黒の1
小学生六年の夏の事だったろうか。
初めて学校中の人間が見上げる中、体育館の最前にそびえる舞台に立ったとき、ぼくは孤独を感じた。
学校の長たる校長が一片の影も無い、脂肪がはみ出たふっくらとした顔で僕を見下し、なにやらおめでたい事を口にした。艶々とした顔の筋肉は緩みきっていて、この人は何かに悩んだりしてはいないのだろうな、と想像するとぼくはひとりぼっちの孤独さに苛まれ、その場で挫けてしまいそうになった。
ぼくは誰かに分かって欲しかったのだと思う。手にしたものが、どれほどつまらないものであるのかを――――この人生の勝利者のような校長に――――
演台を挟んで、ぼくは校長から賞状を受け取ると小さく礼をした。それが礼儀だからだ。人は形、容、型(かたち)を重んじる。他人と同じことを本能的に求めるからかもしれない。
回れ右をして、体育館の奥まで整列させられた同年代、または同じ時代を生きる同じ顔をしたこどもたちを見た。
ぼくは見世物のようだった。
まるで奇形児かピエロでも見るかのように、彼等彼女等は何の興味もない癖に、その瞳に映している。
どうしてぼくをこんな晒し者にするのだろう、と疑問が胸から出でて、それが気道を塞ぐかのようにして苦しめる。
賞状はきらきらとした金色の装飾がほどこされているというのに、その輝きはぼくが受け取った傍から失われ、鈍く周囲の色を反射させるのみで太陽の明かりや星の瞬きのように、鋭さを持って人の心に魅せるようなものはない。
称えてられるべき仕事を為したというのに―――乾いた拍手が鼓膜を突いてくる。
その日、ぼくは全てを捨ててしまいたいとおもった。
指から腕、足だって要らない。首なぞもげてしまえばいい。
こんなおもいをするくらいならば、最初から人を競わせるべきではない。
要約すれば、ぼくは人生から下りようとおもったのだろう。
なにからなにまでジューサーのように捻り潰して、きっと最後に残るのは濁った黒いものが、ぼく自身―――。
小学六年、ぼくは真っ黒だった。




