第玖陣:別れと旅立ち、不穏な空気
「やったー!はい、ハイタッチ!」
「……………ん」
敵が全滅し、左眼丸とイノリがハイタッチを交わす。左眼丸は少々戸惑っているが。
「お疲れー!」
「お疲れ様です」
海と弥々丸がお互いを労わり、ニッコリと笑う。
「おじいちゃん生きてる?!」
「小生は生きておるぞ?」
四季が如鶴の安否を何故か確認する。言動がおじいちゃんっぽいからか…?
「本気見せてくれてありがとな」
「いいえーこちらこそ。2回目だけど」
疾風と香が笑い合う。まるで本当の兄弟のように仲が良い。
「援護、助かった」
「いえ、役に立てたなら本望です」
青藍が援護してくれた夜征に礼を言うと彼は笑って答える。
「月姫ちゃん強いね!」
「そうかい?響や夜姫の方が強いと思うが?」
「マスターも強いってば」
お互いを強いと褒める3人。
全員の足元には〈血狂骸身〉の死骸が死屍累々だ。
とマスターが思い出したように夜姫に問った。
「なぁ、夜姫」
「なに?月姫ちゃん」
「聞きたい事があるんだがいいか?」
「いいよ!で、なに?」
「“彼”を、知っているかい?」
マスターの声が緊張で震えていたのを彼らは感じ取ったが夜姫達は分からない。
自分達の本来の目的は“彼”だ。目的を達成しなければいけない。
マスターが固唾を飲んで夜姫の回答を待つ。すると彼女は「ああ!!」と思い出したように両手を叩いた。
「なに当たり前の事聞くの?彼って大和帝の事でしょ?」
「………ぇ…」
マスター達の「嘘だろ…」と云う表情に夜姫達は気づかず、「なんで当たり前の事を…」と首を傾げる。
「全知全能神である大和帝がこの世界を造り、妖怪と人間を造ってこの世に放った…俺達の生前の歴史だぞ?当たり前じゃないか」
青藍が訝しげに首を傾げ、言う。
だがマスター達にとっては違うのだ。世界を…異世界を創り上げたのは“彼”なのだ。皆、忘れてしまっているのか。膨大な歴史は真実を嘘で塗り固めてしまったのか。
「そ、そうですね。失礼しました」
「僕ら、よくその話で他の人達と口論になっちゃうから聞いただけなんだ」
夜征と海がすかさずフォローに回る。きっとマスターは懐のあの本を両腕で強く、抱き締めていることだろう。
それに夜姫達はもう何も言って来なかった。マスターは思い出したかのように残念そうに夜姫に告げた。
「そうだ…すまん。私達は先を急がねばならないんだ。だから此処でお別れだ」
「ええーー?!そんなぁ…ん〜でもしょうがないね。月姫ちゃん達には月姫ちゃん達なりの事情があるんだもんね。私達のワガママで足止めさせちゃ悪いね」
「わー夜姉様、おっとなー!」
「一応、イノリんよりは歳上だけど?!」
夜姫の言葉が意外だったのかイノリが瞳を輝かせて言うと夜姫が反論した。それに最初、如鶴が笑い出し、そこから感染したように皆が笑い出した。暫く笑った後、お別れとなる。
「世話になったな」
「いえ、こちらこそ!」
マスターが夜姫に別れの握手を要求すると夜姫はその手を握り返した。
「怪我しないようにね!おじいちゃん!」
「わかっておるよ、四季」
四季は最後にもう一回!と如鶴に言う。それを彼は毛嫌いことなく受け入れた。
「お気をつけて、海」
「そっちもね!弥々丸!」
弥々丸と海は互いに声援を送る。
「元気でね!左眼丸さんっ!」
「…お前もな……イノリ」
イノリがニッコリと笑って言うと左眼丸はイノリの頭を優しく撫でた。
「また会えたらその時は決闘しようぜ」
「いいよ。望むところだよ」
香と疾風は固い握手を交わし、もし次会えたらと云う約束を交わす。
「君はすぐ大怪我を負いそうなので気を付けてください」
「…なんか否定出来ないが努力する」
そう、会話を交わして青藍と夜征はクスクスと笑う。
響は名残惜しそうな弟達を見て少し悲しそうに微笑んだ。
「響さんも」
「こちらこそ」
夜姫と握手を交わす響。
全員とお別れを済ませたマスター達は夜姫達と別れた。背後で彼女達の声がしており、振り返ると手を振っている。見えなくなるまで降り続けるつもりだろう。だとしても別れを惜しんで三兄弟は彼女達が見えなくなるまで手を振りかえした。
「行っちゃったねー」
「そうですね、姫様」
「私達も行こ」
夜姫が涙を少々強引にぬぐい、真っ赤になった目元を晒しながら笑顔で言う。それに彼らが頷く。
「弥々兄、肩ー!」
「しょうがないですね、イノリは」
「はは、仲が良い事」
「気をつけろよー」
「はーい!香兄!」
「ちゃんと聞いてるのかなー?」
「どうでしょう?」
「さあな」
楽しそう会話しながら朱護神社を後にする彼女達。その後ろに、何かが揺らめいたことなど知らずに…
**…
朱護神社を後にし、マスター達は此処にきた場所へと戻って来た。
「響」
「分かった」
「私も手伝います」
マスターと響、夜征が異世界へ移動するための準備を速攻で始める。コンクリートに石ころで無理矢理、数列や文字を刻み込む。
「…………疾風兄」
「ん?どうしたの?左眼丸」
兄達とマスターの準備を一人ぼーっと眺めていた疾風に左眼丸がある疑問を投げかけた。
「…………あの、香って人……誰だったんだ…「前世で?」…嗚呼」
弟の問いに疾風は懐かしむように笑いつつも、悲しげな声色で告げた。
「…今の僕達と同じ。兄弟だった」
「……今も……思い出すのか?」
「嗚呼、思い出すよ。最悪の方も最高の方も」
疾風が自身を抱き締めるように両腕で体を抱く。左眼丸には少し表情が怯えているように見えた。どうにかしようと思索し、声をかけようとした時、
「でも」
「?」
「前世は…過去はもう振り返らないって決めた。今は君達、兄弟と過ごせる事で十分だよ」
「…………」
その言葉に左眼丸がキョトン…としていると疾風がそんな彼の鼻を背伸びしてチョンッと人差し指で突っつき、いつもの笑みに戻る。それに左眼丸は安心したように笑った。
「似てたから心配してたの?」
「ハァ?何言ってんの海」
兄達とマスターの準備が終わるまで周りを見ていた時、海が唐突に問った。それに四季は「意味分かんない」と不機嫌そうな顔を返した。
「だから、如鶴さんだよ。似てたからあんなに心配してたんでしょ?」
「……海に関係ないだろ?」
「関係あるに決まってるだろ。兄弟なんだから」
その言葉に四季は「ハハッ」と空元気に笑う。確かにオレ達は兄弟だ。関係あるかもしれない。
「ホンット、海って兄弟思いー」
「そりゃあね。兄弟だもん」
「ありがとー」
「いいえー」
2人は笑い合うと疾風と左眼丸の方へと歩いて行った。
「まさか、此処での“彼”の認識がこうも違った…いや、塗り替えられた、か…ていたとは驚きだな」
ガリガリと石ころで数列を刻みながらマスターが言った。それに同意するように響が言う。
「あの子達は嘘をついているようには見えなかった。真実なんだろうね」
「嗚呼、此処では情報なし、か。次の異世界に期待しよう」
「そうだね…夜征?手が止まっているようだけど?」
響が一向に動かない夜征の手を見て彼に言うと彼は驚き、慌てたように顔を上げ、手を動かし始めた。
「す、すいません!今やりますので」
「夜征、慌てなくて良いよ…もしかして…」
マスターが何かに気づき、途中で口を紡ぐ。それに響も気づいたようで夜征を見る。夜征は自身を哀れむように笑う。
「…気にしないでください…大丈夫です」
「無理はするな」
「御意」
マスターの言葉にそう無機質に答え、夜征は作業を開始する。それを心配そうに眺めた後、2人も作業を再開した。
ぶっちゃけてしまうと兄弟達には前世の記憶がある。いや、前世では少々語弊があるかもしれない。兄弟達は今のこの兄弟の形になる以前、相当辛く、悲しい現実を突きつけられた。そしてそこから救われるようにマスターに出会った。この兄弟の形になった今でも前世、疾風の言う通り過去とも表せるこの思い出を捨て切れていないのが現状だ。この形になる前、兄弟達にも今のような兄弟や仲間がいたのだ。さすがに今すぐ忘れろと云うのは無理な話だ。それでも徐々に前を向こうとしている。良い例が海と左眼丸、そして響で響の場合、彼はすでに克服している。左眼丸もどちらかと言うと克服している。マスターはこのことについてあまり深く考えていない。これは彼らの心の問題だ。前を向くか、前世、過去を引きずるか。例えそれがあだとなろうともマスターは彼らを見捨てはしない。
「よし、いいだろう。みんなを呼んで来ておくれ」
出来上がったものを見てマスターが言い、全員を呼ぶよう指示した。
**…
「決定。戦場は異世界、〈ドリーミーワールド〉!」
そして、この異世界へ来た時と同じようにして彼らは次の異世界へと旅立った。




