを浮かべて千夜丸は続ける。
「ありがとう」
「……………いいんだよ…僕らも同じ…ねぇ碧」
「嗚呼…」
「……へへ」
七音の片目は変色し、碧の片目からは血が流れ出ていた。
復讐は終了。例え自分が死ぬ事になってしまってもこれで良い。ただ、気掛かりなのは、残された者達。
「……ねぇ、手、繋いでもいい?……死ぬのは……怖いっ」
七音がそう言い、2人に弱々しく手を伸ばす。その瞳からは紅い涙が零れ落ちる。冷たくなりつつある七音の手をパシッと2人が握る。怖いのはみんな同じ。なら、復讐を企てた者同士、復讐を分かち合った者同士、怖さも分かち合いましょう。
動かない体。流れ出る涙。
「…………昔、翠が…怖い時は手を、握れ……ば良い…と言ってた…」
「なら怖くないよね」
クスリと笑みを3人はこぼす。死ぬのは怖いけれど、きっと大丈夫。そんな思いが3人の心中を埋めていた。
ごめんね久遠。ごめんね霧雨。でも、それ以上のありがとうを贈るよ。大切な2人には笑っていて欲しかったけど、無理だった。それでもオレは幸せだった。久遠、許さなくても良いから、また会おう?霧雨、またお茶淹れて?
さようなら、いつか出会う日まで
莢、珀。2人と過ごせたのが僕にとっての一番の幸福だった。莢の強気な所、優しい所。珀の一生懸命な姿、精神の強さ。2人の全てが憧れで思い出。また3人でふざけた事で笑い合いたかった、3人で一緒にいたかった。でももう無理だね。ありがとう。
生まれ変わったとしても、忘れないで
いつも、卑屈な俺を励ましてくれた碧。暖かい紅茶で俺を笑顔にしてくれたアリス。2人に感謝の意を。こんな俺で大変だったと思うけれど、それでも2人といるのは俺にとって心地よかった。けれど碧はいない。俺も。アリスごめん、一人にして。碧ごめん。でもこれが俺の最後の抗いで、意志だから。
もし、また出会えるのならばその時は……また……
3つの命が静かに、動きを止め、瞳を閉じた。
そして
「みつけた」




