オニノ伝承
夏のホラーに出すために…ノリと根性で昨晩から書いて仕上げました。
脈絡、ないですかねえ…
修正:段落分け
〝何てことの無い、在り来たりなお話。
この学校には七不思議が存在する。
空飛ぶ彫刻刀、動く石像、飛び出す絵画。
馬鹿馬鹿しい、そうひと蹴りしてしまうものの中にもー
ー本物が、あるかもしれないよ?〟
クスクスクス…
終業のチャイムが鳴り響く教室に〝カノジョ〟は居た。
艶やかな黒髪。紅く妖しく光る瞳。
10人いれば10人全員が振り向くであろうその美貌の持ち主は只、運動場側の窓際立っていた。
その様子を見返る者は居ない。それどころか…まるで無いもののように扱われていた。
ショウジョにはそれが不思議で堪らなかった。
ー何故、あんなに美しいのに誰も見ないのだろう
無表情のカノジョは美しい人形にすら見える。
血の気を感じさせない、人智を超えた美しさ…と表すのが適切なのだろう。
ー同性であるワタシですら見惚れるのに…何故?
皆の様子を不思議に思い、また、カノジョと言う存在に興味を持った。
そこからショウジョはカノジョについて調べてゆくー
ーキミは、ワタシが見えるの?
初めて声を聴いたのは、調べ始めてから何日たったことだっただろうか。
日誌を書くために1人…否、カノジョと2人で教室にいたショウジョはその今にも壊れてしまいそうな、儚く美しく、ガラスを彷彿させるようなよく澄んだ声に一瞬動揺を覚え…黒髪のカノジョが目の前に、しかもジブンを覗き込む形でいたことに更に動揺する。
ーふふっ見えるみたいだね…面白い
舌舐めずりをするカノジョからは妖艶さ、と言うものが漂っていた。
見惚れるような甘い美しさ。ショウジョはカノジョに完全に魅入っていた。
だから彼は気付かない。
カノジョに影が無いことも。
カノジョに血が無いことも。
只美しいその顔を見つめる。
その様子に満足したのか、カノジョは口角を上げ、歪んだとも、満面とも取れる笑みを浮かべた。
ー気に入りました。可愛い顔だし…
〝ワタシのコレクションに加えてあげる〟
妖艶な声が耳元で囁く。
それは甘い声音。全てを魅了するような、甘い声音。
ショウジョの目は、その様子に更なる動揺を示し、体は反射的に反り、頰は紅潮する。
それを逃さんとばかりに前のめりになったカノジョは、片方の腕をショウジョの腰に当て、もう片方の腕でくいっとの顎を上げたカノジョはショウジョを引き寄せ…
…その、程よく赤い喉笛に噛み付いた
ッッッ⁉︎
声にならない悲鳴がショウジョから出るが、それは響くことの無い嘆き。
感覚神経が悲鳴を上げ、激痛が全身を襲う。
発狂したほうが楽だというのにカノジョに喉を噛まれている所為か、一向に声が出る気配がなかった。
やめてくれ!と言うかのようにショウジョはカノジョの背中を叩き、必死の抵抗を見せるが、その華奢な身体からは考えられない力でショウジョを逃がそうとはしない。
必死に体を動かして抵抗するショウジョ。
それに更にカノジョは口元を歪め、そして血を啜り行く…
ドクン、ドクンと音を立て、流れ出てゆく新鮮な赤。
それはまだ熟したばかりの果実ーショウジョの鮮血。
だんだん減りゆく血液に危機を覚え、抵抗するも、痛みと血液不足で動きは鈍いものとなっていった。
目眩がショウジョを襲う。
初めは必死に耐え忍び、早くここから脱出しようと愚考していたものの、限界というものは必ず存在するらしい。ショウジョは遂に膝をつき、僅かに残る生気をその眼に宿す。
ーああ、オイシイ…オイシイワァ…
喉笛より口を話したカノジョは頬を紅潮させ、興奮した様子でそう語る。
その手や、口元には紅い何かが付いており…それはドロリと伝っていった。
その様子に戦慄し…しかしチャンスだと悟ったショウジョはここから逃げようと足を動かした…
…否、現実というものはそんなに甘くなかった。
その土色に変化した足は…まるで鉄のように重く、一向に動こうとしない。
焦るショウジョにカノジョは妖艶な笑みを送り…
ペロリ、と口元を舐めまわし、再び喉笛に噛み付き…残り少ない血を啜るカノジョ。
ショウジョの土色の体からはもう血という概念を感じさせなかった。
動かぬ体。
絶対絶望的なこの状況下。
もう既にショウジョに抵抗するほどの力も、思考も残っていない。
死という名の〝絶望〟。
それが迫っていることを理解し、ショウジョの目に負の感情が宿る。
ーワタシなんて、只々己の無力を嘆く、紅い空に映る…たかが1人の人風情。
ーああ、なんて矮小な存在なんだろうか…
たかが1つの命は…絶望と無常の念に蝕まれてゆく…
次第に眼に宿る正気は輝きを萎めていった。
只、時計の針の音が、無音の教室に響く。
カチ、カチ、と時が刻まれるたびにショウジョの脳裏に走馬灯と呼ばれるものが駆けて行った。
しかし、そこに映るのは…惨めで矮小な〝ワタシ〟の無様で無意味で碌でもない人生。
産まれてすぐ、チチとハハに捨てられて。
孤児院の院長に拾われて。
邪魔だ、働けと殴られて。
汚い、死ねよと罵られて。
思えば、幸せなんて感じたことは一度も無かったかも知れない。
思えば、楽しいなんて感じたことは一度も無かったかも知れない…
乾いた笑みが出てしまうくらい、彼の人生は最高に絶望的だった。
そして今ー
ーああ、ワタシは碌でも無い〝死に方〟をするようだ…‼︎
彼はきっとまた…絶望し、死ぬのだろう。
〝きっと誰にも気にされない。
キット誰も悲しまナイ
だってワタシは〝産まれちゃイケナカッタんだ〟。
ワタシは産まれたときから〝フリョウヒン〟デ…ハハッハハハハッソッカッッッドウセワタシハ…
…ドウセ〝ワタシ〟ハ、〝悪〟ナンダ…
絶望と悪と…負の感情より狂ったように笑うショウジョに、今まで一方的に吸血していたカノジョは不気味さを覚え、喉笛より口を離し、一歩後ずさった。
ショウジョの首筋から…ポタリ、ポタリと滴る血の雫。
それは何時しか止まり…ショウジョより完全に血がなくなる。
しかしショウジョは止まらない。
死んでも、まだ、止まらない。
先程まで衰弱の一途を辿っていたショウジョは…その血の気の無い顔に狂った笑みを貼り付けて…
ククク、クフフと狂い笑う…
ーな、何なのよ…貴方なんてッ全然可愛くないッッッ!
そう言って冷や汗を流しながら逃げ出そうとするカノジョだが…もう遅い。
狂い歩くショウジョの腕が無造作に動き、空を切った。
否ーカノジョの右脚を切断した。
耳を劈くような悲鳴が響き渡る。
しかしそれを聞き届ける者はいない。
ショウジョはその本体と離れた足だったものを拾い上げ…それを無造作に食いちぎった。
その様子にカノジョは戦慄し…同時に恐怖を覚える。
今まで味わったことのない、絶対的強者に狩られるという出来事。
必死に手足を動かし教室を出ようとするが…左足を掴まれ、カノジョは思わず床に突っ伏した。
獰猛な笑みを浮かべるショウジョ。
ー他人の足掻くスガタって…
〝こんなにも無様で、惨めで、…
…絶望的でオモシロイ…ねえ、そう思わない?〟
ショウジョは初めて受け取る〝他人の絶望〟による至福だと理解し、その頰を紅潮させ、美しくも恐ろしい笑みを浮かべる。
ーい、嫌よ!嫌嫌嫌!嘘よ、こんなの…だって…貴女は人風情…‼︎
それ以上の声は出ない。
只、自分は動かない人形にされるということだけが頭を巡る。
忘れかけていた〝死〟への恐怖。
足掻くカノジョの背後には…
冷たく、美しい笑みを浮かべた…
黒い鬼が、佇んでいた。
…断末魔は、世に響いた。
運動場の片隅には、恐怖に顔を染めたショウジョの像が立っている。
決してカノジョに魅入ってはならない。
決して夜に、一人でここに来てはならない。
そこにはー
…冷徹な瞳で世を見下す、〝鬼〟が居るのだから…
…クスクスクス
▽カノジョ
この学校に宿る吸血の鬼姫
魅入った者の血を啜り、吸血鬼として自分の配下に入れる
今回ものその手はずだったが…
▽ショウジョ
いじめられっ子の女の子。
鬼化した際に諦めの間に絶望と悪と言う負の原動力を見出し、動き出す
2015/07/23
誤字を訂正しました
ショウネン→ショウジョ
元の主人公的なポジションがショウネンだったのですが…なんか変態みたいになるな、と何故か思った鈴架がショウジョに変更し、彼は降板となりました。
ので、見つけたら連絡してくださると嬉しいです。