日記二十頁目:許してとは、言わないけれど〜久遠〜
「それでも、ぼくは幸せだった」
「………………いっ……た……」
体中に走る痛みで久遠は深い眠りと云う名の気絶から目を覚ました。此処は何処だと目を動かせば、冷たい壁と天井が広がっていて。
嗚呼、此処は大将の部屋か。
そして、久遠は気絶する前を思い出した。
***
確か、戦争の報告に大将の部屋に行き、負けた事を話した。すると大将は癇癪を起こした。久遠はすぐさま逃げようとしたがそれよりも早く、依り代を壊され、転んでしまった。そんな久遠の上に馬乗りになってあの大将は言ったのだ。
『っ!どいつもこいつも無能ばっかり!!裏社会も全部、全部全部全部全部全部全部全部!!ああああああ!!!!イラつく!!!戦争に勝てないお前らもお前らだ。ホンットイラつく!!』
身勝手だな。
久遠はそう思った。だってそうではないか。仕事?ぼく達に関係無い。戦争?負けた原因も聞かずに無能と云う方が無能だ。
久遠は大将から逃れるようにジタバタと抵抗したが大将は思ったよりも力が強く、抜け出せない。人質である沙羅は怯えた様子で2人を遠目にオロオロしていた。
『離せこのクズ!自分の過ちを、失敗をぼく達のせいにするな!!』
『駒の癖に駒の癖に駒の癖に駒の癖に駒の癖に駒の癖に駒の癖に駒の癖に駒の癖に駒の癖に駒の癖にぃいい!!!』
『?!』
既に大将は狂っていた。いや、狂いすぎていた。これには久遠も沙羅も一瞬にして止まった。大将を狂わせたのはなんなだろう?それでも、同情などない。今まで仲間達を、友人達を壊し、裏社会に通じていた罰だ!!
『………ふふふふふふふふふふ、あはは!!じゃあ、お仕置きだな?』
ニィと愉しそうに嗤った大将。そして一瞬にして久遠の体に鋭い痛みが走った。
『ぐ……あ…?』
胸元を見てみると依り代である…いや依り代であった破片が突き刺さっていた。依り代は壊された。胸元から流れ出る紅い血。それを久遠は理解出来ずに困惑した。
死ぬの?イヤだ……
『イヤだぁああああああああ!!!!』
『あはははは!喚け喚け!!あははは!』
死に恐怖し、暴れる久遠を見下しながら大将は嗤う。しかし、次の瞬間、久遠は胸元の破片を抜くと先程までとは違う表情をした。それに大将の機嫌がみるみるうちに悪くなる。
『……………あんたに殺される?本当に、気色悪いね』
『あはは……あはは!』
ドゴッ!大将は拳で久遠の頬を殴った。久遠が意識を失うまで。
どうせ、もう死ぬ野郎に情けなど皆無!
そして久遠は沙羅が大将を止める声を最後に意識を失った。
***
これが事の顛末である。久遠の体は死を受け入れ始めており、指一本すら動かない。背中に自分の温もりを奪う血と床の冷たさが染みる。
「………………千夜………霧雨……」
大切な兄弟と友の名を、呟く。その声は死に場所となった大将の部屋に虚しく響き渡った。
とそこに微かに聞こえ出す、啜り泣く声。
「ごめんなさい……ごめんなさい………ごめんなさい…ごめんなさい…」
「………………沙羅…」
その主に目をやると部屋の隅っこで丸まった小さな少年がいた。久遠がかすれかすれの声で彼の名を呼ぶと涙でグチャグチャになった顔を彼は上げ、また「ごめんなさい…ごめんなさい…」と繰り返す。
「………沙羅……おい、で……」
そう久遠が言うと少年は四つん這いになって血だまりの中央にいる久遠に近寄った。
少年、名は沙羅 華。黄色のふわふわとした髪質のセミロングで瞳は緑色。白のワイシャツに黒のネクタイをキチッと締めて、白の上着を着、白の半ズボンに白のニーハイブーツ。まだ幼いためにその顔には幼さが出ている。
沙羅は大将に内気な性格を利用されて人質になった“荒神”である。
沙羅は久遠の所に行くと冷たくなり、消えつつある手を握った。自分には治療出来る力がないから、せめて少しでもさみしくないように。
「ごめんなさい…久遠様……わたしが……未熟なばっかりに…」
「……大丈夫……ねぇ…沙羅」
泣く沙羅に久遠は自身も泣いているのに気づかないまま、笑った。それに沙羅が「なんですか?」とぎこちない笑みで答える。
「…………千夜………に………ごめんって………幸せ、だったって………伝え……」
「!久遠様!」
遺言の最中に惜しくも久遠は瞳を静かに閉じて行った。沙羅は「死なないで…」と必死に呼びかけるが久遠の薄れ行く意識を引き戻す力はない。
なくなっていく体の感覚に久遠は身を委ね、2人に思いを馳せた。
霧雨、いつもお茶ありがとう。美味しかったよ…おじいちゃんって言って怒らせてごめんね。
………千夜丸、些細な事で君にひどい事を言ったぼくを君は許さなくても良いよ。遺言みたいになっちゃったけど、ぼくは幸せだった、嬉しかったよ。また、何処かで…お会いしましょう……
***
「は?久遠が…死んだ?」
千夜丸はその真実に目を見開き、悲しみ、絶望し、そして、憎しみを宿した。
千夜丸の前には薄い姿の沙羅。沙羅は大将の部屋から出られないため、『言ノ葉』と呼ばれる化身を使って外の“荒神”とコンタクトを取る。……だいたいが死んだと云う事を報告するのにしか使われないので沙羅自身は『死者の宣告者』と呼んでいる。
『言ノ葉』は悲しそうな顔で言う。
『…あの、これ』
千夜丸が顔を上げると『言ノ葉』が差し出した手のひらの中には久遠がしていたお揃いのチェーンで繋がれた葉がモチーフのネックレス。それを震える手で受け取り、千夜丸はそれを胸に強く抱き締め
「あ……あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
涙をこぼした。久遠の形見。それが彼の死を千夜丸に突きつけた。
事実?嘘だよ…ヤダよ…久遠…
『………久遠様は千夜丸様に「ごめん」と「幸せだった」とお伝えして欲しいとの事で…』
「あ"あ…」
その遺言に千夜丸の涙腺は一層崩壊する。がその‘感情’は止まらない。その、‘感情’は。
『…?千夜丸、様?』
「………久遠は死んだのに大将はのうのうと生きてるの…?なんで……嗚呼、憎い」
『!千夜丸様…!』
千夜丸が顔を少し上げるとその片目には紅い色が滲んでいた。もう片目は‘まだ’深緑色をしていたが『言ノ葉』は理解した。
千夜丸は本物の“荒神”になろうとしている。いや、理解していないかもしれないけれど。その‘感情’が千夜丸を支配しつつあることは間違いなかった。
ギュッと久遠の形見を握り締め、立ち上がると『言ノ葉』に言った。
「ありがとう…『言ノ葉』。オレは、オレのやり方で、これから行く…から…」
『!!千夜丸様!』
『言ノ葉』の薄い体をすり抜けて千夜丸は歩いて行く。『言ノ葉』がその背に感じたのは怒りに憎しみ、そして悲しみ。
『言ノ葉』は悲しそうな、心配そうな顔をしながら自らの主に報告するために姿を消した。
「………ごめんね、久遠。でもオレは……」
久遠の形見を強く胸に握り締めた。
ああああ…こんなに進むなんて…嬉しいんだけどびっくり(文章可笑しい)
皆さんの中に推しキャラ?お気に入りキャラ?出来てたら作者嬉しいです…考えたかいあった……あ、すいません…
前回も書きましたが読んでくれる方全員に感謝してます!




