出会い
目が覚めると視界に映ったのは木造建ての家であった。どうやらここは家の中らしい。辺りには本棚やテーブルベットなどが置いてあった。誰かがここに住んでいる事を理解したが、誰かがいる気配がない。
「ここは何処なの?」
また辺りを見回した。
「ここは俺の家だ。」
奥の部屋から男の声がした。寝ていた布団から飛び起き、腰に忍ばせておいた短刀を構えた。
「だ、、、誰だ?」
誰かがこちらに近づいてくる恐怖に怯え、声と体は震えていた。
「誰って、俺はお前が土砂崩れに巻き込まれて死にそうになってたとこ所を、助けた命の恩人だぞ。少しは感謝しろよな。」
「助けてくれた事はありがたく思う。しかしそれだけでお前を味方と判断する事は出来ない。率直に聞くが、お前は私の命を取りに来たのか?」
命を助けてくれたから悪い奴では無いと信じたいが、体は正直だ。まだ体は震え、その振動が構えた短刀を鳴らす。
寝起きだったのだろうか、ボサボサの髪を掻きながら困った顔をした。
「敵か味方かと聞かれてもなぁ、、俺お前と会うの初めてだし、命を取る理由がないしな。まぁーどちらかと言えば味方なんじゃないかな。」
男はニッコリと微笑みながら言った。その微笑みには嘘が無い事を感じて安心したのか、構えていた短刀床に置き、頭を下げた。
「申し訳なかった。命の恩人に刀を向けるなど。」
「別に大丈夫だって。誰だって起きて知らない場所にいたらそうなるよ。でも安心したよ。だって君が悪い人ならそんなこと聞く前に僕を殺すだろう?俺の名前はシーゴ。シーゴ・ドウエンだ。君の名は?」
「私の名前はカルハ。カルハ・キマシーザ―。」
二人は固く握手をした。
「ところでカルハはここに何しに来たの?」
思ってもいない質問だった。なぜなら、こんなアクシデントに会わずに勇者たちの元に行き、力を貸してくれるように頼むはずだったのだから。
「い、、いや、ちょっと珍虫を探しに来たんだよ。」
辺りをキョロキョロしながら作り笑いで何とか誤魔化した。
「そうかそうか。ならいいとこ知ってんだよ。ちょっとこっちに来て。」
シーゴは満面の微笑みを浮かべカルハの腕を掴み走り出した。
「・・・・」
カルハは失神寸前だった。なぜなら虫が大の苦手で、自分でついた嘘が誤解を招き、今から珍虫のいる場所へと連れていかれる事だと悟ったからであった。
シーゴが走るのを止めると、自然とカルハの足も止まった。
「この洞窟にその珍虫がいるんだよ。だけど1つ約束してくれよ。絶対に捕まえたりしてこの洞窟から出さないでくれよ。ここの虫はここでしか生きる事ができないから。
「(虫なんて気持ち悪い生き物誰も持ち帰らないわよ。)」
カルハは心の中で呟いた。
「さぁ中に入ろう。」
シーゴに手を引っ張られ暗闇の洞窟へと入って行った。
どれぐらい進んだろうか。辺りは真っ暗闇で距離さえも分からない。ただ言えるのは入ってきた入口の明かりが見えないってことは相当距離を歩いたということだ。しかし目の前には出口と思われる明かりが光があった。
「あとどれぐらい?もう出口まで来ちゃったじゃない。」
「出口じゃないんだなー。もう少し、もう少し、、、ここだ。」
目の前に映った景色を疑った。そこには虹色に輝く蝶々がいた。
「この虫綺麗。初めて見たわ。こんな素敵な生き物がいたなんて。」
「この虫は虹虫と言って蝶々の一種だが名前に蝶が入らない珍虫なんだよ。」
カルハはうっとりとした顔で見とれていた。
「カルハ。君は珍虫を探しに来たんじゃないんだろ?」
その言葉にカルハは我に返った。いくら信用してるからと言ってこの作戦が知れ渡ればただでは済まない。額に流れる汗が止まらなく心拍数も早くなっていた。
「さっき俺の言葉を信用して、敵では無い事を感じ取ってくれた。だけどさっき君が珍虫を探してると言ったとき俺は、信用できなかった。だからここに連れてきた。」
「どういう事?」
「この虹虫には見ていると心を落ち着かせ、真実を吐きたくなる気分になるヒーリング効果がある。珍虫を探していなくても連れてくる予定だったが、都合よく君が、珍虫を探してるって言ったから連れてきやすかった。」
「騙したのね?」
「そう思わせてしまったのなら申し訳ない。」
騙された苛立ちと、殺意がこみ上げたがもう手遅れだった。虹虫の効果もあり少しずつ口を開いた。
「貴方を味方だと信用して話すわね。本当は私、、、」
その時遠く離れた入口の外で、微かに叫ぶ声がした。シーゴは一瞬にして怒りの表情になり、呟きながら外へと走って行った。
「敵襲だ。」